【超能力捜査】友人の命を救った被害者の霊・事件解決
1992年7月22日、アメリカ・アリゾナ州。大学生のステイシー・へンドリクソンが自宅アパートから突然姿を消してしまう。
実家オハイオ州の父親ローリー・ヘンドリクソンにとって、人生最悪の出来事だった。21歳の娘が痕跡も残さず行方不明となったのだから。親元から遠く離れ州で暮らしていたステイシーは、思いやりのある女性だった。
彼女は糖尿病の子供たちを手助けする研修を受けていた。自身も糖尿病であり、もし生きていれば、時間の経過が深刻な状態を呼び起こす。娘には48時間ほどしかないだろう、と父ローリーは心配する。時間が経つほど昏睡に陥ってしまう危険性があった。
この事件の捜査責任者となったリード刑事は、彼女が最後に目撃された自宅アパートから捜査を始める。冷蔵庫の中にはインスリンがあった。もし自分の意志で居なくなったのであれば、インスリンは持参するだろう。
彼女が行方不明になった夜、ルームメイトのバージニアは、母親宅に行っていて不在だった。刑事はバージニアから、ステイシーと交流のあった友達の名前を聞き出し捜査を開始する。
その間、オハイオ州にいる父親ローリーは、居ても立っても居られないでいた。彼は近所の人の強い勧めで、超能力者、ゲイル・セントジョンの元を訪れる。ゲイルは普通の人には見えないものを見たり感じたりすることで、これまでも行方不明になった子供達を探し出した実績があった。
ゲイルはローリーの声から、追い詰められているのを感じる。彼女がステイシーの写真を見た瞬間、振動を感じたかと思うと、ステイシーが隣に現れる。
ゲイルはローリーの手を取って言った。
「伝えなくてはいけないことがあります。ステイシーはもうこの世に居ません。」
ローリーは胸が詰まる思いだった。
ゲイルはステイシーのいる場所を描写し始める。
「小さな建物があります。ひだ状になった金属で奇妙な感じ・・。周りにフェンスがあります。土を動かす大きな機器も見える。どこにでもあるものじゃない・・。」
ローリーが、娘はその建物の中にいるのかと聞くと、中には居ないがとても近くにいると言う。水もかなり近くにあると。
ゲイルが下を見下ろすと土にヒビが入っているのが見える。見たことのない光景だった。ゲイルは見たもの全てを描写しながら、痕跡を辿るように歩き出す。
部屋の中を歩きながら独り言を言うゲイルを見たローリーは、自分の世界にいるようだったと言う。まるで今現在その場所にいるかのように。
彼女はビジョン以上のものを見ていた。
「ステイシーは声と共にビジョンを見せてくれました。感情と共に。最初に見せてくれたのは、後頭部を焼かれている感覚。それから手首の痛みを感じました。ロープか何かによる痛み。燃えてる何かが入ってきたと同時に、周囲が真っ暗になるのが見えました。」
ゲイルは、ステイシーは手首を縛られ、後頭部を撃たれて亡くなったのだと予測した。実際には、あえて見ることを避けた詳細なシーンも多数あった。
ステイシーのアパートでは、犯人の指紋が発見される。また、向かいの部屋に住んでいる住人が、何者かがステイシーの部屋のドアを押しながら叩いているのを聞いていた。
警察は彼女は拉致されたが生存の可能性はあると言う。その時点でのローリーは、ゲイルが言うことが真実なのか分からないでいた。
隣人は、誰かの足音が2階まで上がってくる音を聞いている。その後、ドアを激しく叩く音が聞こえた。覗き穴から見ると、25歳くらいの若い白人の男がドアを激しく叩いている。中からの応答はなかった。その男は肩と手でドアを押し、飛び蹴りをすると中へ突入した。
リード刑事が懸念したのは、この隣人が警察に通報をしていないことで。彼は、彼氏彼女間の喧嘩だと思い、関わりたくなかったと言う。そしてベッドに戻り、その後は何も聞いていないたため、それ以降の情報は得られなかった。
隣人が目撃した白人の男は一見好青年に見え、特徴のある黒いTシャツを着ていたと言う。
娘に何が起こったのか解明したいローリーは、リード刑事に電話をかけ、超能力者ゲイルから言われたことを伝える。
多忙で時間を無駄にしたくなかったリード刑事は、相棒の刑事にゲイルへ電話をかけさせる。しかしこれがのちに捜査の進行先を変えることとなる。
