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マンダリンオリエンタルホテル

5月の終わり、私は疲れた体を抱えて日本橋三井タワーのホテルに到着した。高級(知らないけど)ホテルではあるものの、最近は接遇の質も下がり、特別な期待は寄せていない。ただ、綺麗な景色を楽しむためだけにしばらくの期間滞在をする。防音にはやや難があるので、可能な限り隣室に人がいない部屋を準備してもらう。部屋に入ると、心地よい静けさが広がり、柔らかなシーツに身を沈めて穏やかなひとときを過ごしたいという思いが自然と湧き上がってきた。

内装は木材や自然素材が多く使われたアジア風。落ち着いた雰囲気が心地よい。暖色系の照明と調和し、都会の喧騒から逃れたかのような静けさ。窓の外に目を向けると、目下には日本銀行が見える。その周りには、丸の内のビル群が裏側から見える美しい景色が広がっていた。何も考えずに外を眺めていると、夜の帳が降り、都市の灯りがきらめき始める。

他の人がいる場所で食事をするのは避けたくて、夕食は部屋で取ることが多い。運ばれてきた料理はどれも丁寧に作られていた。だけど、その味わいを心から楽しむことはできな買った。心の中は、日々のストレスと仕事の不安が絡み合い、どこか満たされない気持ちが残っていた。

食事の後、バスルームに向かった。浴室は狭めだけれど、その包み込むような小さな空間がむしろ心を和ませてくれる。温かいお湯に体を沈めると、全ての重荷から解放されるような感覚が広がった。湯気に包まれた空間で、体の緊張が少しずつほぐれていく。静かな水音に耳を澄ませながら、次第に不安の波が落ち着いていく。優しい時間の中で、ほんのひとときだけでも現実から逃れ、安らぎを見つけることができた。

お風呂から上がり、私はベッドに入った。柔らかなシーツに包まれながら、静かな夜のひとときを楽しむ夜の民(よるのたみ)となる。iPadでお気に入りの本を開き、物語の世界に没頭する。現実を忘れ、心が解きほぐされていく瞬間。シーツに包まれながら、iPadを手に取り「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」を開く。このSF小説は、辺境の惑星を舞台にした物語で、デコンパという宇宙船の操縦士が大気を泳ぐ珪素生物の魚を獲り、そしてその魚を糧に生活する人々を描いている。シーツに包まり、その独特な世界観に浸りながら、日常から一時的に逃避する。

翌朝、窓の外を見ると、東京の朝の光が一日の始まりを告げていた。外の世界はもう動き始めている。だけど、私の心はまだ重たい。朝食はお粥を選び、温かいお粥を口に運びながら、今日も「理想的で」「できる人間」を演じなければならないプレッシャーが頭をよぎる。

ホテルは、人を避けたいという願望を一時的に満たしてくれる場所だった。部屋の静けさとプライバシーが包み込み、一瞬だけ心を軽くしてくれる。だけど、それも束の間の安らぎで、心の奥にある不安や空虚感は消えることはない。


 前のおふろしゃしんとか。下手です。

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