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『8hのメビウス』あとがき -メビウスの作り方-②

ウンゲツィーファ主宰の本橋です。
先月末に終了したウンゲツィーファの10周年記念公演『8hのメビウス』(2024.10/18~10/27 @スタジオ空洞)について、脚本演出家である自分なりの「あとがき」を何回かにわけて書いています。

前回の記事

今回は主にキャラクターの話しになります。

○主要キャラの誕生

・シバタ

ベースロケーション「合同会社メビウス」の倉庫の誕生と共に地縛霊のようにロケーションと共に生まれたのが「シバタ」というキャラクターでした。

シバタ(演者:近藤強)
50代の中年男性。メビウスのアルバイトスタッフ。
メビウス創設時からバイトしている。
自営業で車の修理の会社をやっている。

「なぜかずっといる偉そうな中年のバイト」というイメージのキャラクターです。
合同会社メビウスはざっくり言うと、「流行に合わせてできたが中身が伴ってなくて10年後には消えていそうな中小企業」です。
シバタはその会社と人々が放っておけなくてずっといるわけです。

シバタにはモデルがいます。構想の種となった僕のバイト先での諍いの渦中にいた人物です。

シバタが良かれと思ってやることが他の人たちにとって加害になっていく。
メビウスにシバタがいることで物語が動いていく確信がありました。

余談ですが、シバタのキャラは最初から勝手に近藤強さんに演じてもらうことを前提に考えてました。
舞台装置的な役割が強いキャラクターですが、近藤さんなら命を宿してくれると確信していました。

シバタに対応する形で他のキャラたちも生まれていきます。

・コミネ

次に生まれたのがシバタと対立する立場で主人公のような位置づけとなるキャラクター「コミネ」です。

コミネ(演者:黒澤多生)
合同会社メビウスの社員。妻子がいるが職業が安定しない。
メビウスに来て2年目だがシバタとの関係悪化で辞めてしまう。

シバタの加害の一番の被害者で、観客が最初に同調する主人公的キャラとしてコミネを作りました。
コミネのキャラクター像は「シバタが衝突しに行く」ことを前提に作られています。
コミネを端的に言うと「いつも不幸そうにしている人」です。
ハッキリした意思を持たず、「自分は不幸だ」という殻を被ることで心の底から傷つくことを避けています。
趣味もなく、炎上系ユーチューバーの動画を見ることで生きるうえでの「インスタントな刺激」を摂取しています。

「幸福を勝ち取る」ことにベクトルを振り切ってるシバタと
「不幸に身を隠す」ことにベクトルを振り切ってるコミネの対立

二人のキャラの誕生により、以下のログライン(お話の概要)が出来上がりました。

「劣悪な環境の中小企業の倉庫で社員のコミネが中年のアルバイトのシバタから暴力を受けて仕事を辞めて、復讐に踏み切るお話」

○枝分かれしていくキャラ達

ここから二人のキャラの其々のバックボーンを作っていくのに合わせて、枝分かれするように他のキャラ達も生まれていきました。

コミネを掘り下げる為に家庭のロケーションを作り、それと共に妻である「サチ」が生まれました。

コミネの復讐を導くメンター的存在としてユーチューバーの「ノヅマ(ワロボロス)」が生まれました。
因みに復讐内容を「配信」にしたのは、物理的な攻撃ではなく「レスバトル(ネット的議論)」としての復讐にできるからです。
物理的な攻撃だと会話劇では表現しにくい(嘘の要素が大きくなりすぎる)のですが、議論自体が復讐に繋がる「配信」という手段は、議論が「停滞」ではなく「お話の前進」を生むという点で非常に便利でした。

キャラや物語は僕の意図から生まれるわけですが、それぞれ思わぬ形にドライブしていきます。
例えば「サチの母」はコミネへのハードルとして生まれたキャラなのですが、脚本を進めるにつれて「サチ」のバックボーンを浮き彫りにする役割が主となっていきました。

・シバタのハードルとなるサカヅキとアスナ

シバタのウィークポイント(弱点)を作る為に娘の「アスナ」が生まれました。
シバタは妻と離婚していて、アスナとは疎遠になっていたが、仕事を引退するタイミングでいつかの夢だった「家族とキャンピングカーで日本一周の旅をする」ことを実行したくなり、アスナに会いに行きます。

最初は距離をとられるのですが、過去のことを謝罪したりとアプローチを重ねるうちにアスナからとあるお願いをされます。
「彼氏と同棲したいから反対してる母を説得してほしい」という内容です。
シバタはそれを受け入れます。
しかし、彼氏がメビウス社員の「サカヅキ」だと判明し、シバタは愕然とします。
サカヅキとは酷い下ネタを言い合う仲で、「彼女がメンヘラで別れたい」という話しや浮気してる話しなど散々聞いていたし、シバタはシバタで「メンヘラとか一番無理」と否定したり「コスプレさせれば?」とふざけて言ったりしていたのでした。

サカヅキというキャラクターはコミネと同時に生まれたキャラクターでした。合同会社メビウス内部の人間でシバタと敵対するコミネに対して、うまくやってるのがサカヅキです。
シバタとサカヅキが下ネタで笑い合ってる横でコミネが黙々と作業しているというシーンはかなり初期の時点で構想していました。
アスナというキャラができてから「アスナとサカヅキが付き合ってる」という展開を思い付きました。
それによって、シバタの会社内での横暴な態度が後に自分に突き刺さっていく、という流れを作れました。

サカヅキは端的に言うと「目の前の幸福にしがみついていたい人」です。
シバタにとってサカヅキは過去の自分でもあります。

○自我を持っていくキャラ達

前記してきた通り、キャラ達はなんらかの意図のもと生まれていったわけですが、俳優の皆が演じていく中で自我を持ち、意図を超えて主張していきます。
アスナというキャラがシバタのウィークポイントを作るために生まれたと言いましたが、アスナは物語の終盤で「私は私の幸せを死守する」と宣言します。シバタやサカヅキとは関係ない、アスナというキャラ自身の主張のように思っています。

このシーンはプロットの段階では全くなく、リハーサル(稽古)を進めていく内に発生しました。演者の百瀬さんとの対話によって生まれた側面が強いと思います。

このようにして、最初にできたシンプルなログラインから多様な視点を持った群像劇に発展していきました。

今回はここまでです。
次回は演出的な話になる気がしています。
ではまた!

『8hのメビウス』上演台本販売ページ


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