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すぐばれる、セコい自己保身の嘘をつく人間には職業柄ごまんと遭遇してきたが、一世一代のおおぼらを吹いて巨額の金額を集めたり、巨大組織をあざむき虚偽の取引を成立させる―といったニュースを見ると、昔からぞくぞくする。趣味の良くない性分なのは自覚している。

近年だと、第一生命の生保レディ(発覚当時89歳)が顧客の保険金19億円を不正に集めた事件や、積水ハウス地面師詐欺事件が挙げられる。後者については森功「地面師」(講談社文庫)が詳しい。主犯格の名前の独特さもあいまって、心をとらえて離さない。

小物詐欺師は、一歩間違えたら自分もそうなっていたかも・・・という同族嫌悪のような感情が先行するけれど、大物詐欺師は自分では絶対にありえない行動をとっているが故に、その言動にカタルシスを感じるのかもしれない。

そんな私が、昨年8月、囲碁将棋のイベントに参加した際に、街裏ぴんくという芸人にすっかり魅了された。こんな嘘だけで漫談を完成させるなんて。なんて人だ。シルエットもすごい。そのまま影絵になる。藤城清治の作品の中に紛れ込める。

最高のライブだった

帰宅後に経歴を調べると、なんと同い年だった。まじか。48歳ぐらいかと思った。芸の素晴らしさもさることながら、あの後頭部の感じとか39年で仕上がるものなの?もっとビンテージジーンズみたく月日を重ねたものではないの?と妙な感動を覚えた。

その後、ライブに行こうと画策したが、結局仕事の都合で行けず。そうこうしている間に、街裏ぴんくはR-1グランプリの王者となった。めでたいことだ。

しかし年度末は忙しい。23時台まで残業が続き、疲れからか今更ながら流行の病に感染した。悪寒に関節痛、偏頭痛、咽頭痛、鼻づまり、咳。めまぐるしく変わる症状におののいたものの、2日目夕方以降は少し落ち着いた。

暇だ。YouTubeは騒がしすぎる。ラジオは、スタッフの笑い声(←元々好きではない。我慢して好きなタレントの番組を聴いている)がカンに障りそう。でも暇だ・・・。

あっ、街裏ぴんくのポッドキャスト「虚史平成」、初回を聞いてる途中に仕事が入って、そのまま聞いてなかったんだった・・・。すっかり魅了された割には適当だった。

横になりながら、皿洗いしながら、クイックルワイパーをかけながら、聴いた。同い年故に、t.A.T.u.(←ちなみに2人とも同い年)のMステドタキャン、裏原宿ブーム、若貴フィーバー、愛・地球博等々、題材が刺さった。自分の笑い声を聴いて、声色がおかしくなっていることに気づいた。自己管理にも役立つ。

ジングル・BGMも素晴らしい。偏頭痛がひどかった2日目夜や3日目午前は、曲のトリップ感もあいまって、浮遊感を覚えた。作曲家が気になった。調べると、綿貫雪さんという2005年生まれの作曲家だった。また年齢に驚く器の小さな私だ。語彙力が乏しくて申し訳ないけど、とにかくすげえや。虚史平成。

なんとなく、ほうぼうへの不満が募った結果、体調を崩した自分に自己嫌悪を感じていたけれど、気分が上向いた。発症3日目の夜。体温は36度台前半に下がった。やった。ありがとう、ぴんく。週末のオールナイト0が楽しみだ。

・・・と思っていたら、ぴんくもコロナに感染との報が入った。まじか。オールナイトの代打はルシファー吉岡。どうぞお大事に。もう数十時間出ることなく過ごしている自宅からは、地面師事件の舞台となった土地に立つマンションが見える。

完成してからもうだいぶ経つが、内装・設備工事が続いているのか、入居は始まっていない。夜になっても、真っ暗のまま。嘘に嘘を重ねた取引のなされた土地に立つタワマンに住むって、すげえ虚って感じだな、とまた趣味の悪いことを考えてるのは、元気になってきた証。

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