漫画家・ばったんさんによる、書籍「教会のバーベルスクワット」の装画、完成までの道のり
2021年12月6日よりU-NEXTオリジナル書籍として配信している蛭田亜紗子さんの短編「教会のバーベルスクワット」。
その装画は、漫画家のばったんさんに描き下ろしていただきました。
ラフから本画へ。
その変化のダイナミクス、鮮やかさをぜひ読者のみなさまにも味わっていただきたいと、ばったんさんにも快諾いただき、ラフと本画を公開します。
イラスト公開の前にまずは作品の紹介を。
蛭田亜紗子さんの「教会のバーベルスクワット」は、こんな内容です。
四十歳を目前に妊活をやめた「私」は、夫との間に距離を感じ、魔が差したかのようにネットで知り合った男と逢瀬を重ねるようになった。裸を見せることの緊張感からはじめた筋トレと、女性経験のない無垢な彼とのセックスは、孤独と焦燥感に駆られていた「私」の心を解し、不妊治療やホルモンバランスの乱れなどで思い通りにならなかった自分自身の体を楽しむことができるようになってきた。そんな矢先…。
第1稿を初めて読ませていただいた時から、主人公の「私」の持つ色気、ある種の倦怠感、のようなものをカバー絵にしたいと思い、ばったんさんの絵が浮かんでいました。
(U-NEXTで配信している、ばったんさんの作品の一覧)
ばったんさんは、『姉の友人』や『まばたき』など、女性キャラクターのアンニュイな表情、特に目の表現が素晴らしい!
(喫煙の描写が特に好きなのですが、今作は健康的な女性なので、当然タバコは出てきません。ちょっと残念。)
そのため、ご本人から「小説読むの大好きなので」と快諾いただいたときは、「はまった!」とパズルが完成したときのような満足感がありました。(まだ完成したわけではないのですが)
というわけで、ばったんさんにお願いすることになり、
デザイナーの鈴木久美さん(弊社でも藤井清美さんの『#ある朝殺人犯になっていた』などでお世話になっています)
とも相談し、
まずはばったんさんの発想で自由にラフを描いてもらうことにしました。
余談ですが、イラストを誰に依頼するかは、デザイナーさんに相談し、数案いただき、その中で著者さんとも相談し決めることが多いように思います。とはいえ、それが正解というわけではなく、著者さんの推薦だったり、今回のように編集発信などもあります。
あと、描く構図やモチーフについては、イラストレーターさんとデザイナーさん、時には著者さん含め打ち合わせて決めるケースもあります。
今回のように、自由にラフを描いていただく場合もあり、イラストレーターさんやデザイナーさん次第だったりします。
そして、あげていただいたのが2案、いずれもデジタルで書かれたものです。
ラフ1
ばったんさんコメント
「タイトルと私が読んで感じた印象をそのまま描きました。ストイックにトレーニングをして自分を痛めつけながらもどこか救われたいと思ってしまう葛藤、でも上を見つめる視線で少し希望を感じてもらえたら」
ラフ2
ばったんさんコメント
「私が読んで印象的だった、「すきです」とYが言って、それに答えずに頭をなでるシーンです。やはりこちらも葛藤やさみしさが表現できれば」
1つ目のラフは、ばったんさんのコメントにあるように、タイトルを活かしてくださった印象で、またコロナ禍の中の話なので、どうしてもマスク姿になってしまい、それが個人的にはすごく残念に感じました。
2つ目のラフはとにかく美しく、作品が内包する艶感がでていることから採用することになりました。
ここで鈴木久美さんにデザインを仮組いただき、本画に入る前にトリミング具合などを共有しました。
それがこちら。
そして、ばったんさんにあげていただいた本画がこちらです。
この本画、すごくないですか!
鈴木さんも「めちゃめちゃ素敵です〜〜!!!!」と大興奮。
水彩ならではの筆跡、地のテクスチャー、ピンチしてぜひご覧を。
キャンバスの凹凸、墨のかすれ具合や彩色のグラデーションは、アナログ仕上げならではです!
(ちなみに、彩色前がこちらです)
この本画に文字を置いてデザインいただいたのが最終の書影です。
ばったんさんは「めちゃくちゃかっこいいですーーー!!! やっぱり文字が入ると表紙感がでて最高です。」
蛭田さんも「物語の世界が広がるようで嬉しいです」
イラストの段階でもう十分に素晴らしいのですが、鈴木久美さんの最後の仕上げ、特に細い明朝体と散らばされた点々が、ややもすると甘い印象の見た目に、作品の持つ不穏さが加わり、完璧な仕上がりになりました。
蛭田亜紗子さんの作品は今作で終了ではなく、
今作含め全5話からなる「ままならない私の体」という短編シリーズです。
次作は、2022年2月公開予定。
もちろんカバーはばったんさんです。
次のイラストはどうなるのか、ぜひお楽しみにしてください。
電子書籍はこちら
試し読みはこちら
吉川トリコさんによる書評はこちら