彌榮(いやさか)コレクション制作の記録
2024年8月1日に「彌榮(いやさか)コレクション」というNFTアートをリリースしました。
彌榮(いやさか)とは「ますます榮える」の意。
23柱、全3690の神仏で構成されたジェネラティブNFTコレクションです。
「アートによって神仏とご縁をむすぶ」をテーマに、神仏&自然との共存、世界の調和、自己対話(身魂磨き)を祈願して制作しました。
今後の流れとして3690点のアート総数は変わらずに、新たな神仏アートが増えていく予定です。
初期の23柱に加え、神仏の種類が増える設計となっています。
これまでの個人的な制作物の中でもっとも大きな作品群ですので、制作プロセスの全記録をまとめてみたいと思います。
0秒のコンセプトメイキング
通常は実際に描き始める前段階で時間をかけてコンセプトメイキングを行うのですが、今回は異例のスタートでした。
ふと七福神を描きはじめたときに「豊かさとは何か」という漠然とした問いが浮上し、糸を手繰り寄せるように探っていくと、次から次へとひらめきが連続するようになりました。
これまで個人的に興味があって学んだり考察を深めてきた、生命の営み、自然信仰と調和、土着信仰、神話、祭り、祈り、歴史、文化など、それらが次々とつながり「豊かさ」はひとつの生命体や環境のようなものだという考えに至りました。
贈与や感謝、変化や環境適応、対話など…
豊かな精神性からはじまる物質的な豊かさ。その両方を合わせたものを表現したくなりました。それが彌榮コレクションのはじまりです。
企画という意味でコンセプトメイキングに使った時間は「0秒」ですが、ライフワークとして長年探求してきたことのすべてが彌榮コレクションに畳み込まれています。
意図をもって神仏モチーフを選ぶ
まずは描きたい神仏23柱の精選。
つぎに「彌榮=この世界がますます榮える」というテーマで、豊かさや自己対話に必要な要素を整理。
大きく分けて4つの要素があると考えました。
①喜びや楽しさ(祭り=祀り、クリエイティビティ)
②クリアなマインド(迷いからの脱出、自己対話)
③自然との調和(生命の仕組と感謝)
④完全な循環(全体の一部としての生きかた)
はじめに描いていた七福神は①の要素を表現しています。
喜びとともに生きる、生かされていることに感謝する、そして与える喜びや生命を謳歌する知恵など。
それらを分かち合う祭り(祀り)のようなバイブスを表現したのが七福神の7柱です。
つぎに②「クリアなマインド」を実現するために、仏教(密教)をモチーフにすることが最適ではないかと考えました。
思考や心の仕組みについて理解を深め、解像度を上げて自分と向き合い世界と向き合う。
さらに脳と心を整理し、とらわれのない状態に導くのに有効な思考体系として密教的なモチーフを選びました。
マインドをクリアにするプロセスで大事な要素として、高い視点、自己理解、宇宙観、慈悲、母性、祓い、導き、智慧、美意識、守護などをテーマに、それらにゆかりのある仏様を精選しました。
仏様は姿や装飾物、持ち物、ポージングや目線などに経典の教えが凝縮されています。
仏教美術はビジュアル化された学問とも言えるので、仏様のアートから仏教的な哲学に触れて学ぶような機会が生まれたら嬉しいです。
③④の要素は、今後追加されていく新しい神様によって表現していこうと考えています。
リリース時の素体は仏様が多いですが、今後は古代的な日本の神々、自然神などが増えていく予定です。
八百万の神や自然信仰をテーマにした、より根源的な精神構造をアートに畳み込んでいきたいと考えています。
356体を一気に描き上げる(細部の描き込みとグラデーション)
方向性や設計が定まってからはノンストップで一気に描き上げました。
彌榮コレクションは一体あたりの描き込み量が過去一多く、かなりの制作時間がかかりました。
私の作品のすべては「概念的コンセプトや思想」をテーマにしているため、物質的な時空(時間と空間)の要素である「陰影や遠近」をなるべく描かないフラットな表現スタイルを採用しています。
ただ今回は仏様をモチーフに描いたため簡略化できない要素が多々あり、これまでの作品と比べると少し描写が細かくなっています。
たとえば「5つの仏がついた冠」「18本の手に各アイテム」など、それぞれ明確な意味をもつ要素をしっかり描き込んでいます。
装飾品の豪華さは地上世界との関係を表していたり、ドレープの多いお召し物を纏っているので必然的に描き込み量が増えていきます。
最初に描いていた七福神を仏様たちのテイストと合わせるために、一度完成していた7柱はすべて描き直しました。
グラデーションや透過はこれまでの作品でも多用しているのですが、今回はより微細に調整を行っており、滲み出るような色彩の変化、数段階に分けた透明度など、作り手側にしかわからないようなこだわりも多々あります。
仏様をモチーフにすることで生まれた精妙な配色や繊細な線画などは、このコレクションのひとつの見どころになっているのではないかと思います。
彌榮コレクションの独自性
ジェネラティブNFTでは複数の画像パーツを組み合わせ、自動生成でアートを生み出していきます。
