R5司法試験不合格からR6本試験までにやったこと
こんにちは、傘です。
R5不合格以降、私がやったことをまとめてみました。
はじめに
まず、私のスペックを簡単に。
・地方のロー(既修)出身です。ローは中位~下位に属すると思います。令和5年3月に修了、同年7月に1回目の受験をして不合格。翌令和6年に2回目の受験をして合格することができました。
・選択科目は労働法です。
・現在の得意科目は商法・労働法、苦手科目は民法・民訴法・行政法です。
・2年間の成績は以下のとおり。
【R5司法試験】
短答:憲法30点、民法41点、刑法38点 計109点(合格最低点99点)
論文
憲法E、行政法E、民法D、商法B、民訴法E、刑法B、刑訴法D、労働法59点
論文合計330点台(2100位台)
総合得点700点台(2200位台) ※合格最低点770点、最終合格者1781人
【R6司法試験】
短答:憲法35点、民法62点、刑法40点 計137点(合格最低点93点)
論文
憲法A、行政法C、民法C、商法A、民訴法E、刑法B、刑訴法A、労働法52点
論文合計390点台(1100位台)
総合得点830点台(1000位台) ※合格最低点770点、最終合格者1592人
ご覧の通り、去年は余裕の大差落ち、今年は4桁合格です(合格者のうち、下位30%にあたります)。上位合格を目指す方には役に立ちませんが(断言)、今年不合格で何から手をつければいいか分からない方や、大差落ちからの合格の実例を見たいという方には、この記事が何かの助けになるかもしれません。
① 敗因分析
まずは敗因分析です。たまごさんのブログを参考に行いました。
今振り返っても、これをやって本当によかったと思います。何が足りなかったのか、逆に何ならできていたのか、いったん立ち止まってしっかり検討することで、次にやるべきことを明確にすることができました。11月いっぱいはこれと民法の短答(後述)しかやりませんでしたが、思い切って時間をかけてよかったです。
分析結果はWordにまとめていて、でもそれを全文載せるとさすがに長いのでざっくりとだけ。
・短答:総合点が低い。特に民法の点数が低い。
→民法に重点を置いて勉強し、合計8割(140点)を目指す。
※ここで合計8割としているのは、私がもともと論述自体が苦手で、少なくとも8カ月そこらでは点数を爆増できる見込みがなく、であればまだ伸ばせる可能性の高い短答の点数を伸ばしたほうが合格に近づくのではと考えたからです。短答8割が全ての受験生に必要だとは思いません。
・憲法:知識以前に書き方で迷っている。
→ローで受けられる弁護士の先生のゼミを受講し書き方から習得する。
・行政法:参考判例を参考にできず、論点すらつかめないことが多い。
→まず判例学習をする。
・民法:知識量が圧倒的に足りず、論点になんとなく気付けても説得的な答案を書けない。
→まず短文事例問題に立ち返り、論点とそれに対する論証をちゃんと組んで頭に入れる。
・民訴法:基礎知識からあやふや。
→予備校の講座で要点だけさらい、予備の問題を解いて書き方をもう1回勉強する。
・刑訴法:問題演習は積んでいたはずだが、現場でうまく対応できなかった。
→分野別に答案の流れを固めて頭に入れる。論証が説得的でないものは組み直し、あてはめに使う考慮要素とセットでしっかり記憶。
・商法、刑法、労働法:B評価とほぼ60点で優先順位は低め。まずは他の科目が優先で、現状維持する程度に取り組む。
ここで意識したのは、なぜ低評価にとどまったかをしっかり考えることです。そもそも書き方から迷ってしまう、論点に気付けていない、論点には気づけているけどあてはめが弱い、書くべきことは分かっているけど時間が足りず途中答案になってしまう、など原因は科目によってさまざまだと思います。そして、どのレベルが問題なのかによって、まず取り組むべきことは変わってくると思います。
私なら、書き方から迷ってしまうのであれば、その科目が得意な人や先生に相談したり、優秀答案を読んだりして書き方を探ります。書くべき論点に気付けないのであれば、今一度インプットに立ち返るか、問題集など事例問題にたくさん触れて論点を拾う感覚を養います。あてはめが弱いのであれば、考慮要素を改めて確認したうえで、問題文中の事実をたくさん拾うよう努めたり、優秀答案を読んで上手なあてはめを学んだりします。時間が足りないのであれば、どこかで過度に時間を取られてしまっているということなので、時間の使い方を見直します。
