インパクト思考がシード期の起業家にもたらす価値。返済不要の総額120万円ファンドから見えた3つのこと
2021年10月から開始した返済不要の総額約120万円の擬似インパクトファンド「UNERI Capital」(*1)
2021年11月より4名の起業家に対して総額120万円を提供し、5ヶ月間のプログラムを開始しました。
プログラムにおいては、資金提供・インパクト戦略の伴走だけに止まらず、インキュベーションプログラムのノウハウを活かして起業家の行動変容につながる設計を随所に入れ込みました。
実証実験パートナーである採択者4名とともに、擬似ファンドを通した社会実験のプロセスを座談会形式で振り返ります。
キーワードとなったのは「お金」「仲間」「インパクト」の3つでした。
採択者プロフィール
インタビュアー
河合将樹
株式会社UNERI 代表取締役
1995年愛知県生まれ。大学在学中、イギリス留学を経て、世界11ヵ国240人と共同生活をする内閣府事業に参加。地方から社会課題解決に繋がるチェンジメーカーを育む場の必要性を感じ、NPO法人ETIC.にて学生起業家向け私塾の運営に従事した後、2020年に株式会社UNERIを創業。
Capitalの価値①「お金」ー「事業を妥協しなくていい」「ここがあるからまだ大丈夫」さまざまな選択肢を考える余白が生まれる
河合:はじめに、UNERI Capitaに申し込んだときの状況や、どんな課題や期待があったのか教えてもらえたらと思います。
鶴田:Capital申し込み当時は、目標額2,000万円の緊急避妊薬のクラウドファンディングを始める前だったんだよね。
クラファン成功のために、動画やデザインをプロに依頼するか迷っていたんだけど、それにはある程度のお金を用意しないといけなかった。当時はデザインや動画のクオリティに対する葛藤があったなと思う。
田口:MAAHAチョコレートの事業は「冬とバレンタインに全集中!」という感じなので、それ以外の時期は会社の運営を自己資金で人件費を補っていることも多かったんです。
今回、自己資金を削らずに人件費を出せたことがすごくありがたくて。バレンタインに向けて、事業に集中できた覚えがあります。
お金以外の面だと、メンター的な存在が当時いなかったので、会社の悩みや事業についてみんなと相談できる関係性があるのはすごいありがたかったなって思います。
栗本:我々の場合はプロダクトが完成したのは去年の8月頃で、それから実証実験を立ち上げようという状況だったんですね。
自治体向けの取り組みって時間かかるじゃないですか。当時はまったく予算化に向けた動きが見えていなかったのもあるし、投資の話もまとまってなかったので、何をやるにしてもお金がないとどうしようもない状態で。
お金がないと実証実験もできないし、実証実験ができなければ投資の話も進まないし…。前に進めるためには、ある程度まとまった資金がないとしんどいなってところが率直な状態でした。なのでもう全てが課題で、その課題を突き動かすための、一番最初のビリヤードの玉のようなイメージで期待をしていたところです。
河合:もう少し詳しく「1人あたり30万という資金」についてお聞きしますね。お金の用途としては、これから大きなチャレンジをしていく上での、土台として使いたいというニーズが大きかったんですか?
鶴田:手元の資金0円でクラウドファンディングでお金を集めるのって、結構難しいと思っていて。数十万円の初期投資はさすがに必要で、そのためのお金という認識だったんだよね。
一旦30万あったら、デザイナーさんに絵や動画も発注できるし。クオリティを妥協しなくていいっていうのは結構ありがたかった。
もしも資金がなかったら、クラファンをここまで上手くできなかっただろうなぁと思う。All or Nothingだから、失敗していたら丸ごと2,000万円の資金がなかったかもしれないし。最初の30万円はめっちゃ大きかったよ。
あと、書類申請で資金の用途を先に決めなくてよかったのもありがたかった。助成金とかだと綿密に、何費何万円と決まった項目があるから、そういったものがないのがめっちゃありがたかった。
河合:そう言ってもらえるのは嬉しいな。「お金を出して(細かい用途には)口を出さない」は、Capitalで大事にしてたことです(笑)
栗本:うちの場合は自治体との実証実験が予算化されないので、我々が持ち出しでやらないといけなかった。もしこういった資金提供がなければ、ライスワークをしなきゃいけなかった状況に陥っていただろうなと思います。
あともう一つ、具体的に手を動かしてみたときに、想定していなかった追加の支出ってよくあると思うんですけれども。「まだこの30万円があるから大丈夫だよな」っていう気持ちの安定はありました。いろいろな選択肢を取れるなっていう余白がすごく生まれたなという印象があります。
もしこのお金がなかったら、「コストかかるけどどうしよう?」というのがボトルネックになって判断できないことや、よりハードな選択を迫られていたことがあるんだろうなと思いますね。
Capitalの価値②「仲間」ー心理的安全が担保された場で、起業家同士がともに学び合う
河合:当時を振り返ってみて、UNERI Capitalはどんな場だったんだろう?
