「愛着アプローチ」究極のキャリアコンサルタントは母親?
1on1での学び
私は、定期的に部下との1 on 1ミーティングを実施し、日ごろ直接一対一で話す機会の少ないメンバーの状況や課題を共有するようにしている。
その内容は部下の個性によって様々なパターンがあり、業務の内容を中心に話をするメンバー、仕事の中で感じた愚痴や悩みを話すメンバー、自分の個人的な興味関心を話すメンバーなど、メンバーそれぞれのスタイルがあっておもしろい。
1 on 1は、本来、「課題を解決するために実施するものであり、上司・部下ともに事前準備をしっかりしておくことが必要。雑談になってはいけない」と研修では教えられるが、正直なかなかその余裕もなく、部下を理解し、部下との距離感を縮めるためのインフォーマルなコミュニケーションの時間として割り切って活用している。それだけで、十分効果的だ。
1 on 1は、部下の社員の成長を促すためのツールであるが、当方にとっても新たな気付きや学びの場にもなっている。
先日、ある部下と能力開発について話をしている際「愛着アプローチに滅茶苦茶はまっていて、本を何冊も読んでいるです」と本を紹介された。なんでも、本人が兼務で所属しているもう一つの組織のメンバーには結構主張が強い人が多く、その理由を解明したいと考え心理学や精神医学の本を読んだらしい。
その中で、この愛着アプローチという考え方に対して多くの発見があり感銘し、その著者の本を何冊も読み漁ったそうだ。また、その考え方を理解することで、主張の強い人に対して嫌悪感を感じるのでなく客観的に理解できるようになったり、自分自身の偏った考え方についても認識し改善することができたとのことだった。
愛着アプローチ
早速、一冊本を推薦してもらい読んでみた。
「愛着アプローチ 医学モデルを超える新しい回復法」岡田 尊司
これは、著名な精神科医であり作家でもある筆者が、病気に対する一般的な医学的なアプローチに対する限界と、それに代わる愛着アプローチという考え方、およびその実践方法を説いた本である。
一般的な医学的なアプローチとは、症状の背後にある病気を診断し、診断に基づいた治療法によって病気を治そうとするアプローチである。しかし、特に精神的な疾患については薬で根治が期待できるものはごく限られており、一時的に症状が抑えられても薬をやめたら症状がぶり返すということが多い。これが薬物療法を中心とする医療の限界だと筆者はいう。
それに対して、愛着アプローチは、患者の心の「安全基地」となる患者が愛着を持つ存在である親や家族が、本人の味方になってサポートすることで、精神的な支えとなり、精神的に不安定となる部分や病気を取り除くという考え方であり、医学的なアプローチの限界を超えたアプローチであるという。
医学的なアプローチに対する限界について、明確にその限界を記した論には初めて接し、その考え方は私自身が普段薄々と感じている疑問を明快に説明してくれるものであり、非常に興味深く読むことができた。
究極のキャリアコンサルタントは母親?
また、本書はキャリアコンサルティングについても多くのヒントを得られるものであった。
愛着アプローチは、ジョン・ボウルビィというイギリスの精神学者が、非行少年の多くが母親からの愛情不足を味わっていたという事実から、母親と子供との愛着という結びつきが、子供の精神状態にとって重要な役割をもっていると発見したことから生み出された。キャリアコンサルティングで言うところの受容・共感・一致ができるのは、まずは、親やパートナーであり、家族にその役割を果たしてもらうことで本人の精神的な問題を解決しようというアプローチである。
カウンセラーは、家族が「安全基地」になれない場合の代替の役割として位置づけられている。また、相談者と愛着という結びつきを育てるための方法やトレーニングについて詳細な記載もされており、受容・共感・一致に課題を感じているキャリアコンサルタントにも役に立つ内容になっている。
キャリアコンサルタントが直面する難しさの一つに、相談者に対してその気持ちに寄り添う前に、ついつい問題の事象にばかりに気を取られてしまい、相談者の気持ちに寄り添うことを忘れてしまうということがある(私もよくその穴にはまってしまう)。愛着アプローチの「キャリアコンサルタントは相談者の家族の代替であるという考え方」は、相談者が自分の子供や家族と考えて接するというキャリアコンサルタントにってのあり方の一つかもしれない。本人の気持ちにより寄り添い、本人の抱えている状況に対して親身になって考えることができる一つのヒントになりそうだ。
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