これはあくまで一例で、人によって適した方法は違います。これまでの経験や人からのアドバイスを踏まえ、自分に合いそうな方法を模索してみてください。
② まわりの意見を聞く
合格したローの同期やローの先生、知り合いの弁護士の先生と面談してもらい、今後の勉強計画や学習上の悩みを相談したり、答案を見てもらったりしました。私の出身ローは修了後も希望すれば学校の施設を使わせてくれたり、ゼミに参加できたり、授業の聴講も応じてくれたりと、かなりサポートが手厚かったので存分に利用しました。
複数回受験生は周囲から孤立しがちです。むしろ、不合格が恥ずかしく周囲にあわせる顔がないからと、自ら孤立を選んでいるケースも多いと思います。その気持ちは痛いほど分かりますが、それでも誰かを頼ってほしいです。ローの先生や友人、予備校でも構いません。不合格者が独力で適切に軌道修正し、合格までたどり着くのは、技術的にも精神的にもすごく難しいことだと、合格した今思います。
一方、人からのアドバイスに振り回されるのも良くないとは思います。私も、もらったアドバイス全部に従ったわけではなく、1回は試してみて、合わないと感じたらすぐやめていました。
③学習開始
0. 総論
特に、本試験で苦戦した憲法・行政法・民法・民訴法・刑訴法に力を入れ、苦手分野を補強しながら勉強を進めました。基本的には、午前中は短答を解いて、午後は論文に取り組んでいました。
論文は、全部フル起案していてはさすがに時間が足りないので、今と出題傾向が異なるもの(H18~20あたりの問題、H29以前の刑法など)や出題可能性が低いもの(前年の問題やマイナー論点など)は答案構成にとどめる一方、出題可能性の高そうな問題や頻出論点が出た問題は何度も解くなど工夫しました。解いたあとは、ぶんせき本掲載の優秀答案に必ず目を通し、いいなと思った表現は趣旨規範ハンドブックに書き込んで盗みました。優秀答案にもミスはありますし、現場で(少なくとも私は)書けるわけのないクオリティなので、何もかも真似できるわけではないですが、やっぱり優秀答案には高評価をもらえるだけの理由があるので、取り入れられそうなところだけでも取り入れよう、という意識で優秀答案を読んでいました。
1. 短答
民法は、すぐ過去問演習を再開するのではなく、過去問の全肢とその解説(短答パーフェクトでも何でも可)を読んで、出てきた条文と判例を判例六法にひたすらマーク(マーカーで線を引き、出てきた回数を正の字で記録)し、解説で知ったことを余白にメモする作業をしました。

これ、敗因分析と並行して11月から始めて12月までかかったのですが、やってよかったです。民法って範囲が広くて条文だけで1000以上あるしそのうえ大量の(裁)判例まで勉強しないといけないので、途方に暮れてしまう...という人も多いと思います。(私がそうでした) でも、この作業をすると、何度も出題される条文や判例は意外と限られていて、1回も出題されていないほうが多い、つまり覚えることは意外とそんなに多くないと気付けて負担感が減ります。そして、これは単に私の知識不足ゆえですが、なんだ、これって条文に書いてあったんだ!ということもよくありました。何より、頻出の条文や判例を何度も見るうちに、自然と頭に入りやすくなります。憲法・刑法は、この作業はしていません。
作業を終えてから、過去問演習に取りかかりました。ここでおすすめしたいのが、分野別ではなく年度別に解くことです。分野別に解くと、最初の方に解いた分野は、1周する頃にはすっかり忘れているということが起こりがちです。年度別に解けば、短いスパンでまんべんなくいろんな分野の問題を解くことができるので記憶の維持に役立ちますし、本番で実際に解く感覚に慣れることもできます。私は、12月~2月は1日に民法20問、憲法・刑法各10問を解き、間違えるたびに判例六法を見直しました。3月中旬からはTKC全国統一模試に向けて1日1年度分時間を測って解き、全国模試後も試験直前期まで続けました。
