見出し画像

映画鑑賞とサッカー観戦の喜びは似ている

カタール大会が開幕しました。U-NEXT映画部・林です。個人的には4年に1度の生き甲斐イベント。1ヶ月続く夢のお祭りの幕開けです。

普段はいろんな国のクラブチームに散らばっているスター選手たちが自らのルーツに戻り、出身国別に分かれて戦う。すると不思議なほど、その国の歴史や国民性が反映された、各国ならではのスタイルが滲み出てくるのです。攻めか守りか、自由か規律か、個人か献身か、情熱か冷静かーー。これを感じ、味わうことは、ゲームの勝敗を超えた楽しみであるように思います。それはまた、その国に興味を持つ機会にもなり得るのです。

ある国の空気を感じ、そこに住まう人々の精神性を味わう。サッカー観戦の喜びは、映画鑑賞のそれと一緒だとも思います。

サッカーと映画の共通点は他にも色々とあって…

・現代サッカーの起源は1863年、映画は1895年。つまり百数十年の時間軸の中で培われてきた歴史を持つ点
・限られた国や地域だけの人気や文化ではなく、地球上ほぼすべての国で愛される存在である点
・各国で独自の発展を遂げながら、でも共通のルールがあって、お互いの国のトレンドが刺激し合って進化し続けている点
・世界的な権威といえる賞や大会がある点
・各国に歴史的レジェンドがいる点

こう考えると、映画とサッカーはともに、他の国に興味を持ち、彼らを理解し、リスペクトするきっかけとなり得るものなのではないでしょうか。

…などと、開幕の高揚感にまかせて、素敵なことを書いてしまいました。

さてここからは、グループリーグごとに、世界にあまり類を見ないであろう「サッカー✕映画」のゴチャ混ぜ寸評をお送りします。各国の代表選手ならぬ代表映画は、あくまでも個人的な好みと気分で選んでいるものですのでご了承ください。

GROUP A【カタール/エクアドル/セネガル/オランダ】

開催国が入るので最も渋いグループ。ここはオランダが頭ひとつ抜けているでしょう。オランダ人監督(サッカーの、じゃなくて映画の)といえば、ポール・ヴァーホーヴェン。80年代から90年代にかけてハリウッドで活躍し、『ロボコップ』『トータル・リコール』『氷の微笑』と、数々の話題作を手掛けました。2006年にオランダに戻って作ったのが『ブラックブック』。ナチス占領下のオランダを舞台に、ユダヤ人女性レジスタンスの波乱の人生を描きます。

オランダ『ブラックブック』

2位はセネガルかエクアドルか。昨年公開された『カナルタ 螺旋状の夢』は、エクアドル南部、アマゾンの熱帯雨林で暮らすシュアール族に密着したドキュメンタリー。かつて首狩り族として恐れられたシュアール族に、日本の太田光海監督が1年間にわたって住み込み撮影。彼らの生きざまや人生観を見つめます。

エクアドル『カナルタ 螺旋状の夢』(製作は英国&日本)

GROUP B【イングランド/イラン/アメリカ/ウェールズ】

GROUP Bはイングランドでしょう。ここ30年のイングランドで一番強いかも。個人的には優勝候補の3番手です。このグループには64年ぶりに出場するウェールズも入っていて英国対決が実現するのも興味深いところ。ということで、英国といえばケン・ローチダニー・ボイルガイ・リッチーエドガー・ライトほか、数え切れないほどの良監督がいますが、優しくてすごーくいい映画だった『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』を代表映画に挙げておきます。『ラブ・アクチュアリー』も撮っているリチャード・カーティスさんの作品ですね。サムネだけでじんわり泣けてきます。

イングランド『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』

2位通過はアメリカだと思っているのですが、アメリカ映画は流石に多すぎて代表選出割愛。代わりに中東随一の映画大国・イランでいきましょう。まずは何といっても巨匠・アッバス・キアロスタミ。『桜桃の味』でパルムドールを受賞しました。そして、新・巨匠とも言えるアスガー・ファルハディからは毎作目が離せません。傑作サスペンス『セールスマン』ではアカデミー外国語映画賞を受賞しました。

イラン『セールスマン』

GROUP C【アルゼンチン/サウジアラビア/メキシコ/ポーランド】

おそらく最後の出場になるであろうメッシ率いるアルゼンチンを1位通過予想。その勇姿をしかと見届けたいものです。アルゼンチン代表映画にはスペインとの合作映画『家へ帰ろう』を選びます。仕立て屋を営む老人が、第二次大戦中に命を救ってくれた親友へ"最後のスーツ"を渡しにブエノスアイレスからポーランドへと旅するロードムービー。奇しくも今大会、アルゼンチンとポーランドが相見えるのですね。本作を観ていると勝手に感慨深し。

アルゼンチン『家へ帰ろう』

2位通過はポーランドと迷うところですが、7大会連続ベスト16進出という偉業を成し遂げているメキシコと予想。映画界でもここしばらく、仲良し3トップ(アルフォンソ・キュアロンアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥギレルモ・デル・トロ)が暴れています。ここではギレルモの『パンズ・ラビリンス』を代表選出。物語の舞台はスペインですが、悲しくて切なくて残酷で、でも優しくて美しい、圧倒的なダークファンタジーです。

メキシコ『パンズ・ラビリンス』

GROUP D【フランス/デンマーク/チュニジア/オーストラリア】

優勝候補筆頭のフランスが1位通過予想。しかしここで注目したいのは、戦力も充実、団結力も抜群のデンマーク。かなり上まで勝ち上がる可能性もあります。

映画界でも重要なポジションを占めているデンマーク勢。ラース・フォン・トリアー、スサンネ・ビアニコラス・ウィンディング・レフン等、独特な魅力を放つ監督が多数生まれています。ここではトリアーと共にデンマーク発の映画運動「ドグマ95」を始めたトマス・ヴィンターベア監督の『アナザーラウンド』を選出。本作はアカデミー国際長編映画賞を受賞しました。主演の"みんな大好き"マッツ・ミケルセンもデンマーク人。映画のデンマーク代表もかなり強いですね!

