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ショートショート『明日、月の下交差点で。』②

「交差点では......。」

偶然、あなたに会うことになったあの日から
だいぶ前の話だったと思う。

約束の交差点から、少し北の町に
当時のわたしは住んでいた。

南から来た旅人の帽子が飛ぶと
向日葵が、旅人の顔を見て、笑うのだ。

「この辺りは風が強くてねぇ。
少しは手加減してあげなさいよ。」

海風が、妥協を知らないことも
向日葵は、ちゃんと分かっていた。

「揺れる草むらの中に、いるのです。

昔、見えたのです。
それは、私を見て、笑っていました。

私は、探しに来たのです。
出来れば、また、会いたいと思って。」

帽子を諦めた旅人は
少し、恥ずかしそうな表情で
向日葵に、そう、伝えた。

「それはきっと、狸か何かかね?
だったら、そいつは嫉妬深い狸だ。

この辺りじゃあ、有名さ。
狐はかんたんに祀られるのに
狸には狭き門だって。

早く神様になれるように
試行錯誤の繰り返しさ。」

私は、旅人の背後から話し掛けた。

狸の存在は事実だが
旅人の見た、それが、狸かどうかは
私が知るわけがなかった。

そんなもの、旅人と
草むらの中のそれにしか
分からない話なのだ。

見かねた海風は、私達に横やりを入れた。

「交差点は、時間も、場所も
記憶も、すべてが行き交う。

思い出してみればいい。

いつか、月の下交差点で。」

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