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あげまん彼女のカオスな呑み会

これはただの日記だ。


紛れもない無益な綴り。
しかしそこに濃い生き方のヒントがたくさん隠されることになる。
だからこうして、寝る前に執筆を始めている。




7月下旬の土曜日午後。
ニュースは、花火大会で大量の人がごったがえしていると伝える。



彼女が旧友の男と呑みに行ってくると言ったので、送り出す。
よく男と呑み会に行くが、心配という感情は全くない。


終電超えで帰ってくる予定。
スタバで本でも読んでこよう。




25時。
帰宅してシャワーを浴びていると風呂の扉がガラッと開いた。



「帰ったぞー」



早めに切り上げて帰ってきたとのこと。
そこから、いつもの呑み会エピソードが始まる。
これを聞くのが地味に楽しみなのだ。



「今日はどうだった?」

「なんかビジネスホテルを2人分予約してたらしい。まあ帰ってきたけど。」

「へえ」

「シャワー一緒に浴びていい?」

「いいよ」




スタートから面白そうなネタが飛び出してきた。
残りの話は、湯船に浸かりながらでも聞こうか。





おおかた感じてはいるが、旧友は彼女を狙っている。
一線を超える意思があるかはさておき、青春時代のトキメキを取り戻したいのだろう。


ここからは旧友と彼女の会話を書いていく。



______________________________




「ホテルに荷物置きたいからさ、一旦寄ってもいい?」

「いいよ」



遠方からはるばる来た旧友。
ビジネルホテルを予約していたらしい。



効率よく呑みを進めるのであれば、集合前に置いてくるだろう。
彼がわざわざ彼女を連れてホテルに向かうのには、意味があるのだ。




「店で飲むのもいいけどさー、どっかでお酒買ってここで飲むのもアリだよね。」

「そんな腰を据えて飲むつもりはない」




荷物を置きながら話す旧友に対し、一瞬で無かったことにする彼女。
残念。
まだ何も温まっていないのにシュートは打てないよ。
最後に向けての布石だったのかな、と捉えておくことにしよう。



こんな感じで第一アプローチは失敗し、当初の予定通り飲み屋に行くことになる。




一軒目は、焼き鳥がメインの大衆居酒屋。
ここでは周りの客の存在が大きなネタとなる。



斜め前のテーブルで呑む4人組。


職場のグチでも出ているのだろうか。
「辞めちまえよ!とっとと辞めちまえ!」
と男がずっと叫んでいる。



旧友の言葉も耳に入ってこないまま、彼女はその会話に耳を傾ける。



「辞めちまえ!」



まあまあ、そう言わずに落ち着けよ。
と、同僚らしき男が諭すも、
「うるせえ!だまれ!こ○すぞ!」



なんとも酷いことを言う奴がいるもんだ。
彼女はそう思いながら、ハイボールを口に含む。



確かに、退職を勧めている親切な男かとも思うが、どうやら自分が言いたいことを繰り返しているだけで進展がないらしい。



「俺だったら絶対〇〇して△△して、最後には××と言って辞めるね!」



そう語り続けるその男は、若くして中肉中背、整っていない太眉、テカテカした髪の毛、大してカッコよくもない顔、とにかく空気を読まずに喋る、いかにも””何も成し遂げていなさそうな風貌””のお調子者。



