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“明るい不穏映画”の闇が深すぎた~『ハッチング―孵化―』&『PITY ある不幸な男』~

昔から暗闇が苦手=ホラーも苦手だったけれど、数年前に劇場で『ミッドサマー』を観て、「明るくても怖いもんは怖いし、明るさがむしろ不穏!」と気づかされたのが洋画ホラーに対して心を開き直りはじめたきっかけでした。ねじれの面白さに興味があります。映画部の宮嶋です。

※まずはみんな明るく絶望した『ミッドサマー』、未見のかたは必見。

『ミッドサマー』
(2019年|アメリカ・スウェーデン)
作品詳細ページ:https://video.unext.jp/title/SID0048817


さてさて、劇場公開時にポスターを見た時から「明るすぎて怖い!!」と映画部みんなで色めき立った作品の配信がスタートしました。

はい、どーん!北欧から来た不穏すぎる1作。

『ハッチング―孵化―』
(2022年|フィンランド)
作品詳細ページ:https://video.unext.jp/title/SID0073820

“素敵な奥様インフルエンサー”として発信を続ける母と、その家族。そこに巣くった“何か”が、「幸せな家族」像のなかでイビツに成長していくお話。

母親が作るハッピーオーラ満載の家族の空気感、それに人生まるまる付き合わされる家族。ベースがキラッキラの承認欲求(他人の評価)だから、自分軸がブレていてどんどんおかしな方向に行く母親と、そのキラッキラにあてられてできた影を見せることすら許されない家族…。

お母さーーーん!幸せってそんなんじゃないの、気づいてーーーー(泣)

許されない影の中に巣くった“何か”の正体がわかってきた時のやるせなさと言ったらありません。

でも、お母さんの「自分が素敵な家庭を築いている」と思いたい/思われたい、「いい人生を歩んでいる」と認めてほしい。「幸せそう」に見られたい。それはちょっと分かる気がしません?必ず幸せになる、幸せでいるぞ、という強い意志、むしろ意地もあるんじゃないかなぁ…そう思うと、少しシンパシーも持ってしまったりもするのですが。

北欧の映画で、このヴィジュアルからも分かる通り、インテリアや衣装がとっても可愛いのです。可愛くて、だから不穏。ひたひたと感じる怖さ、違和感の大きい作品です。子役さんの熱演もすごくて、むしろ心配になるくらい。

監督は新鋭の女性監督、ハンナ・ベルイホルム。ホラーの新潮流を作る人かもしれませんね!次回作が楽しみです。

もう1本、明るい闇映画を。

『ハッチング』のお母さんは動画SNSにハマっていましたが、デジタルネイティブではない大人世代だと、もはやSNSという文脈など必要なくナチュラルに盛大に承認欲求をこじらせることが出来る、というお手本のような作品(コンテクストがおかしいですがお察しください!)。

青い空と地中海に囲まれた美しい国(私の頭の中では『マンマ・ミーア!』)、なのに奇才ヨルゴス・ランティモス監督を生みだすという多面性が興味深い国・ギリシャから来ましたこちら、どーん!

『PITY ある不幸な男』
(2018年|ギリシャ・ポーランド)
作品詳細ページ:https://video.unext.jp/title/SID0065492

ランティモス監督の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』等と同じく、エフティミス・フィリップが脚本を手掛けています。なるほど納得…。

妻が事故でこん睡状態になり、周囲から「悲劇のひと」と見做されること、それにより得られる高揚感と具体的なメリットに取りつかれた男のお話。

具体的なメリットって言ったって、大したことじゃないんです。ご近所さんからのケーキの差し入れとか、クリーニング代をサービスしてもらったとか、そういうこと。

その行為とともに差し出される周囲からの憐みの感情にドーパミンが出るようになっちゃったんですね…。「可哀想に」が報酬。「お気の毒」依存症。可哀想な自分が超きもちいい状態。

あー、ちょっと分かる!可哀想な自分を印籠のように使いたくなったこと、ある…!そういうのは、時間が悲しみを癒してくれると同時に我に返ったりするものですが。

でも彼の場合、そんな時に妻が意識を取り戻してしまって。承認欲求のようなかたちでマックスに肥大化した自己憐憫のゆくえは…。

この作品もインテリアや美術のセンスが抜群。舞台がギリシャということで風光明媚、仕事のあいまにビーチに出かけたり、スカッシュしたりの爽やかさ。しかもユルいユーモアまで混ぜ込んでくるんです。

心の闇が明るい!明るくて怖い!! クライマックスのえげつなさが際立ちます!!


明るくて不穏な映画を2本ご紹介しようと思ったら、2本とも承認欲求の暴走的なものが根底に流れている作品だったのが面白い。

最近は、ソーシャル・メディアがこれだけ広まって、ごく普通の人たちが不特定多数に評価され、「いいね」に気持ちが振り回されるというネガティブな面が可視化されたためか、こういう心理を背景にした映画、多いですよね。

それはおもに先の見えない不安や現実の友人関係の狭さとあいまった若者たちがSNSでの評価と現実のあいだで迷走していく独特の感情として描かれることが多かった気がします。(『ディア・エヴァン・ハンセン』とか、せつなかったな…)

とはいえ、お互いにほどよい分量でいいペースのコミュニケーションが取れるのならば当然、デジタルの中で世界は無限に広がり、楽しいこと・面白いことの情報にあふれている場でもあります(実際私もこの『PITY』はTwitterのお友達に教えてもらって視聴したのです!本当にありがたいことです)。

SNSでも実社会でも、承認欲求を上手にコントロールしつつ、何かに依存せず、自立しながらコミュニティの中で素敵なことをギブしたり時々テイクさせてもらったり、良い距離感であまり闇を抱え込まず、「いいね」の数に一喜一憂するのもほどほどに楽しんでいきたいなぁと自戒をこめて思う今日この頃です。


…でもこのU-NEXT映画部noteには、ぜひぜひ「いいね♡」よろしくお願いします!あれあれ?承認欲求どーんwww





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