最近の嬉しかったお仕事話つらつら。(日本映画批評家大賞授賞式/演技への畏怖の話/企画段階から惚れ込んでいた作品について)
アイルランド出身の個性派俳優バリー・キオガンとディズニー・チャンネルから生まれたポップスター、サブリナ・カーペンターが交際中というゴシップを知り、「何なのその、ロマコメ映画並みにロマコメ感のあるカップルは…!!」とテンションがあがって以来、安心してバリー・キオガンを観られるようになりました。映画部の宮嶋です。
バリー・キオガンって、狂気じみていたり薄幸だったりする役柄のお芝居があまりにもうますぎて、普通に気持ちを入れて観ていると、役柄とご本人のキャラクターの境目が曖昧に感じちゃうんですよね。こういう人を憑依型っていうのかしら、と思ったりしています。
とはいえそんな見方はプロである彼に失礼なので気をつけなきゃと思いつつ、プライベートはそうじゃないらしいと知るとさらに安心しちゃったり。可愛いカップル、幸せを邪魔しないようにそっとしておいてあげようね、と思ったり。とはいえ、こちらから特に情報を獲りにいかなくてもSNSで色んなゴシップが入ってきてしまう時代なのですが。難儀ですねぇ。
※バリー・キオガンの出演作はこちらからどうぞ!
閑話休題。一昨日の5月22日、日本映画批評家大賞の授賞式があり、お伺いしてきました。
「批評家による批評家だけの目で選んだ他に類を見ない賞」というだけあって、授賞理由のコメントでは各作品やそれぞれの演者さんのお芝居のポイントを鋭く、そして丁寧に掬い上げておられ、それにこたえる受賞者の皆さんのコメントも、役柄への深く真摯な向き合い方がにじみ出るものが多く、演技への取り組み方が垣間みえる、見ごたえのある授賞式でした。
私、ものづくりには興味があったけれど、お芝居については文化祭くらいでしかしたことがないし、おそらく今後もしないと思うんです。でも、演技論みたいなものを読んだりお聞きしたりするのは大好きなのです。(「ほぼ日」さんに「俳優の言葉。」という奥野武範さんによる俳優さんたちへの不定期インタビューがあって、とても面白いです)
授賞式で主演男優賞の東出昌大さんがおっしゃっていた「役者に必要なのは、根拠のない自信と、見えないところでの地味な準備をちゃんとすること」とか、主演女優賞の筒井真理子さんがおっしゃっていた「私自身には個性がなくて、だからこそ演じる役柄の気持ちを探っていくのが面白い」とか、作品で見えている顔とは異なる、私たちが見えていない演技の仕事への姿勢を彷彿させてとても興味深いなぁ、と。
確かにそうだなぁ、役者さんって役柄が決まったら身体のかたちや動きをそれに沿わせて、役柄に応じて勉強や練習をして(楽器の天才の役柄とか、ほんと長く地道な努力が求められるんでしょうね…)、セリフを覚えて、演技プランを立てて…見えていない部分のお仕事のいかに多いことか。そして、自分の心の動きよりも見ず知らずの、多くは存在すらしない他人の気持ちに自分の心を明け渡すことのハードルの高さたるや。
冒頭のバリー・キオガンもそうなんですが、思えば自分の体を使って自分ではない人間となり、いわば他人の考えた言葉をさも自分の言葉であるかのように話し、行動し、それがそのまま不特定多数に目撃され、しかも記録され、何度も再生される人生、しかもそれが自分自身のイメージと重ねて受け取られる仕事って、不思議だし、ゴシップまで含めて重ね合わされるなんて、私の想像をはるかに超えた人生です。
私たち受け手はそれぞれを別のもの、演者さんは演じるプロフェッショナルであって、その人間性は別のものとして尊重して受け取るように気をつけなきゃいけないですが、一方で、「この俳優さんはこういう人生経験をした」と観る者が知っていることそれ自体が、作中の役柄に躍動感と説得力を持たせることだってある。
お仕事としての“役者”って、本質的な意味で「自分を明け渡して、何かに(役柄に、作品に、そして観客に)捧げてる」って感じがして、畏怖みたいなものさえ感じます。
監督さんや脚本家さんなどのクリエイターには憧れ(自分がめざしてたこともあって)、技術スタッフさんたちには尊敬、といった感情を持っていますが、演者さんたちには、畏怖。あんまり詳しくはないですが、エンタメの多くが、もともとは世界各地で神に奉納されていたものが大衆芸能化したものでであることとも、つながっているかもしれません。
いずれにしても、そういう要素すべてが揃って、みんなの「作り手」としての熱意とグルーブが、ひとつの作品が生みだすのですよね。作品の流通である配信、ビジネスサイドにいる私たちからすると、本当にすごいなぁ、尊いなぁ、と(語彙力)!
