家事の完全自動化を実現? サムスンの家事支援ロボット「Samsung Bot Handy」の実現可能性を探る
さまざまな家事が家電によって行われるようになった現代。どんどん便利になっていますが、それでも面倒だなと思うことはありませんか? 例えば、乾燥機から取り出した洗濯物をたたんだり、食器洗い機からお皿を取り出したり......。そこまで家電がやってくれればなと、筆者は毎日夢見ています。
そんな人類の夢?を叶えるべく、研究開発を進めているのが総合家電メーカーのSamsung Electronics(以下、サムスン社)です。今回はサムスン社が開発する次世代の家事支援ロボット「Samsung Bot Handy」をご紹介します。
消費者として気になるのはいつ手に入るのかというポイント。その点についても、家電の歴史や技術の発展を踏まえながら考察を進めていきます。
株式会社ユニキャストは、人とロボットによる未来の共創を目指すソフトウェア開発会社です。このマガジンでは、海外の情報を中心に様々な社会課題の解決のために開発されたロボットを紹介しています。
また弊社では最新ロボットの導入支援も行っております!今回ご紹介した製品に興味がございましたら、お気軽にご相談ください。
洗濯も皿洗いも配膳も完全自動化!?
▲Samsung Bot Handy のイメージ動画 サムスン社Youtubeチャンネルより
Samsung Bot Handyのコンセプトは、サムスン社の目指す未来を表すプロダクトの一つとして「CES 2021」で発表されました。イメージ動画では、同ロボットが食器洗い機に汚れたお皿をいれたり、衣類を片付けたり、さらにはグラスにワインをついだり、とまるで人のように家事をこなしています。
サムスン社によると、このロボットは最新のAI技術を活用し、物を掴んだり移動させたりする際の適切な力加減の算出が可能に。これにより、掴むべき対象のサイズや形、重さ、素材などを判別できるように開発を進めているようです。また、動画を見る限りですと、ロボットが人による直接的な操作なしで走行する自律走行も前提としているようです。
Samsung Bot Handyは研究開発段階の製品であり、その詳細はまだ明らかにされていません。こんな便利なロボット、実現するのが待ち遠しいですよね? そこで今回は、家電普及の歴史やSamsung Bot Handyを支える技術に着目し、その実現可能性について考察します。
冷蔵庫なら130年、ロボット掃除機なら10年?
今、私たちの生活はさまざまな家電によって支えられています。しかし、そのほとんどはこの過去100年に開発されたものばかりです。いったい、どれくらいの期間で普及したのでしょうか?
▲初期の冷蔵庫(左)と最新の冷蔵庫(右)東芝未来科学館と東芝ライフスタイル株式会社Webサイトより
三種の神器とも呼ばれた昭和の代表的な家電といえば冷蔵庫です。東芝未来科学館によると、初めて冷蔵庫に準ずる冷凍方式が開発されたのは1834年、家庭用電気冷蔵庫が初めて製造販売されたのは1918年だといいます。
その後、1923年には日本に輸入され、1930年代には国産の電気冷蔵庫が販売されるようになりました。家庭電気文化会によると、冷蔵庫の普及率が50%を超えたのは1965年。ほぼ100%になったのは1970年代半ばだそうです。
つまり、家庭用電気冷蔵庫の前身の開発(1834年)から市場に出回ったであろう時期(1965年)までに131年。もしくは、家庭用電気冷蔵庫の製造販売(1923年)から一般的な普及(1965年)までが42年となっています。
もしSamsung Bot Handyの普及に131年かかってしまったら、その頃には私はこの世にいません。42年ならなんとか......。しかし、冷蔵庫開発がくぐりぬけてきたのは激動の時代。ではより最近生まれた家電はどうでしょうか?