栗本:年代が近くて、ポジティブな意味で気を張り詰めすぎなくていい場所でしたね。事業のメンタリングもですけど、それ以上に何か心が落ち着く時間だったっていうような感じです。
鶴田:他のプログラムだと「評価されてる」みたいに感じる機会があったりするけれど、Capitalはそういうのがない。事業のアップダウンがある中で、成果を出さなきゃって思い続けていくのは結構大変だから、すごくありがたいなと思っています。
田口:SNSだけ見てると「あー自分ヤバい」って焦らされたりするけれど、そこで見えるのってほんの一部であって。
「こういう悩みって共通だよね」とか、「それ、昔経験したことがある!」とか。Capitalはオフラインのような空気感で話せることがあって、ここがなかったら張り詰めていた時期も多かっただろうなって思います。
あとこの場がなかったら、一歩引いて会社を見る機会がなかったな。会社のメンバーやお客さんとしか話していなかったので、「何ヶ月後どうなっていたい」を考えてる暇がなかった。
河合:なるほどね。今回は起業家同士で話し合う、メンタリングし合うという部分も価値があったんじゃないかと思うけれど、ここは実際どうだった?
野村:心理的安全性が担保されてるコミュニティで話せる時間があるのは、全然違うと思う!会社の中で自分1人で考えるのではなくて、安心感を持って相談できるっていうところが、メンタル的なメリットだったな。
栗本:会社とか法人を背負ってる人たちだからこそ、という側面が強いですかね。ここじゃないと相談できないことがある、というよりはこの話せる環境があること自体が価値あるというか。
各々が各々の場所で頑張ってるんだから、自分も頑張ろうと思える。対話の内容よりもっと手前のところに、僕はすごい意味があるんじゃないかと思ってますね。
お互いにピュアな思いや自分の目指したい世界があって、自分の人生の時間削ってやってることをやってる人たちと喋ること自体が、僕にとってはすごい励みになってました。
田口:UNERI Capitalで心理的安全性が確保されてたなと思うのは、みんな基本的に否定しないでわかってくれるところ。わかってくれるからこそ、さらけ出せる部分が多かった。
未熟な悩みや状況をシェアしても、「そうなんだね、大変なんだね」「それでも頑張ってるね」から入ってくれるのがめっちゃ嬉しかった。これだけいろんなことを受容してくれるのは、UNERIならではだったと思います。
あと話しながら問いを投げてもらうことで、こちらの引き出しが開くこともあって。「最近、どういう状況なの?」とみんなから投げかけられる中で、自然と視界が広がっていくことが、Capitalの価値だったなと思います。
Capitalの価値③「インパクト」ーシード期だからこそ、今後の方向性が大きく変わる礎石となる
河合:実際にインパクト戦略をつくる過程を通じて印象的だったことや、実感した価値って何かあったりしますか?
野村:めちゃくちゃあります。戦略やロジックモデルをみなさんと一緒に考えて可視化できる機会ってなかなかなくて。特に、自社が達成したい指標を明確に考える機会になったと思っています。
あと、私が皆さんのロジックモデルを作っている過程を見れたことも印象的でした。人によって悩むポイントが違って、長期的なビジョンはあるけど短期的に何をしていくのかで悩んでいたり、逆に中期は見えてても長期的にどうしたいかで悩んでいたりとか、私以外の3人とも全然違うプロセスが生まれていましたよね。
栗本:プロのフィードバックがある状況で作るのは、全く質的に違うものができると思いました。1人だけで作るのはなかなかしんどいので、一緒に作ってくださったのはすごいありがたいです。
「ロジックモデルの作り方」というレクチャーはいくらでもありますが、結局それってどうやるのか?というプロセスから、個別メンタリングなどで伴走して考えてくださったのは、ものすごい価値があったなあと思います。
田口:私は最初、日本側とガーナ側の2軸で事業を考えていて、自分ではある程度整理できてるかなって思ってたんです。
けれど、ロジックモデルを作る中で、「急に神様が出てきて、日本かガーナどっちかしか選べないって言ったらどうする?」と問いを投げられたときに、そんな質問を初めて受けたので真剣に考えました。
その結果、ガーナの側への思いの方が強いなと思って。「ガーナに集中するんだ!その上でSNSやワークショップをやるんだ」みたいに優先順位を決められたことでかなり気が楽になったし、ガーナにしっかり投資できるようになりました。思考の整理に役立ったなって感謝してます。
鶴田:やっぱり、定期的に自分の進みたい方向とかを考え直さなきゃと思う時間があるのはありがたいよね。
野村:他の人のロジックモデルを見ることで、プログラム以外の場面で他社のロジックモデルを見る力もついたなって思いました。
あまり知らないサービスでも、ロジックモデルを見ただけでどういう思いやプロセスで中長期を捉えているか、読み解く力が身についたと思います。
河合:なるほど。それぞれの会社の中で、特にどんな「指標」を意識するようになったのか。指標を意識する必要性を感じている場合は理由もあればお聞きしたいです。
