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目先ではなく、長い目で見ること、続けることの大切さを改めて思う

フランスでは、ミニシアターの観客の半数以上が35歳未満だそうです。さらには、3歳から14歳の子どもが全体の15~20%を占めているとのこと。日本とのあまりの違いに驚きました。U-NEXT映画部の林です。

上のデータは、私も登壇させていただいた「全国コミュニティシネマ会議2024」の中で語られていたことです。日本のミニシアターにはあまり子どもの姿を見かけないし、お客さんの結構な比率を中高年層が占めているように思います。

フランスでは1980年代に映画鑑賞者が減ってしまい、その対策として打たれた手のひとつが、子どもへの映画教育でした。89年に中学校、94年に小学校、98年に高校での映画教育がスタートしたとのこと。30年間の努力の結果が、冒頭の状況なのですね。なんと素晴らしい。

全国コミュニティシネマ会議に参加した翌日には、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の表彰式にお邪魔してきました。「映画の新しい才能の発見と育成」をテーマに、46回目を迎えた世界最大級の自主映画の祭典です。U-NEXTでは2021年からサポートを始めました。

今年の応募総数は、前年から135本増の692作品。ここ17年で最多だそうです。中でも18歳以下の応募数が225%と激増、18歳以下の出品料を3,000円から無料化したのが奏功したとのことで、19本の入選作品の中には14歳の監督による映画もあります。18歳以下の入選作品は合計3本。こちらも、素晴らしい。

もちろん若い人だけを応援する映画祭ではありませんが、文化や産業を長い目で見たら、絶対に若者を迎え入れた方がいい。U-NEXT映画部も、若いお客さんが古今東西様々な映画に触れられる環境をご用意して、結果、映画人口を増やせたらと思ってやっています。

PFFアワードは50年近くの継続の結果として、多くの才能を輩出してきました。入選およびグランプリに輝いた監督には、森田芳光、黒沢清、塚本晋也、橋口亮輔、矢口史靖、李相日、タナダユキ、石井裕也、早川千絵、山中瑶子ら、錚々たる面々が名を連ねます。

そして本年も、この系譜に連なる受賞作が発表されました。入選作をこちらにまとめています(2024年10月31日まで)ので、グランプリ作品を筆頭に、ぜひ明日の日本映画の光を、ここから見出してください。

【グランプリ】
『I AM NOT INVISIBLE』
監督:川島佑喜(21歳/武蔵野美術大学 造形構想学部 映像学科)

フィリピンで暮らす祖母との会話を通し、自身のルーツに迫る
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Eプログラム

【準グランプリ】
『秋の風吹く』
監督:稲川 悠司(26歳/フリーター)

一貫したやるせなさに彩られた7本の短編集。アニメーション、実写、人形劇、活弁など様々な実験的手法で繰り出される
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Hプログラム


【審査員特別賞】
*作品名五十音順
『END of DINOSAURS』
監督:Kako Annika Esashi(26歳/国連職員)

福井市に住む帰国子女のエイコは、平凡な日常を漫然と生きる
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Gプログラム

『これらが全てFantasyだったあの頃。』
監督:林 真子(27歳/会社員)

役者志望のえみは、引っ越し中に見つけた脚本によって記憶が蘇り、虚構と現実の境目が曖昧になっていく
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Dプログラム

『松坂さん』
監督:畔柳 太陽(25歳/フリーター)

執筆中の脚本にぴったりな女性と出会ってしまった木嶋。淡い思いは台本を抜け出して現実と呼応する
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Hプログラム


【エンタテインメント賞(ホリプロ賞)】
『さよならピーチ』
監督:遠藤 愛海(22歳/京都芸術大学 芸術学部 映画学科)

演技に悩む主人公の前に、映画の中から女優が飛び出してきて…
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Aプログラム


【映画ファン賞(ぴあニスト賞)】
『ちあきの変拍子』
監督:白岩周也、福留莉玖(18歳、17歳/米子工業高等専門学校 放送部)

自分を抑えて生きる千秋の学校生活は“別人格”の登場で一変する
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Eプログラム


【観客賞】
『あなたの代わりのあなた展』
監督:山田 遊(28歳/劇団主宰)

互いにデートをすっぽかされた男女の、“代わり”のデート
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Cプログラム

個人的に好きだった作品は、ここにも書きましたが、審査員特別賞にも輝いた『松坂さん』。本筋じゃないところに挟み込まれる数秒のちょっとした行動、発言の描写が本当に上手で、こういう人間への観察眼と、観察結果の中から何を選び取るかのセンスが、映画を作る上では命なのだなぁということを改めて感じさせてもらいました。

そしてもう一本は、惜しくも受賞はなりませんでしたが、『わたしのゆくえ』です。セリフは極めて少なく、主人公の日常が淡々と映し出されます。と書くと退屈そうな印象を与えてしまうかもしれませんが、古びた都会の街並みと、交通、生活、TV、ラジオ等の雑多な音が、セリフに代わって雄弁に何かを語ります。何かとは、人間の孤独であり欲望であり切なさでありくだらなさであり。そして日常の中に突如訪れた、小さな非日常、冒険……が強烈に何とも言えない終わり方をして、それでも日々は続いていく。切り取る画と音の確かさと、主人公・難波さんが醸し出す強さで、なぜかずっと目を離せなくさせる力を持った1本でした。オススメです。

『わたしのゆくえ』
監督:藤居 恭平(32歳/会社員)

ある男の調査資料を作成する難波が取った行動とは…
※本作を観られるのはPFFアワード2024 Eプログラム


U-NEXTでは、過去の錚々たるPFFの入選作品アーカイブも見放題で配信しています。こちらもぜひ、お楽しみください。


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