日記20231112
聖山へ。
去年から知り合いの母子をつれて。
朝、西の有明山が重い雲からあらわれて、雪の条脈を山肌に見せていた。昨日は相当冷え込んだから、一日雪にまみれていたのだろう。
秋は聖山の嶺から始まって、順々に里山や麓まで下りてくる。
あれはいつくらいだったろうか、十月後半、聖の山並が秋色の宝石のように照り輝いてみえた。秋の色は赤に黄、橙、いろいろな色が雑然と、しかし微妙に調和して、目に楽しい。夏の緑一色で旺盛な色彩と、強い影をもった感じには疲れていた。
秋はもう、麓まで下りてきてから、嶺の林は灰色や銀色に晒されていて、ただ落葉松ばかりが木の高くに山吹色の針葉をのこして、わずかな葉を風に散らしていた。そのほとんど一様な淡い黄葉も美しく、山道をゆくと、ところどころで小さな木の実をみつける。多くは落葉低木で、マユミや、コムラサキ、ノリウツギなど。どんぐりはほとんど落ちていない。鳥も獣も気配がなくて、もう山の上では冬支度に入っているのだろうか。
週前半の予報では今日は雨雪の可能性もあったが、幸い天候はくずれず。陽が出てはまた雲に隠れて、山風も冷たかったが、気温はそれほど低くなく、山道を歩けば体も暖かくなった。
峠に出て、山の北側に回ると、薄い氷が積もっていた。雪でもなく霜でもなく、砕かれたような板状の氷塊が溜まっていて、多いところでは靴が埋もれるほどだった。それが土の上でとけて落葉を濡らすとよく滑るので、爪先を土に刺して、足をかけるとっかかりを小刻みにつけてあげる。氷はからからといって、不思議な感じだった。
山道も、高く、他山を絶する頃になると、風景が変わる。村々を仕切る山並みの壁をこえて、遠くの街までみえるようになる。平野は柔らかく光っているようで、そこに落ちていく幾筋かの山脈はいままさに白い雲霧に襲われて、吹雪の中にあるようだった。
いろいろ書こうと思ったが、飽きたのでやめる。後日、詩になることもあるかもしれないし、まあなさそう。
拾った木の杖を預かったので、また来年山登りに来るらしい。