▲iRobot社のロボット掃除機ルンバ iRobot社公式サイトより
最近の家電といえば、「ルンバ」に代表されるロボット掃除機。皆さんに最も身近なロボットの1つではないでしょうか? テックマークジャパン株式会社が行った全国の男女400名を対象とした調査によると、平成を象徴する「新・三種の神器」にもロボット掃除機が選ばれています。
カリフォルニア工科大学研究者Paolo Fiorini氏らの研究グループによると、工業用ロボット掃除機のプロトタイプが発表されたのは1980年代半ばで、家庭用のものは1990年ごろ。1990年代後半にはスウェーデンのElectrolux社や英国のダイソン社等5社によって、製品として販売されるようになりました。
その後、代表的なロボット掃除機であるルンバが2002年に発売され、メーカーのiRobot社は2017年に日本法人を設立しました。今日では、iRobot社だけでなく、パナソニックやANKER、サムスンなどさまざまな企業がロボット掃除機の開発、販売に進出しています。日本の家庭での所有率はおよそ9%(マイボイスコム株式会社の調査)とまだまだ低いですが、しかし価格は5万円前後と手が届かないわけではないレベルにはなっています。
ロボット掃除機を見てみると、その前身やプロトタイプの開発(1990年ごろ)から市場で安定的に出回るまで(2000年前後~現在)まで10年から30年かかっています。これくらいのペースでSamsung Bot Handyも普及してくれれば、手に入る頃にも生きていられそうです。
人の操縦なしで走行する自律走行機能
では、Samsung Bot Handyに必要な技術はどれほど発展しているのでしょうか? 次に、自律走行、ロボットアーム、画像認識といった構成する技術を見ていきたいと思います。ロボットが自分自身で移動する、最初に紹介する「自律走行」の機能がついたロボットは近年急速に増えてきています。
▲自律走行をする配膳ロボット「BellaBot」 Pudu Robotics公式サイトより
例えば、日本でも焼肉店などで導入が進んでいる配膳ロボット。他にも、走行しながら周囲を監視するセキュリティロボットや、食料品店の棚の在庫を走行しながらチェックする店舗棚チェックロボットも活躍しています。
このような自律走行ができるロボットの多くは、事前に作成されたマップに沿って走行し、タスクを完了させていきます。例えば、配膳ロボットの場合、ロボットには事前に各テーブルまでの道のりを記憶させます。そして、ロボットに接続されているタブレットなどで「3番テーブル」など目的地を指示すると、そこまで走行していくという仕組みです。
Samsung Bot Handyも、キッチンや洗濯機までの移動方法をマップで記憶させ、「洗濯物を取り込む」と指示したら「洗濯機の場所まで行く」ようプログラミングすれば、家の中で問題なく自律走行ができるように思います。
また、ロボット掃除機には障害物回避機能を実装しているものもあるので、椅子を出しっぱなしにしていた、といったケースにも対応できそうです。
▲障害物をよけるロボット掃除機「RULO」 パナソニック Youtube公式チャンネルより
掴む対象を識別する画像認識
Samsung Bot Handyがタスクを行う際には、掴む対象のサイズや形、重さ、素材を判断する必要があります。そんな時に活躍するのは、画像認識技術でしょう。画像認識サービスを提供するNECによれば、その認識精度90%越えは今や当たり前だといいます。
NECの紹介する事例で言うと、食品加工大手のキューピーは画像認識を利用し、原料に紛れ込んだ異物の発見に役立てています。また、理科学研究所と国立がん研究センターでは、早期胃がんの自動検出に成功しています。
▲店舗棚をロボットが画像認識技術を利用してチェックする様子 Simbe Robotics公式サイトより
ロボットでも、画像認識技術は多く活用されています。例えば、雑草を除去する農業用自走ロボット「LaserWeeder」は、撮影した地面にある雑草を画像認識技術で検出。店舗棚チェックロボットも、棚を撮影しながら走行し、そこから間違った場所に置かれている商品を検出することができます。
多くのシーンで活用されている画像認識技術。Samsung Bot Handyが利用することももちろん可能でしょう。ただ、現在の画像認識技術の対象は、異物や雑草など明確で1つのものが多いのも事実です。家庭というランダムに物が置かれたり、増えたり減ったりする環境で、さまざまな対象をどう認識するのか。より高精度なものが要求されるでしょう。
ロボットアーム
Samsung Bot Handyの実現に向けた鍵となるのは、物を掴むその「腕」と「手」です。これにより、食器洗い機にお皿を入れるなど家庭でまだ機械化されていないタスクを自動化させることができます。
ロボットの手と腕、つまりロボットアームも自動車から電子部品、食品、倉庫業から医療まで、さまざまな領域で利用されています。例えば、以前本マガジンで紹介した倉庫ロボットの記事では、OSARO社のロボットアームが薬のボトルや電子部品のピッキングを行い、所定の位置へ移動させています。
▲お弁当に具材を載せるロボットアーム OSARO社公式サイトより
また、ロボットアームを開発するデンソーウェーブもその活用シーンを紹介しています。ロボットアームを使用してお弁当の盛り付けを行ったり、薬品の分析作業を行ったり、ネジ締めを行ったり......。さまざまな場面において、ロボットアームが活躍していることが伺えます。ただし、これらのロボットアームはひとつの特定のタスクに対応していることがほとんどです。そのため、アームの先はそのタスクに特化した作りになっています。また、重量もあり、固定されたまま利用されることが前提でもあります。
Samsung Bot Handy1台にさまざまな物を掴ませたいのであれば、そこにはさらに進んだ技術が要求されるでしょう。ガラスや陶器を持つ際などの繊細な力加減の調節も不可欠です。移動をしたり、アームの上げ下げができるように軽量化したりといったことも必要になるかと思います。
しかし、世界で14箇所の研究開発施設と7箇所のAIセンターを持つサムスン社です。その技術力で、いつかは実現してくれるのではないでしょうか。10年、いや20年くらいで実現し、私を家事から解放してほしいものです。
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