ウナギ冒険譚〜ぬめり〜

 闇の中、ぬめりとした感触。ぬめりの持ち主は2本の触手。それらは互いに独立しており、自在に動きまわる。触手の一方の先端が開き、同心円状に並ぶ歯を顕にする。そして噛み付く! しかしぬめるので失敗。続いてもう片方のぬめりは自分の体を相手に巻きつかせる! しかしお互いぬめるので失敗。
「やるな、ウナギ(ぬるぬる)」
「お前もな、ヤツメウナギ(ぬるぬる)」
そう、彼らはウナギ。体表には明確な鱗が無い。代わりにムチンが保護している。ムチンこそがぬめりの正体であり、彼らのアイデンティティだ。ウナギはムチンを器用に操り、身を守ったり、敵を絡め取ったりする。
 2080年代の海ではウナギたちは挨拶代わりに「ぬめりあい」をする。彼らはぬるぬるしているので本気で殺しにかかったところで怪我はしない。だがぬるぬるしていなければただでは済まない。ぬめりあいはぬるぬる仲間であることを確認する手段として極めて有効なのだ。

【続く】

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