ポストアポカリプスとか
2月の初旬、雪が静かに舞う温泉宿へと辿り着いた。予約の電話をする度に何度も挫折していたけれど、遂に長年の憧れであった場所に訪れることが叶った。
部屋に一歩足を踏み入れると、窓ガラス越しに広がる雪景色が静かな美しさで迎えてくれた。この外界から隔絶した空間で、一時的にでも世間の喧騒から逃れることができる。
窓の外では、夕暮れがゆっくりとその色を深め、空はオレンジから深い紫へと移り変わる。夜が深まるにつれて、外の冷たい風景とは対照的に部屋は温かい光で満たされていった。旅の疲れが徐々に心地よい休息へと変わっていくのを感じる。机の上のタブレットからは静かに光が漏れ、画面では旅の途中で発見した作品が再生されていた。それは、文明が崩壊した後の世界を描いた、ポストアポカリプスをテーマにした物語だ。
部屋の暖かさに包まれつつ、外の世界を静かに観察する。舞い降りる雪の様子と、それが作り出す静寂、物語の中の荒涼とした風景が混ざり合い、表現しがたい無常感とほのかな満足感が心を満たしていく。
翌日は温泉宿を巡る計画があったものの、結局その日は物語の世界にさらに深く没頭することになった。
明け方が近づき、ベッドに寄りかかりながら、手にしていた電子書籍、原作の最後のページを読み終え顔を上げた。一夜で新たに積もった雪が外の世界を新しい朝の静けさで包んでいる様子を目にすることができた。
出発する前に、鏡に映った自分をじっと見つめた。髪を耳にかけると、旅立つ前には見過ごしていた日々の重たい疲れがはっきりと見て取れた。そして、無理に笑顔を作り、心にもない言葉を交わす日々が再び始まろうとしていることに、深い絶望を感じた。この短い逃避行が、結局は何も変えることができなかったのだ。外に広がる雪景色が、ぼんやりとした朝の光の中で、さらに冷たく、遠く感じられた。この閉じた世界に閉じ込められたまま、未来には何の約束もなく、ただ過去の影が長く伸びる中、私は再び日常へと戻る。
おうちゃく?なのでTwitterとかinstaにあげた写真です。時間があったら増やしてみます。