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泳ぎたくなる映画=はい、泳げません

最近、やたらと泳いでいます。U-NEXT映画部の林です。

隣のレーンで泳ぐ選手コースの小学生たちより全然遅いのに、きっと無駄な力が入っているのでしょう。すぐにゼェゼェ。それでも、恥を忍んでほぼ毎晩、1000m以上は泳ぐようにしています。

なぜそんなに泳いでいるのか。理由はこの映画にあります。

しばらく前にプロジェクト参画のお誘いをいただき、脚本を読んで「これはいい映画になる」と惚れ込み、U-NEXTも製作委員会の1社として関わってきた作品です。6月10日、ついに封切られました。

水に顔をつけることすら怖がるスーパーカナヅチの大学教授が、スイミングスクールに通って泳げるようになろうと奮闘する物語。主演の長谷川博己さんが、屁理屈をこねくり回しながら悪戦苦闘する姿が実にハマっています。彼を力強く、そしてしなやかに導く水泳コーチ役には綾瀬はるかさん。大河ドラマ『八重の桜』からの盟友であるふたりの演技は息がピッタリです。

しかし、序盤のコミカルな空気に油断していると、中盤から一気に転調して、物語は幾重にも深みを増していくので要注意。

実はこの作品、あまりに苦しい出来事に襲われために身動きができなくなった人間の物語。どこにも進めなくなってしまった=人生が止まってしまった男は果たして、再び「生きる」ことができるのか、という映画なのです。

本作の鑑賞中、僕はやはり絶好調に涙と鼻水を流したわけですが、どこか不思議な手触りが残る作品でもありました。渡辺謙作監督ならではのトリッキーさと言いましょうか、ケレン味とも言える演出は、時にリアルを超え、「"映画的"とは何か?」にこだわった監督の姿勢が表れていると思います。そうした仕掛けの数々が、

記憶 ⇆ 今  
幻 ⇆ 現実
頭 ⇆ 身体
考える ⇆ 感じる 
水中 ⇆ 陸上 
死 ⇆ 生 

という、「あっち⇆こっち」を無尽に行き来し、油断していると見逃してしまうレベルでメタファーをねじ込んできます。そして、泳ぐことと生きることを巧みに喩え続けるこの映画の世界に浸かっていたら、普段こうして呼吸している陸上から、水中へと入りたくなるのです。そこは、こっち側にいながらにして、あっち側を感じられる場所かもしれないから。

劇中、こんな台詞が出てきます。

「外から水の中がはっきりと見えないように、水中からも外の世界はちゃんと見えない」
「水中と外は違う世界だから、水の中なら外の世界のことを全部忘れていい」
「水中では目鼻耳が頼りなくなるから、内省しやすい」

確かに泳いでいると、陸上では考えないことが頭の中を去来します。ある日、泳ぎながら『はい、泳げません』のことを思ったら、「人生は喜劇でもあるし悲劇でもあるけど、とりあえずちゃんと生きなくちゃいけない、支えてくれる人はきっといる」というメッセージが浮かんできました。

そのメッセージ、しかと(勝手に)受け止めました。

不思議な手触りも含めて、長い年月をかけて伝わっていって、長い年月、残り続ける映画です。大事に届けていかねばなりません。


さて今日も、キッズたちの元気な水しぶきを鼻で「ンガッ!」と受け止めながら、無様に泳いできます。

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©2022「はい、泳げません」製作委員会