男の向かい側には紅一点で相談者の新婚女性。

隣には、「頭痛え〜」とずっと眉間を親指と人差し指でつまみながら渋い顔をしている男性。

そしてもう一人の男は、数分おきにトイレに逃げ込むように消えてゆく。



呑み会の場として成り立っているのか、甚だ不思議である。




「うるせえ!だまれ!こ○すぞ!」
「やめちまえ!」




お前こそ黙れ。
他に言うことが無いのか。




ともかく、”辞めちまえ男”のボキャブラリーの無さには彼女も呆れていた。



___________「この男がなにかを成し遂げてる社長クラスの人だったら聞くけどさ、絶対なにもしてない人なんだよね。お前はそれを言える立場なのかと。」


後から風呂場で僕が聞いた言葉である。
まったく、その通りだ。




強い言葉を使う人間はたくさんいる。
でも、相手に意味を与えられているかどうかは全く別なのだ。



何を言うかではなく、誰が言うか。
これが全てなんだなと再認識する。




この呑み屋のネタをもう少し引っ張りたいが、”辞めちまえ男”の提供してくれたネタがこれしか無いので、ここで次の場面に移る。


改めて、ボキャブラリーと経験値の豊富さって大事なんだな。





一軒目でほとんど旧友の話を聞いていなかった彼女は、二軒目のイタリアーナな雰囲気の店でようやく会話をはじめる。



「彼女ちゃんって可愛いよね!」
「彼女ちゃん顔小さいよね!」
「今日の髪型いいね!」


たくさん褒めてもらう彼女。
前に会ったときにもよく褒めてくれたらしい。




旧友は昔から女の子の扱いが上手く、よくモテたそうだ。


顔はカッコよくないし、身長も高くない。
だけど女心をよく分かっている。



ただ、毎回同じように外見を褒められるのは飽きたし、何より””口説きゴールから逆算したような台詞””に全部気づいており嫌気がさしていた彼女。



建前ばかり飛び交う会話より、本音を出せと思ったらしい。
旧友からの会話を軽く流し、自分から切り出す。



「旧友君ってさ、私のことワザとらしく褒めすぎじゃない?ホントなのかなーと思っちゃって」



こんな直球を喰らえば、たいていの男は怯むだろう。
彼の恋愛経験を持ってすれば、攻略の糸口は見出せるはずだ。


しかし、彼女は強かった。



「ホントだよ!この店にいる人達を見てごらん。彼女ちゃんが一番可愛いよ!」

「それは知っとる」




捻り出した技を、出す前に封じ込められる感覚。
みんなも美女を口説くときは気をつけた方がいい。





結局いろいろ褒められ口説かれたものの、一ミリも揺らぐことは無かった彼女は帰宅を伝える。



「帰るのかー…」

「うん、じゃっ。ありがとー」




サクッと回避し、軸をブラさず、帰路に着く。
そして口説いてきた相手に花を添えて。


「仕事のし過ぎで体調崩してもいけないから、しっかり寝て体力回復してね〜」



攻撃を跳ね返され
言葉を失ったのち
蓋をして帰られる。



ここまで言われた男に、勝ち目は無い。
最後に優しいトドメを刺されて、戦いは幕を閉じた。



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普通の女性と、美女。
口説き方は全然違うという話を聞いたことがある。



普通の子が舞い上がる言葉でも、美女は嬉しくならない。
普通の子は言いくるめられるルーティンでも、美女は動かない。



それは彼女を含め、自信と軸が備わっているからだろう。



例えるなら、棒だ。


女の子は誰しも、自分の意見や正義みたいな棒を掲げている。
クズ男と付き合っちゃダメだとか、簡単にホテルには行かないぞとか。



口説きやすい女の子ってのは、その棒が軽くて弱い。


男の言いくるめ理論を持って「でもそうやって遊ばなかったから良い男に巡り合えてないんでしょ?」とか適当なことを言えば、棒は折れる。
あとは折れた箇所に、男が新しい選択肢という棒を入れ込めば仕上がる。



抵抗が強い女の子は、棒が強い。


言いくるめや口説きを使っても、一度や二度じゃ崩れない。
弱い男ならそこで諦めるし、経験値のある男ならあの手この手を使って粘れば、いつかは棒は折れていく。
最後は新しい棒を入れ込む。



ただ、美女はそうではない。


美女を口説く時に「美女には特有の口説き方がある」という商材を見たことがあるが、そんなモノが共通して通用するワケがない。



何故なら、彼女たちの棒は折れないからだ。
その棒は強いというより、しなって柔軟に動く。


男があの手この手を使った手法を、全て棒で跳ね返す。
強い手法を使うほどに、自分にダメージが返ってくる。




”北風と太陽”の理論を聞いたことがあるだろうか。



普通の女の子なら、北風を強くすれば崩れる。
しかし美女は、太陽作戦でいかなければいけない。



相手を照らすのだ。
それでいて、自分が下手に出ない。
相手に対しリスペクトは払う。
自分は相手を魅了する存在となる。
北風を吹かせない。
相手を輝かせる。
相手が自ら、棒を動かすのを待つのだ。



そこにテクニックがあると言うのなら、それはコミュニケーションの真髄レベル。
教材の一つ二つで身に付くものでは無いよね。
実践を繰り返すことでしか身につかない。



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ともかくとして、彼女からのネタ提供が続くこと一時間。
笑いながらようやく二人でベッドに入る。



なんでこんなに事細かく話してくれるのか。
快く呑み会に送り出してくれたことに対する、お返しのようなものらしい。



その会話の中で楽しんでくれたのなら、不安とか元々無いだろうけどその気持ちにさせないだろうし、今後も出かける時に不安なく送り出せる気持ちになるかなって。
だから話すようにしてるんだ。


彼女はそう言った。



育ちのいい子だ。
あげまん美女、みんなも捕まえよう。




この記事を彼女に見せる。

オッケー、いいじゃん。

公開するね。



ささいな日常からでも、学びってたくさんある。



そんなことに気づいて欲しい、今日の日記でした。

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