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音源編集備忘録

「すみだ川ラジオ倶楽部」は録音したものをそのまま公開しているわけではなく、音源編集、いわゆるDAWソフトでの作業を行ったうえで作品として公開をしています。その作業は「今日のたかまつ アーカイブス」に引き続き、演出の阿部が担当しました。
音源編集のバックグラウンドを持たないため、やりたいことに合わせて都度方法を調べつつ作業するという進め方で、まだまだ未熟なところがありますが、今後の自分のためにも今回具体的にどのような順番で音源を仕上げていったのか記録をしたいと思います。

声の収録

今回の作品は、それぞれどこから放送しているラジオなのか、どういう質感を持っているのかということがテキストに書き込まれています。例えば「夢見るひとの放送局1」は「飲食店の音が聞こえている。男が話し始める。」とあったり、「安藤さんの放送局」は旧綾瀬川との合流点現地で放送している設定になっている、など。
なので、まずはひとつひとつどうやって録音をするかの計画を立てました。現地で録るか、バラバラに録って環境音と重ねるか、クリアに音声を取れていることが重要か、ある種の趣味感、アマチュア感もありか、など。
「夢見るひと」シリーズや「安藤さん」はいわゆる個人放送感が強いのですが、「老戦士たち」はコミュニティFMで、一方「歩むひと」はそういう次元の外側にいるかんじもする。そういう中で、コンデンサーマイクを使ってできるだけ原音をクリアに録音したほうがいいか、そうでないかを考えました。

◯コンデンサーマイク(AKGのP420)で録音
「歩むひと」スタジオで収録
「老戦士たち」スタジオで収録
「恋するひと」ビルの一室で収録(生活音がする)

◯ダイナミックマイク(SM57)で録音
「夢見るひと」室内や野外など内容に合わせて場所を変えて収録
「安藤さん」現地で収録

「4.恋するひとの放送局」収録(出演:石渡愛)
「7.安藤さんの放送局」収録(出演:矢部祥太)

環境音の録音

「夢見るひと」や「歩むひと」には、テキストで環境音の指定がありました。「夢見るひと2」は「朝、自宅で収録しているようだ。洗濯機の音などが小さく聞こえる。」など。音源を聞いた時に、その人がどういう環境で放送しているのか想像が働くようにしたいと考えました。
環境音の録音は基本的にZOOMのH6を使いました。マイクは付属のステレオマイクです。自宅で洗濯機を回したり、隅田川沿いで高速道路の音を収録するなどしました。

「6.夢見るひとの放送局3」環境音の収録(白鬚橋のたもと)

音源の編集

そうして集めた素材をauditionで開きます。
いろいろと探った結果、最終的には以下の流れで処理をしていきました。

  1. ノイズの除去・・・ミニFMらしさを残すときはやりすぎないように注意。「安藤さん」は背後から轟音が聞こえることで空間感があったので除去せず、など。

  2. イコライザー・・・誰かの受信機がキャッチした放送を録音した、という質感を目指したため、まずラジオには乗りにくい(であっているのかしら?)2000kHz〜と〜200kHzはカット。あとは個別の作品のイメージに合わせて高音域と低音域を調整。初期はグラフィックイコライザでいじっていたが、途中からFFTフィルターでの調整に切り替えた。視覚的にわかりやすいため。声だけでなく環境音もイコライザーで調整。でも声と全く同じにすると何の環境音か聞き取れない場合もあり、環境音はすこし原音の音域を残し気味にしてみた。また「老戦士たち」に出てくる音楽も、高音域と低音域を少しずつカットしている。

  3. コンプレッサー・・・声の大小をそろえて出力レベルを決めるものと理解。それぞれで収録時のレベルが違うので、個別に数値を調整した。コンプをかけすぎると音がおかしくなり、かけないと声量のばらつきがそのままになるので、微調整を繰り返した。ここまでは個別音源についての処理。

  4. リバーヴ・・・今回は「老戦士たち」の「ふつおたのコーナー!」のみに使用。

  5. ディエッサー・・・サ行を話すときに出がちな歯擦音を除去するもの。今回はまだ使いこなしきれなかったが、一応すべての声にかけた。

  6. ミキシング・・・調整した音源同士を重ねる作業。基本的には声と、環境音と、ホワイトノイズの3種だったが、ホワイトノイズは声よりも手前に、環境音はマイクの向こう側に聞こえるようだといいなと思い、もう一度コンプレッサーやイコライザーに戻りながらいいバランスを探した。また、タイミングも調整。大変だったのはセリフの間合いを調整する場合とノイズの演出。セリフの間合いは収録した声を適宜バラして、ことばとことばの間合いを調整する作業。すべての作品でやったわけではないが、仮作業したものを現地で聴いて、必要だと感じた作品ではやった。0.1秒単位の調整の連続。ノイズの演出は、誰かのラジオのチューニングがあって聞こえてきた、という聞こえ方を目指すもの。実際のラジオの選局ダイヤルを回して、チューニングが合うときの音を探るなどもした(一瞬無音を感じるなど)。ラジオでは「ザッ」というトランシーバーのような音はしないが、架空のラジオなので、変な放送に周波数があってしまった感のためにつくった。あれは0.1秒くらいだけホワイトノイズの音量を大きくしてつくっている。フェードインやフェードアウトもここで調整。

  7. パンをふる・・・「老戦士たち」などでは、二人の声をLとRに10%ずつ振った。こうすることで2本のマイクで2人が話しているという空間のかんじが出たはず(たぶん)。「歩むひと」も、歩きながら少し顔を横に向きながら話しているイメージがあったので、10%程度Lに振った。

  8. リミッター・・・音源の出力を一定まで上げる&それ以上越えないようにするもの(と理解している)。全トラックに入れて、-6dbまでという設定にした。

  9. ミックスダウン・・・ここまでやったらひとつの音源として書き出す。

  10. ミックスダウン音源にリミッター・・・書き出した音源にもう一度リミッターをかける。ここでは-3dbまでとした。こうすることで最終的に再生したときの音圧を稼げたはず。(でも全然見当違いなことをしている可能性もある)

  11. 完成した音源をアップロード

だいたいこんな感じだったと思います。まだまだコンプレッサーなど、よくわからないまま使っているので、プロからしたら噴飯ものかもしれませんが、これは経験を積んでいくしかないという実感もあり、次に音源編集をするとき戻ってこれる資料として書き出しました。

モニターヘッドフォンとスピーカーを行ったり来たりして音を確認しながらの作業でしたが、特にスピーカーがモニター用のスピーカーではなかったので、次までにはモニタースピーカーがあったほうがいいなということも感じています。こうやって機材が増えていく・・・。

(阿部健一)


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