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答えは、あなたの心のなかに

エネルギー業界にいれば知らぬものはいない山本隆三氏のブログ記事。
「「ドイツの原発依存」はデマではありません – 事実です
「デマ」というデマを流すのは止めて下さい」

この手の話で私の答えはほぼ決まっていて、「フランスはドイツの石炭に依存しているか」を考えるとよいです。

①フランスはドイツに依存していない→同じロジックでドイツはフランスに依存していません
②フランスはドイツに依存してる→同じロジックでドイツはフランスに依存しています

つまり、「決めるのはあなた!」

この手の話は読み流して終わるべきなのですが、

「依存していないというやつはまったくデータを示さない…。ドイツには原発依存して欲しくないと思っている人が、間違った話を拡散する」

と書かれておられたので、あえて乗ることにしました。

記事の順にあえて反論する立場で書いていきましょう。

と思ったのですが、

フランスの原発の電気がなければ、メルセデスベンツ、BMWなどが本拠を置くドイツ南部の工業地帯は操業停止に追い込まれる。ドイツの再生可能エネルギーによる発電量は北部の風力によるものが多いが、北から南への送電能力がないため、南部の原発停止後需要量を満たすことができない。そのため北部の電気を隣国に輸出し、南部は原発比率が7割のフランスから電力を輸入するしかない。見事にフランスの原発依存になっている。

この記事ではドイツ南部の工業地帯は停止に追い込まれるかについてのデータがないので反論のしようがありません。

ちなみに私は以下の資料などを一通り目を通していました。今回、これらの情報をCHATGPTに与えて色々とやり取りしましたが、結論は「フランスの電力は、他の多くの手段とともにドイツの安定供給に大いに役に立つ。他方で、ドイツは自前でも最悪の事態は回避できるように考えられている。フランスの電力がなければ南ドイツの企業が操業停止においこまれるといったことはない」です。

https://dserver.bundestag.de/btd/20/055/2005555.pdf

https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Publikationen/Energie/gutachten-fuer-den-monitoringbericht-2022.pdf?__blob=publicationFile&v=3

https://www.bundestag.de/resource/blob/963994/426254069988ea329bd588bd14c558a5/Ausschussdrucksache-20-25-281.pdf

https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Downloads/DE/Sachgebiete/Energie/Unternehmen_Institutionen/Versorgungssicherheit/Netzreserve/Netzreservebedarf_2024.pdf?__blob=publicationFile&v=2

https://www.netztransparenz.de/de-de/%C3%9Cber-uns/Studien-und-Positionspapiere/Sonderanalysen-Winter-2022-2023

実際に、2022年時点でTSOは原発の延長を推奨しているので、フランスからの輸入が重要なことは認めています。他方で、ドイツのTSOが危惧していたことにはフランスに輸出できなくなることもありました。なぜなら当時はフランスで電力が足りておらず、政府間で電力ガス融通協定が結ばれていたからです。

また、脱原発後、ドイツ国内の需要の大きなバイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク、ノルトライン・ヴェストファーレン州の3州で安定電源は33GWあります。これはドイツ国内のベースロードにほぼ匹敵します。
そしてこれらの電源と地域を結ぶ系統は存在します。もちろん、これらの地域と他の州の安定電源を結ぶ系統も存在します。

確かに「北の風力の電気を南へ運ぶ」系統は弱く、運べないことも多いのですが、「北から南へ電力を運ぶ系統がない」わけではありません。
そのため、原発を最終的に停止するかの判断のために評価を行ったTSOは、基本的に国内の安定供給は「過酷な状況」が複数同時に起きない限りは「系統の安定供給は基本問題ない」と答えています。

私は山本氏の主張の根拠となるデータがわからないので、可能性は否定しませんし、将来的に問題が起きないわけではないです。ただ現時点では、南ドイツがフランスから電力を輸入しないと停電する、と断定できる根拠は私にはありません。

続いて

ドイツのフランス原発からの電力輸入量は増える一方だ。フランスの原発への依存度は高まっているのだ。
フランスの原発の電気への依存が高まった理由の一つは、原発停止だが、もう一つの理由は脱炭素だ。


この部分。実は脱原発と脱炭素では、24年第2四半期になぜフランスからの輸入が増え、ドイツからの輸出が減ったかを説明できません。
もっとシンプルに説明できるのは、「フランスの電気が安かったから」です。

