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Is this heaven?

ワケあって30年ぶりに『フィールド・オブ・ドリームス』を観ました。映画部の林です。

「映画って久しぶりに観ると、昔と受け取り方が変わりますよね」

という人類史上2兆回くらい言われている陳腐ワードが、今回もビシッと当てはまりました。

「それを作れば、彼はやってくる…」というお告げを聞いた男が、自ら所有するトウモロコシ畑の一部を潰して野球場をつくり、次々と奇跡を起こしていく物語。中学生時代以来に観たらだいぶ展開が粗いところにも気づいたけど、そんなことはまったく問題じゃありません。セリフのひとつひとつが美しいし、大事なのは人が何かを信じる心、誰かが残した想いは、確実に次へ次へと繋がっていくということ。そう、この作品のメッセージは、「想いは繋がる」ということなのだと思いました。語り継がれるラストシーンは、僕自身数年前に父を亡くしたこともあり、当社比20倍くらい沁みました。

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実は先日、パワフルなおふたりの社長さんとお話する機会があって、人生No.1映画がおふたりとも『フィールド・オブ・ドリームス』でした。しかも口を揃えて「この映画を好きな人に悪いやつはいない!」と、パワフルに決めつけてらっしゃいました。その夜、「それを観れば、パワフルな社長になれる…」というお告げを聞いた僕は、30年ぶりの再鑑賞を果たしたというわけです。

するとその直後、まさかのニュースが飛び込んできました。映画の舞台でありロケ地であるアイオワ州ダイアーズビルのトウモロコシ畑の一角に野球場が作られ、8月12日、そこでMLB(メジャーリーグ)の公式戦が行われたというのです。社長さんたちからインスパイアされて30年ぶりに観た直後に、こんなことが起こるとは。まさに、想いは繋がる!(実際は、昨年開催予定だった試合がコロナで延期されてたまたま今年になったようなのですが…まぁ、想いは繋がる!)

当日の様子がまさに「夢」のように美しいので、『フィールド・オブ・ドリームス』をお好きな方はこちら、必見です!

映画同様、トウモロコシ畑から選手たちがボワッと出てくるシーン(2:19あたり)は本当に鳥肌ものだし、ケビン・コスナーによる「ここは天国かい?」(6:17あたり)は映画を観ていたら落涙ものです。

この試合でホームチームとしてプレーしたのは、シカゴ・ホワイトソックスでした。このグラウンドに主役として立つのは、ホワイトソックスでなければならない理由があります。その物語は『フィールド・オブ・ドリームス』よりも遥か昔、今から100年前に遡ります。米国スポーツ史上最大級のスキャンダルとされる「ブラックソックス事件」です。1919年、当時最強を誇ったホワイトソックスの主力8選手がまさかの八百長事件を起こして、年間王者を決めるワールドシリーズでわざと敗退。その見返りに多額の報酬を得ていました。当時、最も人気のあるスポーツだったベースボールで起きた信じがたい事件は、米国民に多大な衝撃を与えたのです。

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八百長に関わったとされる8人には、MLBから永久追放という極めて重い判断が下されました。彼らは失意の中、大工になったり、酒屋を営んだり、イチゴ農園で働いたり、とそれぞれの人生を送り、二度とMLBの舞台に立つことなく、全員1970年代までに他界しました。彼らは確かに米国の国技とも言えるベースボールの歴史に泥を塗った。しかし、元々オーナーと確執があって冷遇を受けていたとされる8人に対しては同情的な声も多く、「アンラッキー・エイト(悲運の8人)」と呼ばれ、むしろ英雄視する向きもありました。そして彼らの悲運に、映画の中で救いを与えたのが、『フィールド・オブ・ドリームス』なのです。既に全員他界している「アンラッキー・エイト」は映画の中で、主人公が作った野球場の中に生き生きとした姿で現れ、軽口を叩きながらベースボールに興じます。中でも印象を残すのは、レイ・リオッタ扮するシューレス・ジョー・ジャクソン。かのベーブ・ルースが憧れたとされる大スター選手でした。…というわけで、この映画は「ブラックソックス事件」をある程度知っておいた方が、より感動が深まるのです。

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さて、かつて「アンラッキー・エイト」が所属していたホワイトソックスが1919年当時のユニフォームに身を包み、『フィールド・オブ・ドリームス』の球場でガチの公式戦を行う。そして相手に選ばれたのは、ベースボール界の盟主ニューヨーク・ヤンキース。それだけで十分「エエ話や…」なのですが、8月12日のこの試合、それだけでは終わりませんでした。あまりに劇的なエンディングを迎えます。

ホームランが5本も飛び交う華やかな展開で9回を迎え、7-4でホワイトソックスがリード。「アンラッキー・エイト」の魂が宿るこの球場で、このまま終われば美しいよね、というおあつらえ向きな展開。しかしそこはスター軍団ヤンキース、すんなり終わらせません。9回表2アウト。もう完全に後がないところから、主砲アーロン・ジャッジが2ランホームランで1点差に追い上げます(6:42あたりから)。「さすがジャッジ、十分見せ場作ってくれたよ」と思っていたら、もうひとりのスター、ジャンカルロ・スタントンがさらに2ランホームランを打ち、まさかの大逆転(7:23あたりから)。9回2アウトから3点差をひっくり返して8-7!これ以上のドラマがありましょうか!

しかし、ヤンキース二枚看板のホームランすら、「フィールド・オブ・ドリームス球場」のシナリオの中では、単なる前フリでした。9回裏1アウト。ランナーを一塁に置き、ホワイトソックスのティム・アンダーソンが右翼に放った特大の打球は、トウモロコシ畑のど真ん中に吸い込まれていったのです(8:10あたりから)。あまりに劇的すぎる逆転2ランホームランで、ホワイトソックスがサヨナラ勝ちを果たしたのでした。

「アンラッキー・エイト」の魂や、彼らに憐憫の情を抱いてきたベースボールファン100年分の想いが作り上げたとしか思えない、脚本にしたら「ベタすぎる!」と叱られそうな結末。100年前のMLBの出来事を元に、30年前に映画が作られ、そして今、その物語がMLBに帰ってきて、歴史に残るマスターピースといえるゲームが産み落とされました。映画とスポーツの美しすぎる融合を目の当たりにし、「想いは繋がる」ことを改めて確信させられた気がします。

ところで、殊勲のサヨナラホームランを打ったアンダーソンは『フィールド・オブ・ドリームス』より後に生まれた28歳。試合後、まだ観たことがないという本作について問われ、こう答えたとのこと。

「うーんわからないな、ひょっとしたら観るかも」


「いや確実に観ろよ!」(by アンラッキー・エイト)



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