田口:元々は「(MAAHAを通して)ガーナのことを考えるきっかけを届けたい!」と言ってきたんですけど、指標を考える時に実際どこまで広まったら自分は納得できるのか、意外とイメージできてなかったなと感じたんです。
インパクト戦略を立てて、「何人のガーナ人を雇うのか?」「生み出した金額はどのぐらいになるのか?」「MAAHAのおかげで人生変わったと言ってくれる人が、どれだけ生めるんだろう?」と、意識するようになりました。
日本では美味しいものを提供して、得た利益でガーナ側で変えていく方がより早く大きくインパクトを出せるんじゃないかな?って。
本気度を聞かれたからこそ、考えるきっかけになりましたね。「日本の人がどういう状態になったら満足なの?」って聞かれたときに、全然答えられなかったので。重要なタイミングで教えてもらえたなって思ってます。
栗本:指標にせよスーパーゴール(*5)の設定にせよ、定期的に見直さないと、腐るなとは思いましたね。自分は変わっていないと思っていても、変わってるという前提で捉えて、しっかりと時間を割いていくことの重要性を感じました。明確に変化があったなと思います。
うちの会社は今後、インパクトファンドからの投資を前提に考えていくので、ロジックモデルを作るという作業はおそらくもう相当長い間、ひたすら繰り返さなきゃいけないことだと思ってます。
野村:私も必要性あるなと思っています。どちらかというと「行き当たりばったりでもやってみよう!また次やってみよう!」という考え方がこれまで強かったんですよ。
でもインパクト、ビジョンベースで数字や指標も含めて、「こういう状態をリベラベルとして作っていきたい」という2年後5年後10年後の姿を考えてみると、今このシード期の意思決定をすることが、より感覚として強く持てるようになったなというのは思います。
インパクト志向の若手起業家に伝えたいメッセージ
河合:最後に、これからUNERI Capitalに続く次の人たちに、メッセージをいただければと思います!
資金調達をまだしていないシード期から、インパクトを考える必要性はどこにあると思いますか?
田口:私たちの世代は、SNSやクラウドファンディングでプロジェクトの入り口を作ることができる時代に生まれて、恵まれてるなと思うんですけど。
そこからサステナブルに広げていくためには、仕組みを取り入れていくことが重要になります。補助金を活用するにも数字に気をつけなきゃいけないし、このプロジェクトはどういうインパクトがあるのか、今のロジックモデルを見ながら整理しています。
もし今後、投資家さんにプレゼンする機会があった場合、客観的に意味がある事業だということをその場で説明ができるかどうかは、これからの成長に大きな影響がありますよね。
そういう姿勢や思考の癖が出来かかっているというか、ヒントを教えてもらえたのは、今後にとって重要なことだなって。ここを乗り越えられるかどうかで、事業の大きさが変わってくるんじゃないかと思ってます。
野村:私はビジネスモデルが人の数だけグラデーションがあるのと同じように、会社の数だけロジックモデルのグラデーションがあると思っていて。
同じプロダクトで市場が一緒で、ビジネスモデルも一緒であったとしても、愛ちゃんの会社には愛ちゃんの会社にしかないロジックモデル、何をどういう風にしていきたいっていう思いがありますよね。
私たちが作っていきたい社会・ビジョンに向かっている、他にはないと思えるものを可視化して作られる手段がロジックモデルかなと思いました。
栗本:インパクトはものすごく重要だと思います。結局「その会社がなぜ存在するのか」を突き詰めて、ビジョンを実際にどう具現化をして、世の中に様々なアウトカムを出して、波を立てるように浸透させていくのか。多分それが「インパクト」というところだと思うんですよね。
特にシード期のインパクトのことを考えるよりは、「1個でも多くの案件とってきてお手元にお金を残すことが重要だよね」という方もいらっしゃるとは思うんですけれども。
それであったとしても会社をやるんであれば、会社が何のために存在をしてるかっていうインパクトを考えることが存在証明になると思うので。せっかくやるんならそこに時間を割くのも意味があるんじゃないのかなとは思っていますね。
河合:そうだね。日本ではまだ事例が少ないけれど、国内でもこれからインパクト投資(*7)や、ESG投資(*8)、ベンチャーフィランソロピー(*9)などが注目されていくだろうね。
栗本:そういった流れの中で、例えばインパクトみたいに定量的に測れるものも追求していく必要があるでしょうし。
あるいは定量的に測れないとしても定性的にどのように世の中に影響を与えていくのかを元に、ベンチャーに対して投資・寄付をしていくエコシステムは確実に増えてくると思っています。
そこに目を向けておくことは、これから新しく生まれてくる様々なファンディング方法に、しっかりと対応できるものになるんじゃないのかなという実務的な考え方もあります。
河合:不可逆にそういう時代になってくると、僕も思っているので。今回の学びが1個でも何か持ち帰れるものになっているなら嬉しいなと感じました。ありがとうございました!
(文章:後藤 / 編集:河合、太田)
今後のお知らせ
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