ゲイルはステイシーの遺体がある場所を刑事に伝える。南方にパームツリーがあり、チェーンリンクの柵、ひび割れた地面、傾いた屋根の小さなひだ状の小屋、土を動かす大きな機器が近くにある。そして彼女は、ローリーには伝えてはいないこと・・ステイシーは後部を撃たれ、殺されたと思うことを伝えた。
それを聞いたリード刑事は、使えない情報だと一笑する。この情報では捜査を始めることさえできなければ、ポリスラジオにも流せない。遺体さえ見つかっておらず、被害者の行方も分からないのだから。
もちろんゲイルが言うことは、それが的中したという経験がない限り、誰かを納得させられるものではない。
警察がゲイルに電話をした2日後のこと。運河の横にある大きなごみ容器の中で遺体が見つかる。リード刑事にとって、このような事件は日常的だったが、運河に沿って運転している時に、ゲイルが水のそばにステイシーの遺体があると言っていたことを思い出す。
警察車両から出ると、南にパームツリーが見えた。下を見ると地面が割れている。
「なんてことだ!圧延機・・つまりベルトコンベアーも見える。これは運河から流れてきた瓦礫を取り除きごみ容器に運ぶためのものだ!」
ゲイルが描写した「土を動かす大きな機器」に当てはまる。
リード刑事は首の後ろの毛が逆立つのを感じた。ゲイルが言っていたことが、これ以上マッチしようがないほどの映像として現れたからだ。
遺体は暑さと水によりひどく腐敗していた。写真付き身分証明書も識別不可能だったが、リード刑事はゲイルが言っていたことから、ステイシー・へンドリクソンだと確信した。
遺体を抱え上げると、手首に紐で縛られた跡が見えた。レントゲンを撮ると頭部を撃たれたことも分かる。
この時点でリード刑事は、ゲイルの能力とその情報へと方向性を変えていた。現実主義の刑事が超能力を信じ、彼女は他に何を知っているのだろうと考え始めていた。
彼はゲイルへ電話をかけて言う。
「犯人はまだ捕まっていませんが、あなたからの情報が現実になりました。」
ゲイルも、最初は怪しんでいた彼が、自分を信じ聞く耳を持ち始めたのを感じていた。
翌日ローリーは、身元確認をするためにアリゾナへ向かう。彼は遺体から発見された3つのダイヤモンドのイヤリングを見せられる。それは彼が娘のために買ったもので、大中小と並べて彼女が耳につけていたものだ。ローリーにとっては娘だと特定するのには十分だった。
ローリーはリード刑事に連れられ、遺体発見現場へ行く。到着するなり彼は呆気に取られた。彼が見た光景は、ゲイルが言っていた光景そのものだったのだ。
「悔しいのは、娘には常に、何かトラブルになったら自分に電話をするように言っていたのに、そしたらお父さんが駆けつけて対処するからと繰り返し言っていたのに、このようにゴミのように捨てられた娘の遺体を見ることになるなんて。受け入れるのは辛いことです。」
リード刑事はゲイルが犯人逮捕につながる情報を持っていないかと考える。
警察の中でも、ゲイルの言うことはデタラメだと言う派と、自身の経験からゲイルの話を聞くべきだと言う派の二つに分かれていた。
中には、ゲイルが容疑者なのでは?と言う者もいた。実際、犯罪シーンの詳細を知っている者は、多くの場合において犯人である。
遺体発見から数日後、リード刑事はゲイルから電話を受ける。彼女は、犯人が再び犯罪を犯すのを感じると言うのだ。その犯人はステイシーのルームメイトを狙っていると。ステイシーが殺された夜、母親の家にいたと言う女性である。
ステイシー行方不明事件は殺人事件へと変わり、地元あげての捜査となっていた。
ゲイルによると、ステイシーの魂が、次の被害者はルームメートのバージニアだと訴えているのだと言う。ステイシーはバージニアにこれから起こることを描写し、彼女の生命が脅かされていることに狂乱しているため、ゲイルもパニック状態。
その間、「もしもし?聞こえますか?」と電話が切れていないか確認するリード刑事。
「はい、聞こえてますけど、ステイシーと会話しながら、あなたとも話しているんです。」
ゲイルは、二つの世界の真ん中にいるような気分なのだと言う。
次はバージニアが被害者になると明言するゲイルに、奇妙な話だと思うもののリード刑事は、今回の経緯を考えればこれを無視することはできないと感じていた。
