物理フローと取引フロー2
先日物理フローと取引フローの説明をしたところ、SNSで「国際電力トレーダーが物理フローのデータを使っているそうですが?」というコメントをいただきました。
どういうことかと思って調べてみると、電力トレーディング会社がEurostatの物理フローを税関に提出する輸出入取引データとして使っているというツイートを読んでのコメントなのかと思いました。
どこの国のトレーダーにどういう質問をした結果の回答なのかはわかりませんが、トレーダーが輸出入実績に税関のデータを使うというのは、関税などの計算のためのデータなのだろうと理解しました。
私の理解が正しければ(間違っている可能性も高いですが)、トレーダーが物理フローを使うのは特に違和感はないです。
国際トレーダーが関税などを計算するために必要なのは取引量(電気ではCommercial Exchanges)ではなく物理フロー(Physical Flow)を使うことは他の商品を考えれば自然です。
ここに車の輸入代理店があったとします。彼らが車の輸出入の報告に使うのは、彼らが輸出先でいくら儲けたかではなく、彼らが実際に貨物列車で運んだ車の台数になり、それを税関のデータとして報告すること自体は違和感はないと思います。
問題は、フランスの商社が全体としてドイツに車を大量に輸出したのになぜかフランスがドイツから車を大量に輸入したことになっており、その結果帳簿上は赤字になっていることです。
この場合、この商社の外国での取引(取引とはお金のやり取りと考えます)の実態をよりよく表しているのは、契約額か運んだ車の台数かと聞かれれば私は契約額を選ぶと思います。
車の例え話では、なぜこの商社のドイツとの貿易の赤字が問題にならないかというと、この商社はドイツのアオトバーンを通過してスイスやイタリアで売った車が多く、すべての取引を通してみればスイスやイタリアでの取引で黒字になっているからです。
国際的に複雑な構造になっている欧州の電力の流れはこれだけですべて説明できるわけではありませんが、無理やり独仏二国間の関係に落とし込むのであれば取引フローのほうが、完璧ではないが、より良く実態を反映しているのではないかと思います。
しかし、それとあるトレーダーが自社の輸出入実績に税関のデータとして物理データを使うことは矛盾しません。
おそらく税金の計算のためだと思いますが(そのため税関のデータと書いたのではないかと推察しますが)、トレーダーが自社の輸出入に関して報告するのは売上実績ではなく、持ち込んだ商品の物理量であるべきだと言われれば私もそうだと答えます。
問題は税関の使う物理的な輸出入実績とお金の流れを示す取引実績がぜんぜん違うことにあります。
電力に話を戻すと、計画取引フロー(Scheduled Commercial Exchanges)と物理フロー(Physical Flow)は一致することが理想ですが、そのとおりにはなりません。
しかし再エネの予測誤差は実はさほど大きくはありません。これは電源構成がドイツと近く、フランスとの間での連系がほぼ直接的な系統1つしかないスペインを見ればわかります。スペインとフランスでは取引フローと物理フローにほぼ違いはありません。
そのため、二国間関係はどちらをとっても大差なく、より正確なやり取りを示しているのは物理フローと言われても否定はしません。
しかし、独仏間は周辺諸国との複雑な構造になっており、車での例えのようにフランスはドイツにものすごい量の電力を輸出したのになぜか年間で赤字になるほどドイツから買ったことになっています。
トレーダーや商社が自社の輸入実績に税関のデータを使うことに問題はなく、しかし税関のデータが二国間の全体の「取引」関係を正確に表しうるかというと、独仏間については私は疑問のほうが大きいです。
ENTSO-Eも物理フローと取引フローがあまりに違う時があることを問題視しているし、物理フローがすべての実態を正確に反映するなら取引フローをわざわざ公開する必要はないです。もちろんフランスのRTEが計画取引フローを公開する意義もないです。
とはいえ、物理フローというデータには重要な意味があり、それを否定するものではありません。また税関のデータとしては、取引フローよりも物理フローが正確であるという点もそのとおりだと思います。
物理フローを選ぶ人に理由があるように、私は理由があって取引フロー(Scheduled Commercial Exchanges)を使います。
ありがとうございます!