地球を知り、考え、行動する ~ジオパークから未来に思いを馳せる
はじめに
みなさま、こんにちは。阿蘇ユネスコ世界ジオパークの永田と申します。今回は、私たちが取り組んでいる「ジオパーク」について紹介します。
ジオパークは、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の正式なプログラムです。ユネスコは、その目的の達成のために様々なプログラムを持っていますが、ジオパークは2015年に正式に仲間入りした比較的新しい取り組みです。よく、世界遺産の地形・地質版と紹介されますが、そうではありません。ポイントは、このコラムのテーマでもある「地球」です。
ジオパークとは
「ジオパークとは、地球の事を知り、未来を考える取組です」
そう実は、単なる大切なものやこと(遺産)を守るプログラムではなく、守りながら未来を考えアクションを起こすものなのです。ただ大切なモノを守っているだけではジオパークとして認定はされません。ジオパークとは、地球科学的意義のあるサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発のすべてを含んだ総合的な考え方によって管理された、1つにまとまったエリアなのです。でもなぜ今、地球の事を守り、アクションを起こさねばならないのでしょうか?阿蘇の事例から紐解いていきましょう。
阿蘇のこと
阿蘇ジオパークは、九州の真ん中、熊本県にあります。地球にあいた大きな窪地(カルデラ)が特徴的で、その大きさはなんと東西に18 km南北に25 kmもあります。この特異な窪地は、約27万年前~9万年前に4回の巨大噴火によりつくられました。このうち9万年前の噴火はすさまじく、火砕流は海を越え山口県や長崎県まで届き、火山灰は北海道やオホーツク海でも見つかっています。
現在ではこのカルデラの中に約5万人、カルデラの周囲の火砕流台地には約2万人が暮らしています。
そして阿蘇カルデラでの暮らしの中で、切り離せないものが活火山中岳。636年の中国の「隋書倭国伝」に「阿蘇山あり、其の石、故なくして火起こり、天に接すれば、俗以て異となし、よって祷祭を行う」と記されるほど、古くから活動が認められており、私たちの暮らしに密接に関わっています。現在でも、噴火がはじまれば火山灰をまき散らし、野菜が灰でおおわれるなどの被害も発生します。しかしその一方、カルデラの中央に数々の火山が存在することで、豊富な湧水と地下水に恵まれていることも忘れてはなりません。
巨大噴火の影響
阿蘇はカルデラをつくるような巨大噴火があり、活火山とともに生きていると述べました。しかし今後、カルデラを作るような巨大噴火はあるのでしょうか?そして、その影響は、どのようなものになるのでしょうか。
<夏のない年>
例えば1991年に発生した20世紀最大の噴火、ピナツボ火山(フィリピン)の例では、1992~93年の世界の平均気温は0.4度低下したと言われています。日本では冷夏となりお米の不作が起きたため、インドネシアやタイからお米を輸入したことを覚えている方もいらっしゃると思います。このように、大きな噴火は地球規模での寒冷化をもたらす可能性があるのです。そしてカルデラをつくるような巨大噴火は、さらに大きな影響を人類にもたらしたことがわかっています。例えば、リンジャニ・ロンボクユネスコ世界ジオパーク(インドネシア:ロンボク島)のサマラスカルデラは、1257年に巨大噴火をおこし、その翌年に中世ヨーロッパに異常な低温や大雨と洪水による飢饉をもたらしました。また江戸時代(1783年)の天明の飢饉は、アイスランドや浅間山の噴火が原因の1つである可能性も示唆されています。
まず、知ることから
上記のような噴火は、現在の中岳の噴火とは比べ物になりませんし、頻度もそんなに高くありません。そして、このようないつ起こるかわからない危機に対して、実は私たちは備えるのが苦手です。だからこそ地球の歴史を紐解き、まず知ることから始めることが大切です。阿蘇や日本以外のカルデラはどのような噴火をしたのでしょう?そして、そこに生きている人はどんな暮らしをしているのでしょう?そういった、知的好奇心やアクション、多文化への理解が、未来の惑星・地球で暮らすヒントをもたらしてくれるはずです。そしてそれは、地震や水害などの災害、気候変動など地球の仕組みや成り立ちが深くかかわる社会課題に対しても大きな意味を持つと信じています。是非、お近くのジオパークや大地の歴史に触れてみて、未来を空想してみてください!
(文責) 阿蘇ジオパーク推進協議会 事務局長 永田紘樹
ジオパークについて詳しくお知りになりたい方は、以下関連リンクをご覧ください。
・阿蘇ユネスコ世界ジオパークHP
・日本ジオパークネットワークHP
・ユネスコの自然科学プログラムについて