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激動アフリカスタートアップ2023年のプレイバック
皆様、こんにちは!UNCOVERED FUND代表の寺久保です。2023年がもうすぐ終わろうとしています。今年は日本初となるアフリカスタートアップカンファレンスSHOWCASE AFRICA 2023の開催をはじめとする日本とアフリカを繋ぐ新たなチャレンジや、現地スタートアップ4社への新規投資、既存支援先11社が総額$81.4mのエクイティ、$120mのデットファイナンスで資金調達を実現するなど、愚直に成長を追い求めながらも常にハラハラ・ヒリヒリするような一年間でした。多くの新しい起業家との出会いや現地市場のダイナミックな成長、グローバル金融市場の変化を体感することで、改めて多くの学びや知見を得ることができ、いち起業家としてもベンチャーキャピタリストとしても多くを学ばせていただきました。また、スタートアップや日本企業に対して更なる価値を提供すべく新たな種を仕込み、チーム全体を強化する重要な一年間となりました。2023年の最後に、激動でもあり耐え忍ぶ戦いが求められた今年のアフリカスタートアップ業界に起きた様々な変化を振り返ってみたいと思います。
1. アフリカにもスタートアップ冬の時代が到来
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アメリカのテック銘柄の低迷や金利上昇等といった前年からの流れを受けて「スタートアップの冬の時代」がアフリカスタートアップにとっても大きな影響を及ぼした年となりました。2015年から2022年にかけての8年間でアフリカスタートアップ投資額は23倍に成長し、スタートアップの事業成長と共に世界の投資家の資金がめまぐるしい速度で投下され、起業家支援のエコシステムとしても急速な変化と成長を続けていました。2022年は世界的にスタートアップ冬の時代と言われておりましたが、近年組成されたファンドの投資枠が十分にあったため、アフリカスタートアップへの影響はそこまで大きなものではありませんでした。
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2023年もFintechやエネルギーセクターを中心に様々なディールへの投資が行われました。エジプトで銀行口座を持たない人向けのデジタルウォレット運営するMNT-Halanは2023年2月に$400mを調達し、アフリカ発の新たなユニコーンとなりました。ウォレットを通じた消費者向けレンディングも提供していますが、既に貸付金額は$2B(≒3000億円)規模に到達しています。
◻︎2023年アフリカスタートアップ資金調達リスト
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しかし全体的には2023年は投資額が前年比60%くらいになるだろうとの見立てがあり、資金調達の環境としてはかなり厳しい年でした。特にシリーズB以降の大型投資が減少し、レイターステージのスタートアップにとっては資金調達が進まない忍耐の期間が続きました。そもそもアフリカスタートアップ投資家の77%はアメリカや欧州を中心とした海外投資家と言われており、世界各地の市況によって大きく影響を受けてしまう点はアフリカスタートアップエコシステムに強固な土台を作る上で今後の課題なのかもしれません。
資金調達環境の悪化によりスタートアップ起業家は経営方針を転換する岐路に立たされました。様々な試行錯誤を続ける中で、基本的には以下5つの具体先が求められていたように感じます。
トップラインの成長より黒字化を優先
アセットライトな事業モデルへの転換
顧客の選定(単価の高い顧客にフォーカス)
高収益な事業モデルに注力(高単価 / 高金利 / 高コミッション)
レイオフやコストカットの徹底
上記に関する様々な施策を実行し、黒字化達成や目星がついたスタートアップはブリッジラウンド等を通じて資金調達を重ねながら、耐えながらも一歩ずつ事業を成長させていきました。実際には2022年の夏頃から冬の時代に備えて準備を始めていた企業が、今年に入り黒字化達成や利益を高めていた印象です。
一方で、全ての企業がそれに対応できていたわけではなく、残念ながら誰もが知っているような大型スタートアップの倒産も大きなニュースになりました。資金調達環境が悪化している中で事業モデルの転換ができず資金ショートを起こして事業継続が難しくなった事例が多かったように感じます。
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2. M&A / 経営統合を通じた新たな成長戦略
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2023年も様々なM&Aのディールが見られました。
まず注目すべきはチュニジアのAIスタートアップInstaDeepをBioNTechが買収したディールです。両社は2019年から協業関係にあり、2020年には癌や感染症に対する新規医薬品を開発するための戦略的提携と共同AIイノベーションラボを発表していました。2022年にはシリーズBで$100mの調達を発表しましたが、今回のM&Aでは評価額£362m(≒657億円)、更に将来のマイルストーン達成につき追加で£200m(≒363億円)が支払われるという合計で£562m(≒1116億円)の大型ディールが成立しました。InstaDeepへの期待の高さが伺えます。