彼はバージニアを署に呼んだ。ゲイルによると、バージニアは犯人を知っているが、その男を容疑者にすることを躊躇すると言う。
彼はバージニアに、ゲイルの能力とその正確性について説明する。その間、ポラロイド写真を並べると、彼女は動揺しているように見えた。
そしてゲイルに見えていること、つまり同じ犯人が今夜彼女を殺すことを伝えると、顔から血の気がひき、真っ青になる。目から涙が溢れ、彼女はすぐさまに言った。
「ジョンをチェックして、ジョンをチェックして!」と。
ジョン・アダムスは26歳で地元のファーストフード店でマネージャーをしている。数週間前に出会ったこの男とバージニアはデートをしていて、その夜も会う約束をしていた。彼はステイシーとも何度か会っていた。
リード刑事はすぐさまジョンの職場へ向かう。ゲイルの言うことが正しければ、この男の指紋が現場に残されたものと一致するはずだ。彼はステイシーとも何度か会っていた。
ジョンはとても気さくで、捜査にも協力的だった。ステイシーのことも知っていて、バージニアとはデートをしていると言う。彼からは特に感情的な兆候は感じられない。
リード刑事は、捜査の手助けのため、顔写真と指紋を取ってもいいかと彼の許可を得る。その場を去る時の感触としては、容疑者とは思えなかった。容疑者にするには、とても冷静で落ち着きすぎる。
しかし彼の指紋は現場に残された指紋と見事一致する。ただしそれだけでは起訴するには不十分だった。凶器もなければ銃撃ともリンクしない。
ゲイルがくれた情報に、事実を組み合わせるのは自分の仕事だ、と捜査を続けるリード刑事。そして彼の努力がついに報われる時が来る。
ステイシーの隣人が目撃したという頭蓋骨のTシャツをジョン・アダムスが所有していたのだ。それだけでなく、彼は最近、凶器となった銃と同じ口径の銃も購入していた。ゲイルによる不気味な予測が再び裏付けられる。
リード刑事はジョン・アダムスを署まで同行させる。ジョンに自供を促す必要があった。取り調べを始め、ジョンと話す間、リード刑事はゲイルから受けた警告を思い出していた。
ジョン・アダムスには非常に気をつけてほしい。彼は恨みと怒りに満ちていて、若く素敵な男性から怒れる雄牛へと変わることができるのだと。
取り調べのある時点で、リード刑事がジョンが自白するだろうと感じた頃、彼は泣き始め、ステイシー殺害を自供した。
リード刑事は、殺人容疑で逮捕しなくてはならないことを告げた後、ジョンにとって感情的な言葉を使った。
「何が起こったんだ?」
すると、それまで悲観に暮れ、後悔の気持ちを表していた彼は、突然豹変する。下を向いて肩を落とし、手を握り締め涙を流していた男性が、瞬く間に怒れる雄牛となり、リード刑事を襲ってきたのだ。
再び、ゲイルが言っていたことが現実となった。
ジョン・アダムスは、ステイシー・へンドリクソン殺害の罪で起訴される。のちに彼は裁判所で全てを自白した。
7月22日午前2時。ジョンは薬物とアルコールを摂取した状態でステイシーの部屋のドアを叩き蹴りドアを壊す。そして寝室にいたステイシーの後頭部を撃った。枕が消音の役割を果たし、シーツが血しぶきを受け止めた。
ジョンはステイシーをシーツに包むと、運河に投げ捨てた。数日後、遺体は水から吸い上げられ、ゲイルが言っていた場所へと移動する。
ジョン・アダムスは法廷で過失致死罪を認め、懲役29年の判決を受ける。彼の言い分は、こうである。自殺しようとしていて、それをバージニアとステイシーに止めてほしかった。しかし誤ってステイシーを撃ってしまったのだと。
ステイシーの父ローリーは言う。
「罪のない人に対してこんなことは狂っていない限りできない。その動機も理解できない。娘は自分の部屋の自分のベッドで寝ていた。誰にも迷惑かけていないのに・・。」
リード刑事は、殺人事件を10年間扱ってきたが、ゲイルのような人に関わったことは今まで一度もなかったと言う。
ゲイルは言った。
「ステイシーはルームメイトの命を救いました。もし彼女が教えてくれなかったら、もし私の前に現れてくれなかったら、もう一つの殺人事件が起きていたでしょう。ステイシーの命を救うことはできませんでした。しかし、別の命を救うことができました。」