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搦め手の都市

離陸した飛行機は徐々に高度を上げ空へ。何百人を乗せた巨大な鉄は白い影となる。

彼女は陽光に目を細めながら、同時に連動でもしているのか口元も軽く歪めて、白い影を見つめた。

「ひしゃげてしまいそう」

後ろから投げつけられた声に思わず振り返り、睨み付ける。少年は彼女の視線の方向を変えるみたいに指を横に振った後、彼女の手を指し

「金網。かわいそうだよ」

反射的に指を金網から離したあと無意識で握りしめていたことに気付いた。「今、飛んでいったよ」

「うん」

「誰も信じてくれなかったね」

今日の雲が糸状で縦と横に規則的に構成されていることを、偶然だと一笑に付された。

「空港って風の音もエンジン音もうるさいけど、大きすぎてあんまり気にならなくなるね」彼女は見上げながら自嘲ぎみに笑った。

「大きすぎるとむしろ何も感じないんだよ、きっと」

白い影が動かなくなった。遠すぎて分からなかったが、恐らくだいぶ前から動いていない。

「…絡めとられてしまう」

息が止まる。呼吸を忘れ見つめる。空を。

「…ぐみの途中ですが臨時ニュースをお伝えします」

端正な声が突然響き渡った。少年が持参した携帯ラジオの電源を入れていた。

「羽田空港発ボーイング209便が突如空中で静止いたしました。繰り返します。旅客機が静止いたしました」

「蜘蛛の糸に絡めとられた」

空を見上げる。

「大きすぎると、気付かないんだ、きっと」

少年が一人言のようにつぶやいた。

「蜘蛛はじっと待ってる。獲物が糸に絡めとられるのを。何で獲物は蜘蛛に気付かないんだ?糸は細くて透明みたいだから気付かないのは分かる。でも蜘蛛は大きくて色も派手だ。何で気付かない?それは」

「大き、すぎるから…」

エンジン音でも風の音でもなかった。この音は捕らえた獲物を物色しにやってくる捕食者の近づく音。

続く

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