憲法の統治は、条文をe-GovからWordにコピペして大きめの文字で印刷し、余白部分に過去問演習で得た知識を書き込み、条文ごと覚えるつもりで1日1回は目を通すようにしていました。あわせて、苦手分野の知識だけまとめた紙も印刷して、一緒に読みました。択一六法を用いて知識整理する人もいて、私も試しましたが、私はこっちの方が合いました。見直したい知識と条文だけがA4数ページにまとまっていて、さっと見直せるのが手軽でよかったです。
民法は先述の作業をしたからこそ基礎知識が身に付き、点数アップにつながりました。短答は過去問演習だけでいいという合格者もいますが、それが本当に自分にもあてはまるかは慎重に見極める必要があります。私の場合、憲法と刑法は過去問を回すことで人並みに解けるようになりましたが、民法は過去問を回すだけでは点数が伸びませんでした。
短答に限らず、「対策は〇〇だけでいい!」というアドバイスは一見楽で魅力的に見えますが、その人がもともと持っている能力や知識量で可能になっているケースがよくあるので注意してください。
↓めちゃくちゃ共感したブログ
2. 憲法 E→A
ローで受けられる弁護士の先生(超上位ロー出身で特に憲法が得意な先生でした)のゼミを受講しました。これが本当によかったです。この先生のおかげで憲法をEからAにまで上げることができました。ローの後輩たちには先生のゼミを勧めるのですが、ここではそうもいかないので、代わりに加藤ゼミナールの総まくり講座をおすすめします。先生に教えてもらった答案の型や審査基準の定立の仕方は、総まくり憲法の総論部分に書いてあることに割と近かったです。優秀層って似たようなことを考えているんだなぁと思います。
3. 行政法 E→C
判例知識の足りなさがひどかったので、行政判例ノートのうち趣旨規範ハンドブックに掲載されている(裁)判例を、どんな事案なのか(誰と誰の争いか、訴訟形態はどれか、争点は何か、判決文の趣旨はどこか)を意識しつつ線を引きながら読み、ものによっては論証化し、一元化教材としていた趣旨規範ハンドブックに反映させる作業をしました。趣旨規範ハンドブック掲載判例に絞ったのは、行政判例ノートの(裁)判例を全部やるのは、もともと行政法が苦手な私には負担が大きいと感じたから、そして多くの受験生が押さえているであろう趣旨規範ハンドブック掲載判例を押さえていれば、知識量で相対的に沈みにくいだろうと思ったからです。

上記作業により、判例知識を使える形でストックでき、結局どう使ったらいいのか・問われていることは何かで迷うことが減りました。行政判例ノートは、事案の概要と判決文の重要部分、橋本先生の解説がコンパクトにまとまっていて本当にいいです。ケースブックは重すぎて使いこなせない人におすすめ。
ただ、最終的にはCと、克服できたとはいえない評価に終わりました。演習量が足りず問題を解き慣れていなかったこと、行政法の基礎的な知識の理解がまだまだ足りなかったことが原因だと思います。
それでも、まず判例知識の強化から手を付けたのは今考えても正解だったと思います。知識がついたことで過去問演習が以前より捗りましたし、今年の問題も関連する判例を想起しながら考えることができました。行政法で行き詰まっている人は、基礎的な判例の見直しから始めてみてもいいかもしれません。
4. 民法 D→C
ローの3年向けの演習系の授業を聴講させてもらい、先生に課題の添削も依頼しました。その授業でロープラ民法Ⅰ・Ⅱを使っていたので、この2冊はマイナー論点を除き1周しました。そして、ロー生時代の民法の授業のレジュメを全部見直し、扱った問題を改めて解き直しました。さすがにフル起案する時間の余裕はなかったので、答案構成までにとどめ、あわせて論証集(趣旨規範ハンドブック)の点検もしました。ローの民法の授業は総則から相続まで一通り扱うことになっているので、これだけでも重要論点は一通りさらうことができました。
結局、この8カ月で司法試験の過去問はほとんど解いていません。(余裕がなかったです) 結果、上記をやったことで論点に気付きやすくなり、その論点で何を書くべきかで迷うことは減りましたが、限られた時間の中で長文の事例を読んでちりばめられた論点を拾いきる訓練は足りなかったので、論点落としが多発しました。これが、成績が伸び悩んだ要因だと思います。
5. 民訴法 E→E
私から言えることは何もありません!解散!
