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Day.13 下痢の診療メモ【総合診療トピックゼミ

<なにはともあれVital Sign>

 下痢は、例えば水様便という形で大量に水が体から失われる疾患である。回数や量によっては、水が失われ過ぎてショックになる場合もある。下痢を見たら、まずは循環血液量減少(脱水)になっていないかを確認する必要がある。また、下痢が進むと電解質異常を生じる場合があることも頭の片隅に置いておく。

<まずは、急性下痢と慢性下痢に分ける>

 下痢の原因を考える際には、症状発症から4週間未満の急性下痢と、4週間以上持続している慢性下痢に分ける。これは、期間によって想定すべき疾患が異なるからである。
 但し、期間を跨いで下痢を引き起こす”原因”として忘れてはならないものが1つある。薬剤性である。内服薬を確認しよう。

<急性下痢だったなら>

◇ウイルス性腸炎が頻度的には最も多い。バイタルが安定していて、ウイルス性腸炎の経過に矛盾しなければ、検査不要、処方不要である。
☞小腸型(水様便、嘔吐が伴いやすい、腹痛が強くない、血便がない)であれば、ほとんどがウイルス性腸炎である。

◇細菌性腸炎を疑う場合には、便塗抹標本、便培養、採血を行う。また、血便があるならベロ毒素の評価を行う。
☞大腸型(血便、強い腹痛、テネスムス、発熱)の症状であれば、細菌性腸炎を疑って上記検査を検討する。

◇ただし、細菌性腸炎を疑っても、全身状態良好であり、リスクとなる既往もない状態であれば、抗菌薬なしで対症療法でよい。逆に言えば、細菌性腸炎を疑っても、全身状態が良好で対処療法をすると決めているなら、検査の省略も検討できるだろう。

◇グラム染色でgull wingが認められるなら、キャンピロバクターである。鶏肉の経口摂取で発症する。細菌性腸炎の原因としては最多である。
☞軽症なら対症療法、重症例ではアジスロマイシンを使用する。

◇サルモネラ感染症であれば、菌血症、血管内感染のリスクがあるため、
〇50歳以上
〇人工物の植え込みがある
〇免疫抑制状態にある/HIV患者
等の場合には、レボフロキサシンの内服を考慮する。
但し、検査でサルモネラかどうかわかるに時間がかかるため、大腸型かつ症状が強い場合には、レボフロキサシンの経験的処方を行う。

◇悪名高い腸管出血性大腸菌(O-157)についても、基本的には脱水補正のみで抗菌薬は不要である。

◇虫垂炎は腎盂腎炎、レジオネラ肺炎、アナフィラキシーも下痢を主訴として受診することがあるので、ご注意を。

<慢性下痢だったなら>

◇鑑別として上がってくるのは
〇過敏性腸症候群
〇大腸癌
〇炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)
〇甲状腺機能亢進症
〇慢性膵炎
等である。

◇慢性故に、Vital、全身状態が落ち着いているのであればじっくり鑑別ができる。

◇対応としては、採血(甲状腺マーカーや膵酵素も含めて)を実施するとともに、下部消化管内視鏡検査に進む形となる。

<Column>

 検査を行わずにウイルス性腸炎と診断をしたとしても、そのときの姿勢によって、ゴミ箱診断と経過観察は違うと個人的には思う。経過観察におけるウイルス性腸炎は暫定診断である。身体所見を確認して、虫垂炎でも膵炎でもなさそうである。症状も小腸型であり重篤感もない。万が一この後に重症化したとしても、体力があり、何かあれば病院に来てくれる方なので、悪化した後でも対応が十分に間に合う。だから、このまま治ればよし、新規の症状が出てきたら、さらに情報を追加して鑑別を絞ろう。そう思って行う診断は、きっとゴミ箱診断ではなく、暫定診断と経過観察だと思う。

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