0312 感想
読んだ本の感想を書くときは大抵ツイッターに流してしまうのですが、どこからどこまでがネタバレにあたるのか分からなくなったのでこちらに置いておきます。
もともとツイートしようと思っていたものなので長くはないです。
モノノケ踊りて、絵師が狩る。
─月下鴨川奇譚─
集英社オレンジ文庫
著:水守糸子
価格:640円+税
江戸末期の天才絵師が描いた妖怪画「月舟シリーズ」。
持ち主を憑き殺すというそれを、子孫である詩子(うたこ)は憑物落としで祓っている。
幼馴染の青年七森(ななもり)とともに、詩子は京の街で作品を追っていく。
水守糸子さん著「モノノケ踊りて、絵師が狩る。」を読みました。
以前にコミティアで買わせていただいた御本(同人誌)がぐいぐい引き込まれる面白さだったので、こちらも出版されてからわりと早めにお取り寄せを。
妖怪、あやかしの出てくる話はつい手に取りがちなのだけど、このお話はあやかしよりも絵に主眼を置いているように感じました。
妖怪が現れる怪奇現象や現代におけるそのおどろおどろしさにというよりは、日本画やそれを取り巻く人たちに視点がいっている感じ。絵に関わるひとがさまざま出てきて面白かったです。
あとこれはかなり私事なのだけど、何年か前に企画の題に「月下煌輝譚」とつけたことがあるのと、猫又とろくろ首が出てくる話を書いたことがあるので何だか一方的に親近感を覚えてしまいました。いやこんなど素人が何を言っているのだという感じですが。
作品は、「月舟シリーズ」に描かれた妖怪の名を冠する4本仕立て(と結び)。
何より好きだったのは、詩子さんと幼馴染の青年七森くんの関係性でした。
七森くんが詩子さんより六歳歳上というところにまずぐっと来たのですが、
京都の西の言葉の人たちが多いなかで丁寧語で話し続ける2人の醸し出す違和感と、過保護で素直な、分かりやすいようでいて後半の後半に見えてくる相手への本音とか、いっそくらくらするくらいでした。
互いに、相手が自分のことをどう思っているかを一番知らない。執着と「狂い」の物語、と称されていたことに読み終えて腹落ちしました。
(追記:作者である糸さんのツイートで拝見したのですが、詩子さんが七森くんの話し方を真似したからああなったのですね…!?ときめく)
一見するりと読めてしまうのに、たしかに執着と狂いという重たいものを孕んだ物語でした。それでもずしんと胃にくる重さではないのが良い読後感。
作中の妖怪画に出てきた妖怪たちのように、悪意や敵意によるものばかりではなかったせいかもしれません。
2人の関係性がどうなっていくのか、今後がたのしみだなあと思いました。
あと私はやはり錺屋さんのようなキャラクターに弱いのでその点でも続きが読みたいです。
素敵なお話をありがとうございました。