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『8hのメビウス』あとがき -メビウスの作り方-③

ウンゲツィーファ主宰の本橋です。
先月末に終了したウンゲツィーファの10周年記念公演『8hのメビウス』(2024.10/18~10/27 @スタジオ空洞)について、脚本演出家である自分なりの「あとがき」を何回かにわけて書いています。

前回の記事

今回は美術や転換について書こうと思います。

○舞台装置の決定

台本の第一稿が上がった時点では舞台装置は決まっていない状態でした。
8月末のリハーサル(稽古)初日に会場下見があり、実際に会場を見た直後に
プランを立てました。

舞台監督兼出演の黒澤多生くんが作った平面図

ソファとローテーブルの乗った四角い台が二つ書いてありますが、これは台の下にキャスターが仕込まれた可動する台で、主に2パターンの置き位置があるということが示してあります。
この台は「リビング台」と呼んでいて、台上に主にコミネ家のリビングとなるセットが置かれています。

・リビング台

リビング台は作品冒頭の時点では幕裏にあって見えない状態です。図面の右側の波線の奥の空間です。
「幕裏」と書きましたが波線の部分はいわゆる暗幕ではなく、工場や倉庫でよく間仕切りに使われている透明のビニールシートのようなもので仕切られている状態です。

舞台は冒頭の時点ではベースロケーションとなるメビウス倉庫です。
お話としてもメビウス倉庫内での出来事のみです。そこから、コミネ家のシーンになるところでお話が初めて倉庫の外に展開します。
それに合わせてリビング台が登場します。

リビング台は最初、メビウス倉庫で使われている巨大な台車として運ばれてくるという流れにしました。
会社内に一人の社員の私情が物理的に流れ込んでくる、という仕掛けになっています。

執筆段階でリビングは台上げ(平台などで高さを出す)してエリアを作るか、或いはフラットな地面にザイルで円を作り、その中をリビングエリアにするか、等考えていてました。
台上げは見た目が重たすぎるのでどうかと思っていました。ただ、高さが違うエリアがあるのは色々遊べて良いだろうなというのはありました。
例えば台の縁に座れる。縁に座ることでメビウス倉庫でもリビングでもないところを表現できると思っていました。

ザイルで円を作ってエリアを表現するのはとてもクールだと思っていたのですが、会場下見をして台にキャスターをつけて引っ張るアイデアを思い付き、そちらに軍配が上がりました。

メビウス倉庫とコミネ家リビングの展開は決まったのでそこから他のロケーションへの展開を考えました。

・ファミレス

メビウス倉庫で事務机として使われている長机を使ってファミレスのテーブルを表現しました。
もともと長机は一つしか使わない予定でしたが、ファミレステーブルのサイズ感に合わせて二つ設置しました。
テーブルクロスなとを被せようかと思っていたのですが、転換の手間など考え無しでいきました。
倉庫の時は壁に沿うように置いてあるのですが、ファミレスの時は斜めになるように展開します。倉庫状態からすると斜め置きは違和感のある置き方です。その「小さな違和感」を過信した、地味なようで大胆な見立て表現です。

倉庫状態の時に置いてあるノートパソコンをファミレスの注文用タブレットに見立て、さらにノーパソのキーボード部分にカトラリーケースや紙ナプキン立て、調味料を置きました。キーボードの上というのがポイントです。ここでも「小さな違和感」を使っています。

ただ、「小さな違和感」だけで押し切るのは感じ方にムラがあって危ういなとこれを書きながら思ってきました。雑味が出てしまうというか。

椅子も倉庫の丸椅子を使っていたのですが、例えば椅子だけでもファミレス風の背もたれ椅子に変えるなどすれば良かったかも。しかし物を増やすというのはそれだけでバランスが崩れる可能性もあるので悩みどころです。

後述する他のロケーションは倉庫にあるものだけでほぼ表現できているんですよね。(リビング台は別ですが)そう考えるとカトラリーケースなども出さない方が良かったのか、絶妙なところです、

・車

車は丸椅子とザイルの輪っかで表現しました。
かなり見る側の想像力に寄りかかった表現ですが、成立していたと思います。車ってハンドルという記号一発で納得してもらえる気がするんですよね。ハンドルの小道具も見立てで表現しやすい。ファミレスより難易度が大分低い気がします。

ザイルでハンドルを表現したのはとても気に入っています。
ラストのキャンピングカーの時はハンドルが実物に近いものになっています。シバタから何かから解放されたようなイメージ。

・橋

橋は一本のザイルで手すり部分のみを表現しました。
稽古段階ではこれだけでいけるか微妙なラインだなと思っていましたが、仮に橋だとはっきりわからなくても会話の流れでわかるようになっているし何よりこのソリットな表現が一番インパクトあるぞ、ということでこれになりました。
「超えちゃいけないライン」みたいなイメージで、赤いザイルを使っています。

・公園

公園は何度もやってるのですが、まず「子どもが遊んでる声」の環境音だけで大体クリアできます。
台本段階ではベンチに座ってる、みたいな感じだったのですが、何か遊具を見立てで表現できないか、ということで、丸椅子で「ぐよぐよ動物(バネがついた動物にまたがるやつ)」が生まれました。
丸椅子を二段にスタックして、スプリング感を出してるのがポイントです。
最初は三段でやったのですが不安定過ぎて二段に落ち着きました。


今回はここまでです。
想定していたより細々としたことを書き連ねてきました。
次回で完結しようかと思ってます。
ではまた!

『8hのメビウス』上演台本販売ページ


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