変わるもの、変わらないもの
祖母が入っている特養施設でお祭りがあったので参加した。
随分と久しぶりに祖母の顔を見た。
もう口で食べることもできないので、入れ歯すら入っていなかった。
口元がきゅっと引っ込んでいる。
前に来た時は、泣きじゃくりながらなにかを伝えようとしていたが、今はなにかを話そうともしない。話せないのかもしれない。
介助用車椅子のシートの角度だって、前よりも大きくなっていた。
会うたびに、変わってしまったと感じる。
ばあちゃん、みんな来てくれてうれしいな と話しかけながら車椅子を押す父に続いて、施設の外に出た。
施設の入り口から駐車場までの道には出店が並んでいて、駐車場にはこの日のために特設されたメインステージが見える。
観覧席の後方に祖母が座る車椅子をとめ、その横にパイプ椅子を並べて座った。
メインステージでは特養を運営する会長の挨拶が終わり、次に和太鼓の演奏が始まろうとした。
その時、肩になにかが触れた気がして振り返った。
私はキャミソールの上に薄手のカーディガンを羽織っていた。それが、ショルダーバッグに引っ張られて、肩が出てしまうことがよくある。
私の肩に触れたのは、肩から落ちたカーディガンを優しく戻そうとしてくれる祖母の指だった。
そうだった、祖母はそういうところをいつも気にしてくれる人だった。
歳を重ねるごとに変わってしまっただとか、私のことはきっともう分からないんだとか、離れていってしまったようにさえ思っていた。
けれども、祖母はずっとあの日と同じままで、私を愛してくれている。
「今日は寒いだらぁ」と言いながら、寝室まで湯たんぽを持ってきてくれたこと。
不貞腐れてなにも食べないとわがままを言った日、大好きなコロッケを買ってきてくれたこと。
友達と喧嘩して居場所がなかった時、なにも聞かずにそばにいてくれたこと。
そんな昔のことを思い出して、すこし泣きそうになったから、服を正して前を向いた。
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