デンマーク『アナザーラウンド』

GROUP E【スペイン/ドイツ/日本/コスタリカ】

さぁ、ついに来ましたGROUP E。日本代表にとっては、桜か侍かと見紛うばかりの美しい散り様を見せた伝説のベルギー戦以来、4年5ヶ月ぶりに物語の続きが始まります。あの試合の直後、世界との差を問われた西野監督が絞り出した「すべてだと思いますけど、わずかだと思います」という言葉がずっと心に残っていますが、この「わずか」をひとつずつ埋めていって、2050年までに優勝という壮大な目標を達成するためには、今回のドイツ、スペインとの本気勝負はとてつもなく大切な機会です。その「すべて」で「わずか」な差が、今はどんな風になっているのか。刮目したいと思います。

映画でもドイツ、スペインは有名監督を多数輩出しています。ドイツからは、ウォルフガング・ペーターゼンヴェルナー・ヘルツォークライナー・ヴェルナー・ファスビンダーヴィム・ヴェンダースローランド・エメリッヒ等々。もう名前が強そうですよね、名前が優勝。スペインからはやはりペドロ・アルモドバルですね。アレハンドロ・アメナーバルもいます。そしてホラーから出てきたジャウマ・バラゲロジャウマ・コレット=セラもスペイン出身です。

しかしここは験を担がせてください。二十六人の侍が輝けるよう、この映画を置いておきます。

日本『七人の侍』

GROUP F【ベルギー/カナダ/モロッコ/クロアチア】

前回大会で日本に世界の壁を教えてくれたベルギーは、今大会ももしかしたらベスト16で相見えるかもしれません。そこで生まれるであろう感動のドラマに強く期待するところですが、映画のベルギー代表は、カンヌに愛されたダルデンヌ兄弟。実際にそこに「いる」としか思えないリアルな人物描写を強みとして、ほぼすべての作品でなんらかの賞を獲っています。ここでは、パルムドールを受賞した『ロゼッタ』を選出します。

ベルギー『ロゼッタ』

36年ぶり2度目の出場を果たしたカナダは、開幕直前の親善試合で日本を破っており注目です。カナダ出身の映画監督には、デヴィッド・クローネンバーグジェームズ・キャメロンドゥニ・ヴィルヌーヴジェイソン・ライトマンなど錚々たる面々が名を連ねますが、ここでは若き天才グザヴィエ・ドランを代表選出。『わたしはロランス』は24歳の時に監督した、性同一性障害の男性をめぐる傑作ラブストーリーです。

カナダ『わたしはロランス』

GROUP G【ブラジル/セルビア/スイス/カメルーン】

フランスと並ぶ優勝候補のブラジルが引っ張るGROUP Gは、ストイコビッチ監督率いるタレント集団セルビアに注目です。セルビア映画からは、エミール・クストリッツァ監督の『ライフ・イズ・ミラクル』を選出しました。ボスニア紛争を背景に、敵味方に分かれた男女の愛と苦悩を描いたドラマ作品です。現在、親ロシアの姿勢を示しているという情報もあるクストリッツァ。ユーゴ内戦という悲劇に見舞われた当事者にしかわからない何かがあるのでしょうか。ユーゴ内戦といえば、1992年当時最強と謳われながら国際大会への出場権を剥奪されたユーゴ代表最後の監督であるオシムさんが今年亡くなりました。日本サッカーの恩人でもあるオシムさんに胸を張って報告できるような日本代表の、そしてストイコビッチの戦いを観たいものです。

セルビア『ライフ・イズ・ミラクル』

GROUP H【ポルトガル/ガーナ/ウルグアイ/韓国】

ポルトガルとウルグアイが2強と思われるGROUP Hですが、映画界では韓国が惚れ惚れするようなタレントを誇ります(ポン・ジュノイ・チャンドン、パク・チャヌク、ナ・ホンジンホン・サンス等々)。個人的にはポン・ジュノの『殺人の追憶』とイ・チャンドンの『オアシス』が甲乙つけがたい2強。何度見返しても、魂を撃ち抜かれてしまいます。

韓国『オアシス』

そしてなかなか珍しいガーナ映画『アフリカン・カンフー・ナチス』をご紹介。「第二次大戦を生き延びたヒトラーと東條英機は逃亡先のガーナを制圧すると、空手と魔術で人々をガーナアーリア人として洗脳し、世界侵略の拠点を築いていた」…。ストーリーが強すぎる上に、なぜか字幕は関西弁。かなり遊んでます。

ガーナ『アフリカン・カンフー・ナチス』

サッカーと映画の中において、発想することは自由です。戦争ではなく、サッカーで清々しく勝利を目指して戦って、映画の中で互いを理解し、リスペクトし、一緒に笑い合いたいものですね。


©2006 FILM ©Akimi Ota 2019 © 2013 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved. ©MEMENTOFILMS PRODUCTION–ASGHAR FARHADI PRODUCTION–ARTE FRANCE CINEMA 2016 ©2016 HERNÁNDEZ y FERNÁNDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A. © 2006 ESTUDIOS PICASSO,TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ ©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. ©1954 TOHO CO. , LTD. ALL RIGHTS RESERVED. ©Les Films du Fleuve © 2004 STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - CABIRIA. Tous droits réservés. ©2002 Cineclick Asia All Rights Reserved. © 2020 BUSCH MEDIA GROUP. ALL RIGHTS RESERVED