6. 刑訴法 D→A
ローの刑訴法の先生に現行試験過去問の答案を添削してもらいました。そして、添削を確認したあと、関連分野の論証の点検と、関連分野が出題された予備試験の過去問もあわせて解き、これも添削してもらいました。
私の刑訴法の勉強はローの先生にべったりだったのであまり参考にならず申し訳ないのですが、ひとつ言えるとすれば刑訴法は過去問が命ということです。過去問の焼き直しが出題されたこともありますし、過去問演習の重要性は他の科目よりも高いと思います。そして、刑訴はとにかく時間との勝負です。私は先生の教えで、できるだけたくさんの事情を拾って丁寧に評価し、あてはめを充実させることを重視していたので、現場では答案の書き方や規範のレベルで迷っている暇がありません。なので、刑訴は特に、論じる順序や規範を事前にガチガチに固めておいて、現場ではそれを吐き出し、あてはめにたくさん時間を割けるようにしていました。
7. 他の3科目
あとの3科目は優先順位が下がったので、知識が抜け落ちないよう、現状維持する程度に取り組んでいました。上記5科目に時間をとられ余裕がなく、この3科目はほとんど過去問を解いていません。(各3年分くらい。刑法・労働法は直前期に過去書いた答案をざっと見直しました)
・商法 B→A
「事例で考える会社法」をはじめて解いてみましたが、典型論点を事例形式で確認できてよかったです。分かっているつもりでも、いざ答案を書こうとするとどう書いていいか迷ってしまう論点が意外とたくさんあることに気付けて、知識の穴を埋めることができました。
・刑法 B→B
まさに現状維持。直前期に、元ネタ本といわれる「刑法事例演習教材」のうち司法試験で出題されたことのない問題を抜粋して答案構成しました。
・労働法 59点→52点
水町労働法に書き込んで一元化教材としていたのですが、もっとサクッと復習できるものがほしくなって論証集を自作しました。作成の過程で過去問を全て見直したり論証をもっと分かりやすいように組み直したりしたので、作成自体が良い復習になりました。
点数は去年より下がってしまい悔しいです。手ごたえあったんだけどなぁ...。もっと(裁)判例を知っていれば...とか思わなくはないですが、他の科目も含め当時の自分なりの精一杯を尽くした結果がこれなので、後悔はないです。でも悔しい。
8. その他
・模試はTKCと辰巳を受験しました。辰巳は比較的余裕をもって合格推定圏内に入れましたが、TKCはかなりギリギリでした。辰巳の合格推定は結構ゆるいなと思うので、圏内に入ったからといって油断は禁物です。TKCもですが。
出題予想は当たることもあると1回目の受験で痛感したので(確かTKCの民法と商法が当たったような)、もし予想が当たったときに他の受験生に差をつけられないために復習をしました。今年は辰巳の商法が当たりましたね。忘れてるだけで他にもあるかも。
・辰巳のハイローヤー(司法試験の出題予想をする号)にも目を通しました。これも、予想が当たったときに周囲に差をつけられないためです。
・答練は、1回目の時に申込みはしたものの、時間が足りずほとんど提出できなかった反省を踏まえ、2回目は申込みませんでした。結果、答練は不要だったと思います。過去問を回すだけで手いっぱいだったからです。(過去問すら十分に回しきれていない) 過去問を回しきってしまって解答筋も全部覚えていて、もう何を解いたらいいか分かりませんという人はとってもいいと思いますが、そういう人は答練やらなくても受かるのではと思います。
さいごに
以上、不合格から2回目の本試験までにやったことを書きました。得意科目は現状維持にとどめ、苦手科目に時間をかけて伸ばそうと努めたのが功を奏したと思います。
2回目の受験に向けての勉強はずっと苦しかったです。何をどう勉強していても、1回目の大差落ちが頭をよぎり、あんな成績をとった自分なんかが合格なんて...と、合格を全くイメージできませんでした。ローの同期はほとんど一発合格してしまい、後に取り残されて、悔しさと劣等感で毎日本当にしんどかったです。それでも、何とか合格することができました。
今、合格をイメージできなくても大丈夫です。目の前の課題を完全に克服しきれなくても大丈夫。完璧を目指すほど苦しくなります。後でまた戻ってくればいいんです。結果克服できなくても、他でカバーできれば十分です。焦らず、できることからやっていきましょう。
私の体験が、誰かの何かのお役に立てたなら、とてもうれしいです。