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変な友達 観察記 1

「まりんちゃん」

その日、「登山したいなー」そんなSNSのつぶやきに「いいね」をしたのは、他の誰もがやるような軽い相槌のような感覚で、わたしは別に登山がしたかったわけではなかった。大学時代のサークルの友達、まりんちゃんが呟いてたから「いいね」した。ただそれだけだった。大学を卒業して1年半ぐらいたった頃だ。まりんちゃんは大学時代に同じ美術研究会に所属していて、でも特別親しかったわけではなかった。お互い他に仲のいい子がいたし、そもそもわたしは常に学科の設計課題に追われていてユーレイ部員だったのだ。

一通りSNSを眺めてスマホを閉じようとした時、通知が来ていたことに気がついた。誰かな珍しいこともあるものだ、ともう一度SNSを開く。すると送り主は「登山したいなー」のまりんちゃんだった。「高尾山登る?登っちゃいます?」やたらテンションの高い文字が目に飛び込んでくる。あれ、わたしたちそんなに仲良しだったかな、と少しおかしさが込み上げてきた。わたしもテンション高めに「登っちゃおうか〜」と返信し、堪えきれずにふふっと笑う。こんなはじまりも悪くない。それからわたしたちは、半年に1回遊ぶ仲になった。

まりんちゃんは苔とステゴザウルスとガチャガチャが好きで、いつもよくわからないグッズや図鑑を見せてくれる。登山の時は苔図鑑を持参し途中で観察するのだと張り切っていたが、いざ苔を前に肉眼で図鑑と見比べて「よくわかんないなぁ」という。わたしが「苔はルーペでみるもんじゃないの」というと、たしかに! と笑うまりんちゃんはいつもどこかぬけていてまじで変人だ。そもそも今まで遊んだことのなかった限りなく〝知り合い〟に近い友達を、いきなり登山に誘うなんてどうかしている。

半年に1度のお誘いはいつもまりんちゃんからだ。だいたい春と秋。まりんちゃんからの通知が届く。「うねちゃん。秋になりましたので、会いましょう」

これが、わたしの変人で最高な友達の1人目、まりんちゃんのお話だ。

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