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令和に“イニD”を読む

私はどこにでもいる20代の普通の女オタクだ。

流行に乗るのは苦手だが、人からオススメされた作品はタイミングが合えば素直に見る。ファンアートを描いたり、作品をじっくりと読み込むタイプではある。それでも作品の深みにハマって、人生をメチャクチャにされることは滅多にないのだ。ないはずだった。

結論から言うと、私は「頭文字D」という作品に出会って人生が変わってしまった。まさかこの年齢になってトミカを買うことになるとは思わなかった。これまで無縁だったゲームセンターに頻繁に通うようにもなった。子どもの頃から「いつか車を持つならワーゲンのビートルにしよう」と思っていたのに、今ではマツダのロードスターの購入を決意してしまっている。

どうしてこんなことになってしまったのか。それは「頭文字D」という作品が、とてつもない魅力を持ち合わせているからに他ならない。これは車に全く興味のなかった女が、いかにして頭文字Dと出会ったのかを記したオタク備忘録である。

無縁の作品だった「頭文字D」

皆さんは「頭文字D」(イニシャル・ディー)という作品をご存知だろうか。峠でバトルする走り屋たちの熱い物語……なのだが、もっと分かりやすく言い換えるなら「一般車両が普通に通る山道でカーレースを繰り広げるメイワクな人たちの話」である。

こう書くとファンから苦情が来そうだが、実際のところ普通にメイワク行為なので、現実に今の時代で同じことをするのはかなり難しいのではないかと思う。あくまでフィクションとして楽しむ作品だ。(ちなみに連載開始は1995年。)

公道を走る車好きたちを「走り屋」と呼ぶのだが、実のところ私は、その走り屋という単語すら人生の中で耳にしたことがなかった。子どもの頃にTVアニメチャンネルのCMで見かけたことがあったので、「頭文字D」というタイトルと、車が出てくるということだけは辛うじて知っていたが、それだけだ。特に車に興味があったわけでもなく、周囲に強くオススメしてくる人間がいなかったこともあり、そもそも興味を持つ機会がなかった。

私がいかに頭文字D(以下、イニD)と無縁の人間であったかは前述のとおりだ。そんな人間がどうしてこの令和の時代にイニDを読むことになったのか?という話になるのだが、きっかけは本当に偶然だった。恐らくあんなことさえなければ一生触れずにいただろう。

始まりは群馬

今年に入ってしばらく経ったあるとき、退っ引きならない事情があって群馬県へ行くことになったのだ。もちろんそのときは群馬県がイニDの聖地だとは知る由もなかった。そしてその事情というのが非常に憂鬱なものだったこともあり、私は全く気乗りしないまま群馬へと向かったのだった。

私とイニDのファーストコンタクトは、群馬滞在中に訪れた博物館にあった。そこで、作中に登場する車を実際に再現して展示していたのだ。このとき初めて「頭文字Dは群馬県にゆかりのある作品」であることを知った。やはり興味は全くなかったが、学生時代からの友人がその昔イニDの話をしていたことを不意に思い出した私は、とりあえず写真をSNSにアップしておいた。

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詳細は省くが、その後私は人生で一、二を争うほどの後味の悪い体験をすることになる。群馬滞在の最終日には自由に行動できる時間も行きたい場所もあったが、早々に帰路に着いていた。お陰でお昼前には自宅のソファでぐったりと寝そべっている有り様だった。ソファでぼんやりとSNSを眺めていると、件の友人から車の写真に反応が来ていることに気づいた。

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出たよ、オタクのお決まりのセリフ。私のオタク友達は皆揃ってプレゼンが大好きだ。隙あらば自分のハマっている深みに引きずり込もうとする沼地のハンターそのものだ。二言目には「○○を見てくれ」で、お陰で私の「いつか気が向いたら履修する作品リスト」は常に順番待ちの長蛇の列が控えている状態だった。

いつもならそこでリストに加えるだけで、しばらくは手につけることなく、下手をすると一生触れずに終わっていたかもしれない。だが、その日は違った。群馬で最悪の体験をしてきたこと。たまたまハマっていた作品がゲームで、とてもじゃないがプレイする気力がなかったこと。視聴可能な動画配信サービスでイニDが見放題だったこと……。色んな要因が重なって、私は友人のそのたった一言であっさりとイニDを見始めたのだ。

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イニD、メチャクチャ面白いやん

アニメを見始めたら、後は早かった。あまりの面白さに無我夢中で、気づいたらその日のうちに21話までアニメを見ていた。普段そんな風に一気に作品を見るタイプでもないので、自分でもちょっと引いたくらいだ。イニDのアニメ一期、アニメーションの構成が上手すぎる。一話があっという間に終わって、早く次の話を見たい!という気持ちを駆り立てられる構成になっている。群馬の嫌な記憶のすべてが、完全にイニDに上書きされてしまった。

死ぬほど面白いし、これは原作も買うしかないな……と思って漫画を読み始めたらもう駄目だった。この作者、絵が上手いのは勿論だが、人間の心の動きの描写がとにかく上手い。この作品を車に興味がないからと言って遠ざけるのはあまりに勿体ないと思った。

そこからイニDがいかに面白い作品であるかをプレゼンしまくっていたら、周りの友人たちが面白いくらい簡単にイニDにハマっていった。やはりこの作品は、車に興味がない故に入口がなかっただけで、入口さえあればいとも簡単にハマってしまうだけの魅力のある作品なのだと再確認した。なので、私はあえてこの作品の素晴らしい点について多くを語るつもりはない。アニメシリーズはU-NEXTやdアニメストアで配信されているので、是非とも作業BGM代わりにでも観てみて欲しい。

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⇒U-NEXTはこちら

どちらの動画配信サービスも初月無料だが、U-NEXTでの配信は8月で終了してしまうようなので要注意だ。ちなみに、私がこの記事を書いたきっかけは講談社の電子書籍無料セールで、原作イニDの五巻分が無料で読めたからなのだが、残念ながらそのセールはあっという間に終わってしまっていた。非常に無念だが、私のこの記事が、読者の皆さんにとって頭文字Dに触れるきっかけになれば幸いだ。

(2021/05/21)

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