出典:Energy-Charts

これは、2024年のフランスの卸市場の電力価格をプロットしたものです。これを見ると、4-6月に電力価格が落ち込んでおり、マイナスになっている時間も多いことがわかります。フランスは原発が無事に再稼働し、ほぼフルで発電できるようになったのですが、今度は電気が余って困ってしまいます。
ドイツは国内の電源コストが高いため、フランスから安い電気を買いました。当然ドイツの高い電気を輸出することはできません。なので第2四半期は急激に純輸入が増えたのです。
つまりフランスで猛烈に電気が余って激安価格になったことが、輸入増の原因をより説明できるでしょう。これを「輸入が増えたから依存度が高まった」というなら否定はしません。

ついでに、2国間の輸入バランスだけで「依存している」というのは正直賛成しません。輸入量が総発電量に占める比率も考えたほうがいいでしょう。

これは、ドイツとフランスの電力取引とドイツ国内の発電量を比較したものです。準輸入で見れば基本的に2%以下、粗輸入で3%以下を推移します。24年第2四半期が明らかに増えたのはすでに言った通りフランスの電気のバーゲンセールがあったからです。残念ながらフランスは原発のいくつかを停止して供給量を減らしバーゲンセールは終わってしまいました。

脱炭素のためには原発の運転を継続したほうが良いと思うのだが、緑の党が経済気候保護大臣と環境大臣を握るドイツ政府は、そうは考えない。源発の利用を望む世論も無視し、脱原発を進めた。その結果、ドイツの電力供給量は急速に減少している。
2018年の発電量5483億kW時は、2023年に4306億kW時になった。減ったのは原子力と火力の発電量だ。それぞれ719億kW時が67億kW時に2605億kW時が1652億kW時に減少した。

原発の継続利用を望む国民の声が過半数を超えたのは確かですが、そもそも運営する電力会社はPreussen Electraを除き、延長の最後のチャンスは2018年頃の前政権のときで、2022年に議論してもすでに手遅れと何度も述べています。世論だけでは原発再稼働はいかんともしがたかったのです。

私なりに少し補足しておきます。ドイツの石炭の減少は①化石燃料の価格高騰が要因で発生した電力価格高騰とそれにともなう需要減に対応して発電量を落とした、②他国の安い電力を買った、ことが原因です。発電所が閉鎖したことによる供給量減は原因としてはここ数年さほど重要ではありません。

次に、ドイツの供給量減少が取り上げられていますが、実は電力供給量(発電量)が減少しているのはEU全体です。

その理由は供給能力の減少ではなくコロナ、戦争に伴うコスト高騰によるEU全体の電力需要の減少です。
もちろん不景気に直面するドイツの電力需要減がEU全体を引っ張っている面はあるでしょう。ただしドイツ国内の供給能力の減少ではなく、価格高騰による需要減が原因です。

ドイツの家庭用電気料金は、エネルギー危機による化石燃料価格の上昇もあり、2018年の1kW時当たり29.47ユーロセントから2023年45.73ユーロセントに上昇した。日本円に換算すると70円を超え、日本の2倍だ。

また現在確かに電気代は高いのですが、ドイツの電気代はかなり激しく動きます。そのため、新規契約の場合、電気代の最安値27.6セントです。
平均価格が高いのは、電気契約の切り替えをしない家庭が多いからで、連邦ネットワーク庁も電気契約の切り替えを推奨しています。

また、最安値帯であれば実はフランスの平均的な家庭が支払う電気代と支出はほぼ変わりません。それどころか少し安いこともあります。ドイツの家庭の電気代が高いといいますが、フランスも支出額で見れば同じくらいになります。

日本の再エネ推進派は、「ドイツはフランスの原発に依存していない。電力の輸出国だ」と主張している。実態は北部で余剰になった再エネの電気を南部に送電できないので、輸出するしかないのだ。余剰になった再エネの電気は時としてマイナス価格で輸出されるほどだが、購入する電気はただではない。輸出する電気を国内で使えるのであれば、使いたいが送電線がない。そのドイツは、昨年から電気の純輸入国になった。理由は脱炭素と脱原発で発電設備が減少しているが、再生エネの設備では補えず、電力を輸入しているからだ。ドイツのフランスへの原発依存は深まるばかりだ。

