鈴の音
祖母逝去の際に体験したことを、今日はお話しします。
昭和64年、私がまだ高校3年生だった頃のことです。
母方の祖母が仙台で、癌の病のために亡くなりました。
5年の闘病生活の末、85歳で息を引き取りました。
生前、祖母は孫の私を溺愛し、赤ん坊のときからずっと可愛がってくれて、私も祖母に非常によくなついていたものです。
祖母は仏教を篤く信仰しており、浄土宗の人でした。
また不動明王を祀り、仏壇に線香と水とご飯を捧げるのが日課です。
寝る前には布団で仏教を解説した本を読んでいました。
信心深い祖母の影響を受け、私も仏の道を信じます。
祖母は幼い私に道徳を教えてくれましたが、私に向けて贈られたこの言葉が記憶に残っています。
「偉い人にならないで、立派な人になるんだよ」
しかし私は進学校に行き、受験勉強に明け暮れる日々を過ごしていきます。そのさなかに祖母は他界しました。
祖母の訃報を東京で聞いたとき、私たちはすぐに葬式のため仙台に駆けつけ、祖母の家には親戚たちも集まっていました。
私はそのみんなから離れ、一人で、家の隅の小部屋で祖母の死を強く悼み、悲しみました。
生前、おばあさんから様々な恩を受けていたのに、何もお返しが出来なかった、おばあさん、ごめんなさい…
そのとき、どこからともなく、鈴の音が聞こえてきました。
それは、たくさんの小さな鈴を集めて、一度に、ゆるやかに鳴らしたときの音です。
真に美しい音で、この世のものとは思えませんでした。
極楽の音楽のように聞こえました。
鈴の音は1分ぐらい続きました。そして、消えました。
部屋の中には鈴らしき物はありません。
その場で私は、祖母が私に応えてくれたのだと感じました。
今でも私は、たまに祖母の夢を見たりしますが、祖母はあの世で普通の住居に住み、普通の人間の生活をしているようです。
それで私は、人は体は亡くなっても、決して滅びないことを確信しているのです。
人の死も自分の死も、人間の魂の旅路における通過点。
そして、想いがあれば、人は、亡くなった人ともつながることが出来るのだと私が信じている事を、少しでも心に留めて頂ければ嬉しいです。