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第R-23地区345区画、辺境にて

どいつもこいつも好き勝手言いやがって…

シミズは暴発しそうな心臓の鼓動をなだめようと悪態をついた。
息をできるだけ深く吸い、体を蝕む恐怖と苛立ちも出ていってくれるよう祈り吐き出す。えずくだけだった。

28年ともに在る猟銃を恋人を抱き寄せるように身に寄せた。雨粒がはねる細長い金属製の銃身は漆黒に濡れ、重く腕に堪える。だが頼みの綱はコイツだけだった。

銃で撃つなんてかわいそう?銀河の果てから高みの見物をかましている連中に何が分かる。こういう奴ほどいざ自分の近所にアレが現れたら声高に殺せとわめくに決まっている。想像力のない木偶どもだ。
次は怒りをまとい手の震えを止めようと試みる。こちらのほうが具合がいいかもしれない。アレから逃げることは不可能だ。やらなければ脳味噌をすすられるだけだ。

頭は狙えない。
アレの頭蓋骨は分厚くシミズの持つ弾丸では撃ち砕くことが出来ない。せめてND社製の特殊硬化弾を持ってくるべきだったか。
ここまでの大物がいるとは予想外だった。この辺りは中型程度しか目撃情報がなかった。金欠で準備を怠った自分を呪った。

狙えるとすれば、人間でいう【心臓】の部分。ここならシミズの装備でも撃ち抜くことが出来るはずだ。

しかしアレが既に進化を遂げていなければ、の話だ。アレが進化をしていたら心臓が複数個に増えている可能性がある。
あれほどの大物ならば第4段階くらいには成っているかもしれない。心臓を一つ破壊したところで襲いかかるスピードは衰えない。
撃った直後に自分は身を裂かれるだろう。

周囲に耳を澄ませる。
何かが這いまわる音はするが、アレの音ではない。
アレはこの星のイカれた王者だ。王者は這いずることも夜の闇に紛れることもしない。
アレは堂々と太陽の光のもと悠然と星を破壊して回り全てを喰らいつくす。
シミズは胸ポケットに潜む、冷たく硬く蠢く【切り札】を銃に装填した。
夜が自分を隠している内に終わらせなければ。

続く


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