また、FMCG領域のB2Bコマースを運営するWasokoとMaxABの2社による経営統合計画が2023年最後のビッグニュースとして発表されました。2024年Q1には手続きが完了するようです。Wasoko(東アフリカ)は累計$143mを調達したスタートアップで、MaxAB(エジプト)も累計$101mを調達しているスタートアップです。2社がマージすることで経営リソースを強化し、地理的なカバレッジを広げ、成長スピードを加速しながら更なる事業規模を目指していくという動きは今後レイターステージのスタートアップにとって、新しい成長戦略のモデルになるかもしれません。
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また、株式交換によるスタートアップ同士のM&Aも急増しました。アフリカ最大規模の自動車ローンを提供するAutockek社はエジプトのAutoTagor社を買収しエジプト市場へ進出、ウガンダでバイクファイナンスを提供するAsaak社もFlexClub社のメキシコ事業を買収し中米への進出を発表、ケニアのマイクロ保険事業を展開するTuraco社もガーナで類似サービスを運営するMicroEnsure社を買収する等、M&Aによって事業地域を急速に拡大するケースが見受けられます。
◻︎2023年アフリカスタートアップM&Aリスト
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3. 気候変動対策とグリーン成長を軸とした国家戦略
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2022年11月にエジプトでCOP27が開催されました。カーボンニュートラルは世界共通の課題であることが確認された事に加え、曖昧だった「ネットゼロ」の定義を明確にすることで、2050年時点での達成する基準やルールが厳格に定められました。その流れを受け、アフリカ各国がカーボンニュートラルに向けて大きく舵を切ったのが今年の特徴的な動きだったように感じます。
経済成長と脱炭素を同時に達成する「グリーン成長」の実現に向けて、アフリカ各国は国の成長戦略として脱炭素に対応する具体的な施策を計画し、国際機関や金融機関と連携したグリーンファイナンスに関する事案等が活発に動き始めました。
◻︎第一回アフリカ気候サミットが開催
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2023年9月4-6日までの3日間、ケニアの首都ナイロビで第1回Africa Climate Summitが開催されました。アフリカ初の開催となったこの歴史的なサミットはアフリカ大陸の気候変動対策に焦点をあて、地域の持続可能性、環境保護、エネルギー変革に向けた重要な議論が行われました。参加者は20カ国以上から集まり、各国首脳、国連代表など多岐にわたるステークホルダーが一堂に会し、アフリカ大陸の持続可能な未来を模索しました。
アフリカは温室効果ガスの排出量は全世界の2~3%に過ぎませんが、気候変動の影響を最も受ける地域の一つとされています。近年の環境変化は、サハラ砂漠の拡大、水資源の枯渇、食糧生産の低下といった深刻な問題をもたらし、人々の生活に大きな影響を与えています。
このサミットでは、「アフリカと世界の為のグリーン成長と気候資金の解決策の推進」をテーマに、気候変動への適応、温室効果ガスの削減、および環境保全に関する多くの議論が行われ、具体的な行動計画や国際協力の枠組みが模索されました。最終日には、「ナイロビ宣言」が採択され、資金調達や技術移転、政策協力などの重要性が強調されました。また、多くの国と国際組織がアフリカの気候対策を支援する意向を示し、具体的な資金調達や技術提供の約束が交わされました。
◻︎世界的な税制の導入を求める
・世界全体で炭素に共通の税をかけCO2排出の抑制
・気候変動対策へのファイナンスの量と質の両面での増加
◻︎脱炭素×経済成長をコミット
・再生可能エネルギーを軸とした経済発展計画にシフト。
・気候に配慮した農業の実践、自然や生物多様性の保護。
◻︎アフリカ発 カーボンクレジット生成
・2030年までにアフリカの炭素クレジット発行を19倍に拡大する目標の達成に向け、参加国が総額数億ドルの拠出を表明。
また、ボランタリークレジットのような第三者機関を通した相対の取引だけでなく、ケニアはナイロビ証券取引所でのカーボンクレジット市場の設立を準備しています。更にはエジプト、モロッコ、タンザニア等の国々でもカーボンクレジットに関する法規制や管理手段のルール整備を進める動きが進み始めました。
この辺りは以前弊社ニュースレターで詳しくまとめてますので、ご興味ある方はご一読下さい。
4. アフリカは脱炭素スタートアップが躍進する新たな時代に突入
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脱炭素はカーボンニュートラルは国家や大企業だけでなくアフリカスタートアップにとっても重要なキートレンドになってきました。
◻︎Climate Techへの投資が加速
特に今年はエネルギーや、アグリテック関連企業への投資が増加傾向にありClimateTech元年と呼べるような年になったように感じます。
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特に次世代モビリティの領域ではEV関連企業が台頭しました。ケニアを拠点にEV二輪や三輪車を提供するARC Ride社やRoam社、西アフリカを拠点にEV二輪を提供するSpiro社、公共交通バスのEV化を進めるBasiGo社等を代表するEV関連企業が続々と資金調達を発表しました。