背景、ボディ、パーツ1、パーツ2と平均5〜8種類ほどの素材を掛け合わせ、多数のアートを生成していくのが一般的です。
そのため素体と呼ばれるボディパーツの数は小規模コレクションで1型〜、数万点を超える大型コレクションでは10型を超えることもあります。
彌榮コレクションはアート総数が3690体なので、ジェネラティブコレクションとしては中型かなと思います。
規模に対して素体数が多いのも特徴で、23体のボディパターンを描きました。さらにそれぞれ15カラー描いているのでボディ全体では345体もあります。
ボディのパターンを多めに描いたのには理由があり、パーツのレイヤーは無く(一素体のみ採用)基本的には背景と素体の2レイヤーで構成したかったからです。
2レイヤーだからできること
自動生成の面白さであり課題でもあるのですが「予想外のバランス」が生まれるという点があります。
1枚のアートをすべて自分でを描き上げる場合、ミリ単位で構図を調整したり、微妙な色合わせを何度も調整したりするのが一般的です。
思い描いた通りのバランスや表現したい意図に合わせて、モチーフも背景も的確に描いていきます。
自動生成の場合、総数を増やすために素体や背景パターンを増やすと、どうしても不協和な配色やアンバランスな構図のアートが生成されます。
それを避けるため彌榮コレクションでは、素体ごとに背景や構図のバランスを微細に調整するだけでなく、神仏ごとの世界観を細かくコントロールしています。
リリース後もさらに「一点もの度」が上がっていく仕組み
リリース時の23柱の神仏に加え今後新たな神仏が追加されていきます。
初期素体数345点、コレクション総数3690点なので、同素体のアートは各10点ほど。
フリーミント後の運営保有は約3000点、その一部が新たなアートと入れ替わり、同素体のアート数がどんどん減っていく仕組みになっています。
実は、描き上げるよりも体力と神経を使うのが選抜作業
制作プロセスの中で一番と言えるくらい大変なパートは、自動生成後に目視で厳選する作業。
約1週間、夫婦二人で寝不足になりながら1万点弱を5、6段階に分けて丁寧に絞り込んでいきました。
夫は私より遥かに色彩感覚が優れているので(階調に関する目が養われているという意味で)選抜作業ではかなりリードしてもらいました。
普段から原画を書き上げる際にも一度描き上げた後、配色バランスなどの意見を聞くようにしています。
「描きたいものを描く」うえでも、決して独りよがりの内向きな作品にならないように、多角的な視点で意見をもらえることは本当にありがたいことです。
具体的な厳選ステップ
まずはじめに一旦、不採用のアートを大胆に削ります。
つぎに素体ごとに採用不採用を厳選(2、3周チェック)
そして3690点全体のバランスと素体ごとの個性や役割を考慮し、一点一点再検討を行います。
さらに、表示サイズによっても印象が変わるので、大きめと小さめそれぞれのサイズに表示を切り替え、最終選考を行なっていきます。
選ぶだけでなく、選んだものを間違えないように記録していく管理作業もなかなか大変で、ミスが起こらないように二人で一つのパソコンに向かいながら、入念に確認しました。
生み出して終わりではなく、たくさんの工程を経てみなさまのもとにご縁をおつなぎしています。
みんなのマルチなクリエイティブパート
ベースをつくるマルチエンジニア
制作後半に差し掛かり、同時進行でコレクションのコントラクトの構築をまえたくさんに着手していただきました。
創作活動に集中できるよう、いつも全体を見て細かなところまで考え、こちらで判断が必要な要素だけに絞って進行してくださるので本当にありがたいです。
コレクションのコントラクトはもちろん、タスク管理や仕組みづくり、細かなフォローと準備など、UMC(私の創作活動&コミュニティ)関連のすべてのベースを構築してくれている、縁の下の力持ち。
まさに全領域をカバーする頼もしいマルチエンジニアです。
世界観を拡張するマルチクリエイター
彌榮コレクションの公式サイトは、昔からの友人であり経験豊富なクリエイターでもある、ひらいたさんにお願いしました。
多くを語らずとも伝わるセンス、遊び心あふれる独自の解釈から生まれる拡張クリエイティブ。
私の担当分野は「絵を描く=ゼロイチの創作」ですが、1の原液を10にも100にも展開してくれる創造力豊かなクリエイターと一緒に取り組めるのは本当にありがたいことです。
単に情報をまとめたサイトではなく、世界観を拡張する創作物。
アニメーションが豊富で、アートの根幹にある「生命力」「信仰」「お祭り」の要素に命を吹き込み、動きやリズムが加わりました。
アートディレクション力に長けていて、実装スキルもあり、メディアとしての役割や狙いを把握し、作品理解の解像度も高い。
そんな頼もしいクリエイター仲間とともに、やりたいことに挑戦できている環境がとてもありがたいです。
▼彌榮コレクションサイト▼
以上が、彌榮コレクションの具体的な制作記録でした。
創作プロセスを知ることで、彌榮(いやさか)コレクションをより楽しんでいただけたら嬉しいです。
彌榮🌿