🐉衣装歴史学 其の一、坂本龍馬 八十一

八十一、

又の又で、大変至極、まだろっこしく申し訳ないが、本テーマ稿ニ、三を遡り提示した、“中岡慎太郎主の薩長同盟”。この手を少々前進させる。

この時期の大局見地で一に薩摩、二に長州、と。乱暴な格付けか？だがやはり蛤の変事で薩摩が一等の座に着いた事実はよっぽどの長州贔屓の方でない限り了承して頂けるかと。では土佐は？と言って…明言すれば反幕の雄藩の裾、ぐらいであっただろう。当連載テーマでは山内容堂をより重くみて進めてはいるが、幕府-朝廷-反幕、全て推し並べて、計って手を打っていた点、これはまあ“酔えば勤王、醒めれば…”の世評を買って当然である。容堂よりに弁護的に言えば、打っていた手が裏目に出てしまって反幕勢力の一等の座を掴めなかった。

故に、活劇・坂本龍馬で現せられる土佐組全ての地下活動は相当にマニアックで陽の光の当たる事の、本来皆無な行動で。

坂本龍馬が何をやっていた？
中岡慎太郎が何をやっていた？
これらは全て、脱藩素浪人の自主活動であり、歴史及び当時の政局からは特筆される価値は低い。
その価値付けの低さに一石投じて大当たりしたのが昭和中期の司馬遼太郎版『坂本龍馬』。

よくドラマに再構築される中岡と坂本の地下会談。
これが良く通る。実際の残る資料でもかなりの頻度での邂逅があり、信憑性も取れる事は取れるが…

活劇では絶対に、“坂本と中岡が自主的に、坂本・中岡発の根回しであり計画であり提携会談に至る”と、手を入れるに困難なまでに凝固してしまった現代。

もう退屈な“活劇”観劇は止めよう。
これは一方は全て、長州は長州下ろしの指示。長州の手先は中岡。もう一方は全て、薩摩は薩摩下ろしの指示で手先は坂本。

故に“中岡慎太郎”という男はこの時、長州藩の看板を持つ一翼であった、とは言える。長州藩幹部からの信頼の元は？と問えば言わずもがな、京での乱に長州勢力に入って参加していたから。もう一つは乱以前からの反幕派の公卿からの信頼が厚かった事。もう少し突っ込めば、中岡が何故そこまでの位置に居れたか？と問えば、瑞山の打った手、そして瑞山の手駒としての、根回し上にいた、と取り。

これを、この人材を上手く活用させる、長州としての“利得”に繋ぐ為に。

よくよく資料を追えば追う程、長州藩の反薩摩感情に微妙さが浮き出て来る。よく通った話では草履の裏に“薩摩”など書いて踏んで歩いていた…などもあるのだが、そしてそれも一翼、長州幹部としては大っぴらに薩摩と交渉取るのも藩内政局的に宜しくない。

中岡慎太郎、及び土佐、更にの及びで他藩活動者を交渉事に当てれば自分達に反発派の矛先が向かい難い。もっと穿って、司馬・坂本伝の流れで後代に話が下り伝わって行くと永年長州藩にとって都合の良い歴史観となって続く。

“あれは土佐の坂本君と中岡君が発議して実行に移した件で、僕達長州の志士から薩摩と手を取って討幕に当たろうなどとは微塵も言っていない”、と。未来永劫、語り伝えて行ける。

一見、純粋な感情、曰く“義念”真っ直ぐの行動。その情熱の発露の、“源泉”は？例えば上記の推測的な言葉を桂や聞多辺りから下ろされたとしたら…？

“僕達が藩内の反薩摩派から追求される危険を避ける為に、中岡君！一肌脱いではくれまいか？”

蛤で失った長州精鋭は甚大だった。
幾人も、御一新後に役職に立てる者達がいた。
この“中岡慎太郎”という男。
純粋な尊王攘夷思想の志士。
長州の敗戦苦杯と共に下関まで落ちて来た。
残った若き長州幹部を護る為の盾となるならば…

実は中岡こそ反薩摩で。
幾人も同志を薩摩兵に殺されたのを見て来た男である。

今一度問う、中岡慎太郎を交渉事に当たらせた真意は？