見出し画像

「めっちゃ泣いた」のその先へ。『あの花〜』鑑賞後には絶対これを観てほしい

U-NEXT映画部・林です。昨年末公開された超話題作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が、いち早くU-NEXTで配信開始されました。

1945年にタイムスリップした現代の女子高生が特攻隊員の青年に恋をして…という物語が中高生を中心とした若年層に刺さり、当初の予想をはるかに超えて興収45億円を突破した本作。

若者に届いた要因は「とにかく泣ける」という宣伝であり、「めっちゃ泣いた」という口コミでした。となるとやはり、戦争を美化している、特攻隊をただ「泣ける」で消費させるとは何事だ、という声が上がります。これまで数々の戦争映画、特攻映画が公開された際にも、常に言われてきたことのように思います。

ただ仮にスタートは泣き目的だったとしても、この作品をきっかけに多くの中高生が、80年という時の流れの中で次第に薄れゆく特攻作戦という史実を、ある程度自分に引き寄せて「感じる」ことができたなら、それは大きな意味を持つことなのではないでしょうか。

個人的にも本作からは、「こういう事実が確かにあったのだ」ということを今の若者にしっかり伝えたいという真摯な思いを受け取りました。

ふたりの主演俳優本人たちの内面から滲み出るまっすぐさも、大きな魅力になっていました

さて、『あの花〜』を観たら、絶対に観ていただきたいドキュメンタリーがあります。ちょうど映画の公開前日であり、真珠湾攻撃の日前日(2023年12月7日)に放送されたNHK「BSスペシャル」の『特攻4000人 生と死そして記憶です。

航空特攻で亡くなった人数は、およそ4000人とされています。それをただ「4000」という数字で片付けず、4000人の本籍地を日本地図上にひとつひとつ光らせて表示し、時に顔写真と名前を付していくことで、私たちが油断すると忘れてしまうこと=彼らにはひとりひとりの人生があり、ひとりひとりに愛する人たちがいた…という当たり前のことを、実感としてわからせてくれます。

そして彼らが、どのような編隊を組み、故郷から遠く離れたどの地で、どのようにして亡くなっていったのか、日本軍の記録と米軍の映像資料を駆使して詳細に再現していくのです。また、昨年閲覧が許可された特攻隊員たちの膨大な数の遺書を紐解き、彼らが最期に何を考えていたのかを追い、その想いを残した遺族を訪ね、残された側の人生も浮き上がらせます。78年経ってなお、ひとりの隊員に毎日想いを馳せる99歳の女性の涙が、特攻や太平洋戦争は色褪せた歴史ではなく、彼らの中ではまだ続いているのだということを語ります。

とても誠実で、優れたドキュメンタリーだと思いました。『あの花〜』とリンクする部分もあります。映画を観てせっかくめっちゃ泣いたのならば、特に中高生の皆さんにはその涙をさらに深いものにしてほしいなと思います。

『あの花〜』の主人公はタイムスリップしてあの時代を生き、特攻隊員と出会いました。99歳の女性はあの時代から、いや、あの時代をずっと生き続けています。「歴史」は教科書で眺めるだけのものではなく、自分と地続きであること、それも割と近いところにあるのだということを痛感させられます。


【参考】U-NEXTで配信中の主な特攻関連映画

最後に、U-NEXTで観られる特攻関連映画をご紹介しておきます。

『あの花〜』でも描かれた、軍指定の食堂を構えた鳥濱トメさんの話を元にする映画、特攻作戦の生みの親とされる人物に焦点をあてた映画、終戦からわずか8年後に公開された映画など、その時々の空気感の下に、さまざまな映画が生まれています。

永遠の0』(2013年)

「臆病者」と蔑まれた天才零戦パイロットと、その孫の思いが交錯するドラマ

俺は、君のためにこそ死ににいく』(2007年)

『あの花~』でも描かれた“特攻の母”の視点から描く、知られざる戦争の一面

あゝ決戦航空隊』(1974年)

特攻隊の生みの親・大西瀧治郎中将の生涯と、特攻作戦の全貌を描いた戦争大作

最後の特攻隊』(1970年)

70年代東映のオールキャストで描いた戦争巨編。監督は「野性の証明」の佐藤純彌

雲ながるる果てに』(1953年)

家城巳代治監督が特攻隊員たちの苦悩や悲劇を感動的に描いた、反戦映画を超えた名作


誰が一番愚かで、誰が一番悪いラスボスだ…などと断じられるほど、世界はきっとそんなに単純ではありません。しかし特攻が正式な作戦として組み込まれてしまう戦時下という状況は極めて異常で、戦争はあってはならないものである、ということだけは間違いないし、どの映画にも共通しているメッセージです。


©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会 © 2013「永遠の0」製作委員会 ©2007「俺は、君のためにこそ死ににいく」製作委員会 ©東映 ©東映 ©独立プロ名画保存会