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右手にナイフ。左手にサンドイッチ。

「お悔やみ申し上げるよ。サンドイッチ作りの片手間に殺られたんじゃコイツら報われねえ」

足元に転がる束の間の仲間達に、ちらりと哀悼の眼差しを送り直ぐさま正面の相手に向き直る。

奴は台所に立っている。

インチキ健康食品の営業でもやらされていそうな風采の上がらない男。ハムのような指。

右手にナイフ、左手にサンドイッチ。

正確にはまだサンドしていない、四角い、パン。

「実際に見て器用なもんだと感心したよ。よく片手でサンドイッチ作れるな」

じんわりと手に汗が滲む。滑り落ちそうで思わず自分の得物を握りしめる。

「父がね、多忙な人で、キーボード叩きながら片手でサンドイッチ作ってくれたんだ。サンドイッチは完璧だよ、野菜もタンパク質も炭水化物も同時に摂取できて、何より片手が空くって、ね」

「いいオヤジさんだ、なっ!」

言い終わるや体を思いきり前傾させ飛び出した。奴の投げナイフの速度に反応できたのは俺一人。他の連中は刺されたことも気づかず崩折れた。

奴までの距離はおおよそ2m、一足飛びで奴がナイフを投げる前に喉をえぐり取ってやる。

奴は俺の動きなど意に介さず後ろの冷蔵庫を開けバターを取り出した。俺の得物をバターナイフでいなしパンにバターを塗る。ああ、あのバターだ。フタとケースの間に穴が開いていてナイフが入るようになっているだろ?便利だよな、くそったれ!!

無性に腹が立った俺は絶対にサンドイッチを完成させないと決めた。奴を胃のなか空っぽであの世に行かせてやる!

首筋めがけて俺の得物を突き出す。鉤十字がいくつも付いた十手のような短剣を素早く刺し肉をえぐるのが俺の攻撃だ。どの得物にも言えることだが、当たらなければ意味がない。全く。奴がレタスを取り出すために開けた冷蔵庫の扉に弾かれる。そしてレタスをパンの上に乗せた。みずみずしく弾けそうに新鮮。

あとは何を挟む?卵か?パストラミか?あのくそったれの腹に収まる前に。

続く

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