Happy Xmas (仕事は終わった)#パルプアドベントカレンダー2019 #飛び入り参加

※この作品は #パルプアドベントカレンダー2019 飛び入り参加作品です


 アフターファイブ! 今夜は楽しいクリスマス! 俺は特に予定はない! それどころか仕事が終わったのに家に帰れない!

『仕方ないですよ、ブリザードの影響で交通機関が全部ストップしてしまって、市当局が外出禁止令が発動したんですから』

 俺の公私における相棒であるゴルフボールめいた小型AIドロイドが手厳しく指摘する。まったくその通りだ。よりによってクリスマスの夜にひどいブリザードがやってくるもんだ。仕方ないので俺は休憩室に向かうことにした。カフェテリアには誰かしら居るだろう。小型AIドロイドをバッグにしまい、自分の机を整理してからいこうとは思ったが、会社に予期せぬ泊まり込みになったので必要最低限に留めておき、オフィスの電子ロックをアクティベートさせてきちんと戸締りできているのか確認する。
 少し深呼吸してエレベーターホールに向かう。窓の外からは激しいブリザードが都市を襲っていた。ハイイロオオカミの遠吠えじみた風の音が窓越しから聞こえてくる。やれやれ、こんな夜に外出するなんてたまったもんじゃないな。
 エレベーターの下降ボタンを押すと、しばらく間をおいてから鈍い音でエレベーターのドアが開かれた。手早く所定の階数ボタンを押し、エレベーターが下降する。エレベーター内臓BGMにはカントリー・ミュージックが流れている。仕事柄かカントリー・ミュージックを日常的に聞いているのでそらで歌える曲が何曲かある。やがて停止して扉が開かれる。

 宇宙農業コンビナートめいて静まり返ったドローン・メンテナンスルームを横目にしばらく歩くと、休憩室にたどり着く。暖かいライトが迎えてくれた。

「あら、総務課の“ドロイド乗せ”エヴァンズじゃない、あなたも休憩室にやってきたの?」

メンテナンス部のアンジェラが俺を迎えてきてくれた。

「まぁな、アンジェラ。ブリザードで家に帰ることもできないから小規模ベンチャー企業の休憩室でクリスマスを過ごすことになるんだ」

 アンジェラはディスペンサーのコーヒーを紙コップに入れて渡してくる。気遣いがありがたい。俺はポケットに忍ばせておいたトークン素子を自動販売機に差し込みドーナツを購入する。手近な椅子に座り、コーヒーを飲む。コーヒーの味が染みわたる少しだけブリザードのことを忘れ、ほっと一息つく。俺はバッグから小型AIドロイドを取り出し明日の天気のことを話しかける。

『明日の天気は雪のち曇りです。最高気温は今日より1度上がる見込みです』
「アンジェラ、明日も雪だってよ。嫌なクリスマスだ」
「よりによってクリスマスの日にブリザードがやってくるなんて、今年はツイてないわね」

 まったくその通りだ。今年のクリスマスはツイてない。子のブリザードじゃサンタクロースは迷子になっているだろう。ドーナツをかじりながら窓の外に広がるブリザードのことを思いため息をつく。最悪な気分のクリスマスだ。最悪な気分を吹き飛ばしたいがアルコール類は流石に休憩室には存在しない。

 その時、休憩室の外から人影が見えた。システム管理課のウィリアムだ。プロジェクターを小脇に抱えている。

「アンジェラ! エヴァンズ! ブリザードの夜は退屈だからプロジェクターで映画を一緒に見よう! 退屈が少しはまぎれるとは思うぜ」

 なんて心強い! 会議室からCEOが時々ホームシアター代わりに使っているプロジェクターを持ち出してくるなんて!
 俺は早速小型AIドロイドとプロジェクターをコネクタ接続をして、映画配信サービスを起動させる。なるべくスカッとする映画がいいと俺は思った。カトゥーンという手もある。

「カトゥーンならストロベリー&ベスパも捨てがたいわね」
「俺は何も考えなくて楽しめる映画がいい」
「動物ドキュメンタリーが見たい」

 ブリザードが襲う街の小規模ベンチャー企業の休憩室でドーナツをかじりながら映画を見る。クリスマスなのに家に帰れない俺に許されたクリスマスのイベントになった。まったくままならいもんだ。



メリークリスマス。そしてよい年末を!


あとがき:この作品は #パルプアドベントカレンダー2019 に飛び入り参加するために書き下ろされた作品だ。完全に他愛もない日常生活に寄り添ったSFになっている。暮らしが大事ということだ。

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