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まったく、母娘ってやつは。(映画『わたしのお母さん』とわたしとわたしのお母さんの話)

先日、大好きなPodcast番組『OVER THE SUN』を聴いておりましたら、ジェーン・スーさんと堀井美香さんが「若い頃さんざん傷ついて、大人になってもう傷つかないぞ、治ったぞと思っていた古傷が、あるきっかけで開いてひどく痛んでしまった話」(※だいぶざっくりなサマリーです)をされていて、そうなのそうなの、私の古傷はね…と思いめぐらしてしまい、すすんで傷をひらくという“勝手に巻き込まれ事故”を起こしてしまった映画部の宮嶋です。

思い出して一旦開いたものをまた整理して、そこから得た強さと弱みをひとつひとつ再確認したり、という、人生何度目かの作業をしておりました。

とはいえ私の古傷など大したものでもなくて、成長とともに客観的にみられるようになった程度の“母と娘のあれやこれや”だったりします。ありがちなことです。(ちなみにジェーン・スーさんの古傷はまた別の角度のもので、それはそれで身に覚えがあるし思うところもありましたが、それについてはまたの機会に。)

あんまり滔々と自分語りしてもアレなのですごくシンプルにまとめると、私の一番大きな古傷は「生真面目で古風で“娘というものは母親の作品”と信じている母親が、マイペースで凝り性で偏屈な一人娘を頑張って自分の理想の女性に育てようとして結局失敗した話」という感じ。自分で自分のこと失敗って言っちゃってますけど(笑)母にとって私は失敗作だったので。

すごく仲の悪い感じになっちゃってますが、私は「変わってるなぁ」と思いつつ母が好きだったし、母も「変わった子」と言いながらたぶん愛してくれていたと思うし、視点は違ってもエンタメ好きなところは似ていたので会話は多かったです。(でもエンタメを語りあえば語りあうほどどうしても認めあえないところが際立ったりするんですよねぇ)

閑話休題。

今となっては、「親子とはいえ、性格が逆すぎてお互いしんどかったね」という話でしかないし、大人になって世界が広がると「よくある話なんだなぁ、うちだけじゃないんだなぁ」と気づく程度の私の古傷。大人になってから自分で自分を育てなおして、すでにこういうところで書けちゃう程度のものです。

そして、古傷をどう癒やすかという点でいうと、今までもこの蒸し返しを繰り返すことによって傷んだり治ったつもりになったりしながら、「イテテテ…」という感触に慣れながら、痛がりつつも俯瞰できるようになってきたような気もします。

その俯瞰の視点は、今までいろんな映画を観て、小説を読んで、つまり物語の中の母と娘の関係性を観て、共感したり憧れたり考えたり感じたりしたことの積み重ねで、時間をかけて螺旋のように自分の目線が少しずつあがってきて得たもののような気がします。というのも、物語の場合、共感して登場人物と一緒に傷ついてしまう一方で、共感によって孤独感から解放されて癒される部分もあったりすると思うのです。

それって物語の持つ力のひとつですよね。私が映画やドラマ、小説、一部のドキュメンタリーといった「物語」性のあるエンタメが好きな所以かもしれません。


で、ここで映画のお話です。
今週末から公開されている映画『わたしのお母さん』。

U-NEXTが製作委員会に参加させて頂いていることもあり、早めに拝見しました。

ひとことで言うと、「ああ、そうなのよ…わかる…わかりすぎる」!

杉田真一監督の長編1作目は、とても静かな映画で、登場人物たちも必要以上に感情をあらわにせず、行間からあふれるものが多い作風。あまり言葉で語れるものでもなく、また、無理に語ることで何かが失われてしまいそうで怖くもあるのですが。

とにかく、母親との関係の「わかりあえなさ」に悩んだことのある女性には、観てみてほしいかもしれません。ちょっと辛いかもしれないけれど…。一度主人公と一緒に傷ついて、そして回復する、というプロセスは、俯瞰の目線を手に入れる糧になるような気がするので。

そして井上真央さんの抑えた演技…すごいんです!わかりあえないということに対する諦めと、それに気づかない母への苛立ちと、消化できない自分へのもどかしさと(わかる~!)。大きく表情を動かしているわけではないのに、渦巻く思いが伝わってくる。母親の前で弟や妹のように自然に笑えなかったり。器用にあしらえず正面から受け止めてしまって苦しんだり。見事なお芝居です。

お母さん役の石田えりさんの、無邪気すぎるふるまい、娘の気持ちを慮らない一種の甘え(あるある!)の演技も、素晴らしいです。全然悪くない、けど、観ていて辛い。お芝居がうますぎて辛い!!

くしくも、11月23日にはもうひとつの母娘映画『母性』が劇場公開予定ですね。

こちらは未見ですが、原作小説を読みました(U-NEXTのブックジャンルで配信中です)。さすがにここまでドラスティックだと、関係性の繊細さよりも展開の衝撃度のほうが強いですが、これも母と娘の微妙なこじれが大きな事件につながっていくお話でした。

洋画にも、母と娘の関係性を要素として扱った映画はたくさん。
特集:共感?反感?親近感?母娘を描いた映画たち


やっぱり母と娘の微妙な関係性って普遍的なものなんだなぁ。

昔に比べれば価値観の幅も広がって、女性が生きていく上での選択肢も増えたけれど、でもやっぱり変化しつづける時代のなかで、それぞれに違う時代背景の「女の人生」を背負っている母親と娘。リアルに血を流して生みおとした同性の子供だからこその思い入れ。仲が良くて一心同体のようでも、別の人間である母と娘。

それを物語の軸として生み出される作品を、私はいつまで追いかけて古傷を開いたり治したりして生きていくのかなぁ、という自分の未来の心の成長にも興味深かったりします。

ちなみに、個人的な後日譚ではありますが、母、病気を得て何やら諦めたように穏やかになり、私の方も意地を張っている場合でもなくなり、看病だのなんだのでぬるぬると関係修復。数年前に良い関係性のなかで見送ることが出来ました。母らしい旅立ちだったこともありますが、世代や時代の移り変わりってこういう風に出来てるものなんだなぁ、と、長い歴史に思いをはせて不思議な気持ちになった出来事でした。が!結局人生で一度も「母親に褒められる」という経験をしなかったのは納得がいっていないので(笑)いつか私も天国にいったら母に「意地を張っただけに、まあまあ頑張ったんじゃないの?」くらい言ってもらえるように日々過ごしていかなきゃなぁと思っております。

というわけで少々自分語りが多くなってしまいお恥ずかしい限りですが、『わたしのお母さん』、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる映画だと思います。おすすめです。

11月11日から東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開中。


(C)2022「わたしのお母さん」製作委員会