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例えば、ケニアを拠点に活動するARC Ride社は既に提供するバイクの価格が約15万円程となっており、現地で販売されるガソリン車の小売価格とほぼ同額の水準までコストが下がってきております。主に現地バイクドライバーの95%は商用利用と言われており、1日平均100km程を走行します。ガソリン価格が200円/ 1ℓを超えてきており、1日あたりのランニングコストの高さが大きな悩みとなっています。バッテリー交換式のEVに変えることで、そのコストを約半分に出来ることは経済合理性の観点で現地ドライバーにとって大きなメリットとなっています。スタートアップが提供する次世代のモビリティソリューションを通じて、人の移動や物流に関する新しいインフラが創られようとしています。
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◻︎カーボンクレジット収益の活用
スタートアップにとってClimateTechの大きな変革点は、このカーボンクレジットにあると感じます。昨年開催されたCOP27に合わせて、アフリカ・カーボンマーケット・イニシアチブ(ACMI)が発足されました。同団体は、アフリカ諸国の民間企業やNGOがカーボンクレジットを発行するボランタリーカーボン市場での取引増加に取り組むことで、気候変動対策につながるという考えのもと、アフリカ諸国において気候変動対策に向けた資金調達の1つの方法となるボランタリーカーボン市場の拡大に取組んでいます。また、2030年までに年間で二酸化炭素3億トン分のクレジット発行と60億ドルの収入、2050年までに年間で二酸化炭素15億トン分のクレジット発行と1,200億ドルの収入を目指しています。
そのような新しいルール作りや法整備が行われることで、アフリカ-欧米企業間のカーボンクレジット取引が増加しています。特にスタートアップが事業を通じて生み出すカーボンクレジットを欧米の企業へ販売することは、所得が低いアフリカのエンドユーザーからのみでなく、B2Bで新たな収益源を確立することができる新しいマネタイズ手法として注目されています。
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例えば、ケニアを拠点とするSunCulture社は小規模農家向けに太陽光発電を組み合わせた灌漑システムを提供しており、現在約40,000世帯の小規模農家を顧客として持っています。アフリカでは小規模農家が多く、灌漑設備にアクセスできないなど、他国と比べて生産性の低さが課題となっています。SunCultureのソーラー灌漑システムを利用することで、年間の作付け回数を増やし収益を上げたり、ディーゼル発電機を使ってポンプを動かしていたランニングコストを削減することができるようになっています。
また、ディーゼル発電機をソーラーで稼働するSunCultureのシステムに置き換えることで、相殺したCO2をカーボンクレジットとして発行し、ヨーロッパやアメリカの企業へ販売しています。2023年には既に5万トンのカーボンクレジットを販売し、数億円の収益が見込まれています。そのクレジット収益をエンドユーザーに還元することで、顧客への提供価格を下げたり新たな事業投資を通じて競争力を高めています。
今までは、農業関連企業だと、低所得な農家からしか収益を得ることしかできなかったのがアグリテック関連企業の難しい部分ですが、B2Bで企業から新しいマネタイズ手法が確立されたことが非常に興味深いと感じています。
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その他にも、KOKO Networks社 (以下、KOKO)はバイオエタノール調理用燃料事業を運営しており、森林伐採による木炭の代替品として、ケニアの8都市の約100万世帯に低コストのバイオエタノール調理用燃料を供給しています。顧客は都市部に設置されたKOKO Fuel ATMからKOKO Fuelを購入することができます。
アフリカでは調理に使われる燃料として木炭が使われていることが多く、木炭1トンを作るために原料の木材は10トン必要になると言われています。KOKOは糖蜜から生成されるバイオエタノールを調理用燃料として提供することで、木炭の使用を削減しています。また、削減分をカーボンクレジットとして販売し、その収益でより手ごろな価格でサービスを提供できるようにしています。
日本企業の動きとしては、みずほ銀行と伊藤忠商事がKOKOがカーボンクレジット分野に関する戦略的パートナーシップを構築しました。この連携を通じてケニアで創出されたカーボンクレジットを長期にわたり調達し、KOKOと共同で日本企業向けに販売する長期オフテイク契約を締結しています。このような動きは、日本のカーボンニュートラル達成に向けて、アフリカの地の利を活かす新しい潮流になりそうです。
5. 2024年に向けて
最後に、今年も弊社アンカバードファンドに関わっていただいた皆様、本当にありがとうございました!冒頭にも記載させていただきましたが、支援先スタートアップの彼らの事業成長を通じて、アフリカ各地の課題を解決しながら、何千人もの雇用を作り、未来に続くインフラを創っていくという最高の挑戦に向き合った一年でした。
ダイナミックに変化するアフリカに身を置きながら、日々支援先の起業家の逞しさや強さに学ばせていただいています。まだまだ先の見えない混沌とした世界ではありますが、上手くいくことも、いかないことも、全てを楽しみながらより多くの価値提供ができるチームとして更なる成長を目指していきます。
弊社アンカバードファンドとしては、スタートアップ投資、日本企業との事業創出、カーボンクレジット創出支援といった3つの柱を軸に2024年も全力で駆け抜け、最高の年にしようと思います。皆様、良いお年をお迎え下さい!来年もよろしくお願いします!
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