見出し画像

平芳裕子『東大ファッション論集中講義』

最近はバレンシアガに夢中になっているおしゃれな先輩が『相対性コムデギャルソン論』という本を貸してくれた。
「そういえば、『東大ファッション論集中講義』っていう本出てましたよね、読みたいなー」と言った私は、帰りがけに本書を購入し、次の日に開催されたToughの読書会に持って行った。「次これやりませんか?」と言ったら二人とも快諾してくれた。

読書会メンバーのかなめくんは多少なりともファッションに興味はあるらしいが、信濃さんは「イオンとかで買いますね」と語っており、ファッションへの向き合い方は様々だ。

私は、というと、ユニクロやGUでシンプルなデザインのTシャツやパンツを多く購入している。バンドTシャツを着ていることも多い。そんなにお金がないのだ。全身の中で、ワンアイテムだけ高価なものを取り入れたり、ぐらいな感じ。

本当はどういうスタイルやブランドを好んでいるのか、それなりに趣味や嗜好があるのだが、なんだか書くのが恥ずかしくなってしまった。

本書は「ファッション論」と銘打っているので、「この時代はこういうスタイルがおしゃれで、でもすぐに廃れて……」みたいな話が展開されるのかと思ったら、もうちょっとメタな話が多かった。「そもそもファッションってなに?」といったことだ。

ファッションの源流を辿ると、「上流社会」における「作法」や「習慣」に行き着く。
たとえば、貴族のファッションには、上着に切れ目をいれて、中から下着を引っ張り出す「スラッシュ」という装飾がある。これは、「私はきれいな下着を身につけてますよー」というアピールなんだそうだ。

産業革命が起きると、安い服が大量に出回ったり、鉄道が登場したりすることで、これまで上流階級だけのものだったファッションに、中流階級も手が出せるようになる。そうすると、上流階級はもっといいものを求める。この上流階級から下層階級へと流行が滴り落ちるように普及することを「トリクルダウン理論」と言う。一部の人々の嗜好が階層を超えて伝搬するのが、ファッションの一つの側面だ。

バレンシアガの現在のデザイナーはデムナ・ヴァザリアだが、彼はグルジアという内戦の絶えない地で、過酷な環境下において生まれ育った。
デムナの立ち上げたブランド、ヴェトモン時代からその傾向はあったが、現在のバレンシアガのアイテム、たとえばスニーカーは10万円以上する新品の商品であっても、かなりハードに「汚し」の加工が施されていることがある。これは彼が生育する中で見てきた過酷な世界を反映していると言うことができるだろう。お金持ちが高い金を払ってボロボロのアイテムを身につけるという一種のアイロニーである。「トリクルダウン」の逆を行く、面白い現象だと思う。

上記のデムナについてのようなことは、『東大ファッション論集中講義』にはあまり書いていない。むしろXにいる「服垢」、古くは「ファオタ」が、基礎教養としている知識だ。たぶんデムナについての私の知識は正確ではない。服垢、ファオタの諸氏におかれましては、間違いがありましたら、やさしくご教示いただければ幸いです。

あと、面白かった点を挙げると、男性が長ズボンを履くようになったのは、フランス革命時からということ。
それまでの貴族はストッキングを履いて、美脚を誇示していたそう。
貴族的価値観を否定するために黒く朴訥なズボンのスタイルになった。これが現在に至るまで、男性のファッションとして定着しているんだからすごい。

あとは、女性のファッションの変遷もなかなか面白い。というか、女性のファッションについて語ることこそ、ファッション論の肝という感じだ。

元来、上流階級の女性は、コルセットでウエストをきつく締め、バストとヒップを強調していた。当然、身体には強い負担がかかる。
女性のファッションの歴史とは、このような拘束からの解放、そしてまた揺り戻しが起き拘束、そしてまた解放……この繰り返しだ。

筆者が20世紀のファッション史において最も重要なデザイナーとしてその名を挙げているのが、シャネルだ。
もともと女性のファッションは、配偶者である男性の富を誇示するためのものだった。シャネルはハイクラスの男性と浮き名を流しながら、上流の女性の間ではひときわ地味な格好をしていた。それが逆におしゃれということになったそう。恋人から借りたコートやネクタイを身につけたり、ズボンを履いたり。
簡単に言ってしまうと、シャネルは「よりラクな格好」を求めたんだと思う。それが女性解放のムーブメントにシンクロしたということだ。

ファッションについての言説って、服というアイテムだけ見てればいいわけでは全くなくて、いろんな思想や歴史や文脈についても語る必要があるのだなーと思った。ファッション以外にも包括的な知識が必要とされるジャンルだ。いろんな学問の交差点としてのファッション研究。

鷲田清一の著作等も読んでみたくなりました。

いいなと思ったら応援しよう!