これは半分間違いで、特にドイツの電力市場の説明は現実とはそぐわない内容です。

ドイツは全国大の卸市場が1つしかありません。なので、電力価格は全国の短期市場で取引される総需要と総供給量から決まります。つまり北の再エネ電力が余っても全国で電気が足りなければ価格はマイナスにならないし、北で再エネ電力だけでは電気が賄えなくても全国で電気が余れば価格はマイナスになります。
ですのでドイツの場合は系統運営者でも「再エネの電気が余る」ではなく「市場に柔軟性が不足して余剰が発生する」という考え方をします。

北で風力の電気が余っていれば南で使えないので価格はマイナスになって輸出するんだ!というのは総じて間違いです。
確かに南ドイツの上げのリディスパッチの中にフランスの発電所が入ってはいます。しかし、オーストリアやスイス、チェコからも買うことはできますし、オーストリアは原発を使っていません。
この主張の疑問は物理的な電力融通と市場を通じた電力取引が余り区別されずに議論されている点です。これは知らないと誤解します。

ついでに一部の時間はマイナス価格で電気を買っています。これは、余った再エネを輸出すると同じロジックで、無料以下でフランスの余った電気を引き取ってあげているということになります。

ただし近年は特に太陽光が急激に増える一方、柔軟性が不足していて電力が余る時間帯は増えています。これは事実で問題です。
そしてこれは山本氏の次の論点に対して違う見方を提供します。

「ドイツのフランス原発からの電力輸入量は増える一方だ。フランスの原発への依存度は高まっているのだ。7月のドイツのフランスからの輸入量は18億4000万kW時、フランスへの輸出量は6900万kW時、輸入量の4%しかない。」

さて、一般的にドイツとフランスが取引するとき、取引量を決めるのは、ドイツ国内の発電容量だけではありません。その時の様々な電源の競争力、需給の状況で決まります。つまり、フランスの原発の輸入量が増えた要因は原発と石炭停止だけとは言えません。

山本氏が指摘するように、ドイツは24年第1四半期に輸出量を急に減らし、輸入量が増えています。なぜでしょうか?
答えはフランスの電気が安くてドイツの電源が競争で負けたからです。要はドイツの電源は売りたくても買ってもらえなかったのです。
すでにお見せした通り、24年第2四半期はフランスの電力バーゲンセールにドイツ国内の電源が勝てなかったのです。

もう1つ、ドイツが安い電気を輸入して高い国内の電気を使わなかったことを示すのが、ドイツが輸入した電力の構成です。

これを見ると、ドイツが輸入した電力の半分は再エネです。これは主に北欧からの輸入で、なぜ輸入したかというと安かったからです。

電気代が高いこと、国内電源の競争力がないことは確かに大問題です。しかし、供給能力には今も致命的な問題は生じていません。

また、輸出内訳を見ると実は再エネ以外も43%とそれなりに輸出しています。総じて価格が高いドイツの石炭や褐炭を隣国が買っているということになります。買い手は例えばフランスなどです。フランスがドイツの安定電源の電力を高いにも関わらず調達していたのです。

傾向として、夏場にフランスからの輸入が減るのはフランスで電力需要が減って電気が余ることも背景にあります。つまり、ドイツはフランスに対して柔軟性を提供しています。
フランスは夏は輸入が減るでしょうが、冬に向かって増える可能性が高いでしょう。すでにフランス国内の電気代が上がり始めていることと、フランスに柔軟性が不足することが原因の1つです。

フランスの電源構成は柔軟性が足りません。原発も柔軟性を出しているとしても十分ではありません。そのためほぼ一定で発電する電源と変動する電源で96%を占めるフランスの電力系統は不安定で、隣国に頼らざるを得ません。

新型原発は柔軟性がより高いとはいえ、フランス政府の財政赤字はかなり深刻で正直、原発新設への補助金または支援システムを用意できるかは確実ではありません。補助金や支援システムがないと民間だけの投資はほぼ不可能(発電事業者は国有でも金融機関が乗るかは別)。

結局直近ではドイツとフランスの相互依存は高まっていくし、それはEU内では普通の出来事なのです。

なので私は、「答えはあなたがきめればいいさ~」と思うわけです。

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umwerlin
ありがとうございます!