little blackbird
大野頼雄は喧嘩っ早い性格で誰彼かまわず殴りかかり人生の大半を棒に振ってきたが、本人は背骨が一つ少ないせいだと思っていた。
彼は何か心に引っかかることを言われると頭で咀嚼する前に過剰反射してしまい気づくと相手が血まみれで【ああ俺の一つ少ない背骨のせいだ】とぼんやり思うのだった。
医者に聞いたところ、そんな因果関係は無いと一笑に付され半殺しにしてしまったが、彼の中では背骨が少ないことが自分の性格を決定づけているとイコール関係が成立しており他の介在をはさむ余地などなく、それもまた彼の性格のなせる業だった。
暴力で強制的に解決じみたことをして自分の問題を棚上げないし終了させる。要は暴力が一番手っ取り早く楽で魅力的な方法だったのだ。
そして大野頼雄は今、彼が頼ってきた暴力を瞬殺する圧倒的な災害とも呼べる力で文字通り圧殺されようとしている。
自分の問題を棚上げする際に責めた一つ少ない背骨もすっかり圧縮され握りこぶしに似たものになっていた。本人も潰されまるでパイのようで、もはや背骨のせいにも誰のせいにも出来なかった。
「大野頼雄ゲットぉー」
彼の眼が潰される前に見たものは気怠そうにつぶやく一人の少女だった。
「あ、出てきた…え〜何これ気持ち悪いー」
周りの肉が溶け転がってきたものは白い小さな骨だった。少女はそれをつまみ上げ薄目で覗いて値踏みしようと見つめた。
「背骨…?こんなのが人生の拠り処なの?せめてお金とかなら良かったのに。暴力事件程度のチンピラの人生はよく分かんないなーまあいいや。お仕事お仕事」
無造作にポケットに骨を放り込み何も遺さず立ち去る。
大野頼雄は夢をみた。
彼の背中から黒い鳥が背骨を一つ、ついばみさらって飛んでいく。
ああ、やはり俺の一番大事な部分は最初から無くなっていたんだ、と彼は安堵した。
罪人の鼻をついばむ黒ツグミ。
それが少女の呼び名。
続く
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