さてさて。この授賞式にお邪魔したのは、私たちが製作委員会の一員として関わらせて頂いていた『波紋』という作品が2部門で受賞したためでした。
荻上直子監督が「監督賞」を。
そして、先述の筒井真理子さんが「主演女優賞」を受賞されました!
おめでとうございます、とても嬉しい!
『波紋』チームからは、別作品ですが磯村勇斗さんが『月』で「助演男優賞」、木野花さんが『バカ塗りの娘』で「ゴールデン・グローリー賞」を受賞されていて、ちょっとした同窓会みたいな華やぎでした。
私たちが新作映画の製作委員会に入らせて頂く時、どういうタイミングでどんな流れで参加が決まるのかは、正直にいうと作品によって全然違うのですが、『波紋』については早い段階から携わらせていただいていました。
早い段階から、とはいえ監督はその何年も前からオリジナルで企画を温めていらして、時間をかけて自ら脚本を練られていて。
その脚本が、もうすでにめちゃくちゃに面白かったのです!脚本を読んだ当時の私のメモが残っていて、「非常に面白かった!面白かったが、何が面白かったのかうまく表現できない」「荻上さんのなかでおそらくもう絵は(イメージ)できていると思う」と書いてあるのですが、実際に撮りあがってみると予想以上で、大興奮だったんですよね。携わらせていただけたことが本当に嬉しくて。
すでにU-NEXTでは配信中なのでぜひご覧いただきたいのですが、私が“何が面白かったのかうまく表現できない”と思っていたそれは、私たち大人世代が(もしかしたらもっと若い世代でも)育ってくる過程でいつのまにか窮屈な役割モデルを押し付けられてきたり、大人になるにつれてそれに抗おうとしながらも気づいたら内面化していたりすることへのモヤモヤを、思わずニヤリと笑ってしまうようなブラックユーモアに昇華してくださったから。
そしてそのモヤモヤやイライラ、そこからの解放を演じる筒井真理子さんのお芝居の素晴らしさ…!授賞式で「私自身には個性がないから」とおっしゃっていたのですが、尖がったところのない鷹揚さを感じさせ、その上的確なお芝居をなさる筒井さんだからこそ、そして周りもまた全員すばらしい演技派だからこそ、絶妙に愛すべきブラックユーモアが成り立ってるんだよなぁ、すごいバランス感覚だなぁって観るたびに思います。
劇場公開の時には弊社オフィスに筒井さんと、ちょっとダメな夫を演じられた光石研さんをお招きして、贅沢な特番を撮影させて頂いたのも素敵な思い出です(撮影舞台裏のお話がとても興味深く、さらにおふたりがめちゃくちゃチャーミングです。是非!)
惚れ込んで携わらせていただいた作品が、そして尊敬する作り手の皆さんが、劇場公開が終わった今も改めて評価されるのが本当に嬉しいです。
というわけで特集作りました。
いわゆる興行収入ランキング○位、みたいな大作ではない、でも本当に力のある作品ばかり。そして個人的に思い入れのある作品ばかりです。
よろしければ、ぜひ。第33回・日本映画批評家大賞受賞作 特集
©映画「波紋」フィルムパートナーズ