🏛️エレンコス〜問答　📌 2024 12/8 真ん中の“三島由紀夫”

📌2024 12/8  真ん中の“三島由紀夫”

当文芸誌連載でシリーズ・三島由紀夫を書き綴っているのだが、素材“三島由紀夫”を通して見る現代、の様な空想感覚を都度に感じる今日この頃。そんな論考もまた一興であるかな？と思い、ここで挑戦してみようと思う。

①“お茶漬けナショナリズム”

これは上手い、上手い言葉の当て方だな、と。そして当時の雰囲気も、もしかしたら現代と余り変わっていないのではないか？と。もう50年は経てるであろう三島由紀夫の自決。だが余り国内の思潮というのはそこまでの変動は…ないだろう。そしてこのネーミング、というかはタイトリング…編集柳井としては“三島由紀夫って本当に極右だったのか？”という疑念から始まっているものだから、この“お茶漬け”という言葉を当てる辺り、三島由紀夫の持っていた“庶民感覚”を彷彿とさせる。例えば極端に三島由紀夫が本物の右翼であったなら、こういう当てがいはしないのではないか、と。“真ん中”の庶民感覚から見ても何だか日本人の中のナショナリストに“食べやすさ”や雑炊的な“薄味”を感じていたか？

それが結構、現代の思潮にも当て嵌っている様な気がする。そしてそれが何故一向に変わらないのか、戦後80年を経て尚、未だに思潮状況に変動がないのか？と問えば答えは簡単で、まだこの国は実質的にアメリカの被占領国であるからであり。現代の日本では“ナショナリズム”、“国家主義”を声高に訴えるには、アメリカの意向をどうしても慮らねばならない。そこの縛りから抜け出し得ていない状態が80年間の日本の“変わらなさ”である。

②『憂国』、小説及び映画

これに深く立ち入り文芸批評を加えると、肝心の当方のシリーズ・三島由紀夫の内容に影響が出てしまうので深くは立ち入らず。故に外殻的に。

『憂国』とは附ってはいるが、作品の質量の半分のエロティズム描写でここが編集柳井として大いに引っ掛かる。まあよく言われる事だが、死の間際程人間の性的欲求が昂まる、と。というのは此方、例えば同状況で女性と対峙したならば、こうなるかな？と。獣欲の赴くまま事を達して、意を決する、か？思い残す事なく“それ”をして果てる…？ただこの作品は二・二六事件の反乱軍の鎮圧を命ぜられた将校が志も供にした同志を打つ命に肯んぜず、妻と自決、“心中”すると言う物だが、三島の市ヶ谷での事件に直結する最たる作品であり。実際、事件時同件はあった様だ。

こうしたエロスには、自分はどちらかと言うと“希望”の余白をみた上での行為に感じてならないのだ。そしてそこに、その濃厚な肉体描写の表現を割く辺り、タイトルの『憂国』とそぐわない気が。“憂国”を抱いて“憂国”に直走る、人物が“憂国”一色、火の玉となって突き進む、のでは？“憂国”の対象の“国”よりも、対峙する女性への愛の情熱の方が優ってはいまいか？国命（軍命）に絶望・慨嘆してその非仁義に対して夫婦揃って死を持って拒絶…読みよう、見ようによっては、これは“反戦・反国家”的な“憂”とも見て取れる。

①に於いては、三島由紀夫程の名士であったなら国を右方向へ引っ張るならば如何様にもやり方があった筈で。詰まり、政治的な“局”を打てば国民一色ではないとしてもある程度固いナショナリズムの一党及び勢力を形成し得た。それを何故しなかったのか？は後代我々に残された三島由紀夫からの最大のミステリー・謎かけであって、何やら矢張り、三島由紀夫という戦後最大のスター、エンターテイナーとしての貫禄である証左。

②に於いては、これは小説作品であるので、作品判断は全て一人一人、この書を手に取った個人の自由に解釈してよいものであるので、更にどうこう言うつもりもなく。ただ自決後50年を経て発見されたフィルム、三島由紀夫自主制作による映画『憂国』、これはもう明ら様に、最後の自決への為のシュミレーションであるな、と。死、切腹へのイメージ・トレーニング。ただこの点も流石だな、と思う事にはこれが大文学者“三島由紀夫”研究の価値重き資料となる事、これも計算の内か？と。何たる入念さかな！ショーマン・シップなのかなんなのか？自分の命なのに。

現代日本を“三島由紀夫”が見たら？何を思う？恐らく三島由紀夫が生前見て思っていた事と同じ事を思って、書いて表現していただろう。詰まらない分析結果で申し訳ないが、ニヒリスティック、シニックか、そう思えてならない。

逆説的に現代の我々日本人にとって80年前の敗戦とは時間感覚、ほんの少し前の、ここまで思潮分断が起こるとは夢にも思えない程、直近の背中後ろの過去である。