Sony デジタルシネマ・カメラの基礎知識
2000 年、映画監督ジョージ・ルーカス氏の依頼により開発された CineAlta の初号機 HDW-F900 から、Cinema Line の最上位モデル VENICE 2 まで、教養として覚えておきたい Sony デジタルシネマ・カメラの基礎知識を紹介していきます。
1. Sony のカメラ開発の歴史
ARRI が映画用フィルム・カメラ、Canon が写真用フィルム・カメラを出発点に開発を進めてきたのに対して、エレクトロニクス技術の先駆者的な存在である Sony のカメラ開発の歴史は “ビデオカメラ” からはじまります。
1981 年、Sony は民生用ビデオカメラ HVC-F1 を開発します。当時のビデオカメラは本体のみでは映像の記録ができず、外部レコーダー(VTR)とケーブル接続をして、テープ収録をおこなう仕組みになっていました。
また同じく 1981 年に Sony は、世界初の電子スチルカメラ Mavica の初号機を開発します。Mavica のイメージセンサーは CCD で、撮影画像はフロッピーディスクに記録されるしくみでした。
放送用カメラの分野では、1982 年に Sony は VTR 一体型の業務用ビデオカメラ BVW-1 を発売します。カメラとレコーダーが分離しているのが当たり前だった当時、VTR 一体型モデルであるこの BVW-1 は、革新的なモデルとして世界中の報道の現場に普及していきます。
そして、この記事で掘り下げるデジタルシネマ・カメラに関しては、2000 年に、映画監督ジョージ・ルーカスの依頼により開発された HDW-F900 を皮切りに、Sony はさまざまなモデルを開発していきます。
2. 業務用ビデオの標準規格 BETACAM
Sony がカメラを開発する上で、その強みは 記録メディア(業務用ビデオテープ)の市場を独占していた点にありました。
1969 年、SONY は Panasonic など 7 社と共同で、カセット式 VTR の標準規格である U規格 を策定すると、1971 年に世界初のカセット式 VTR である U-matic を発表します。
そして 1982 年、Sony は業務用ビデオの標準規格となる BETACAM を開発します。家庭用ビデオの標準規格として世界中に普及した VHS に対して、BETACAM は業務用ビデオの標準規格として、報道の現場を中心に世界中に普及していきます。
この BETACAM の開発以降、2003 年に開発された最上位モデル HDCAM-SR に至るまで、Sony は約 20 年間にわたり業務用ビデオテープの市場を独占していくことになります。
3. デジタルシネマ・カメラの元祖 F900
1990 年代まで、映画業界ではフィルム撮影が、テレビ番組をはじめとする放送業界ではビデオ撮影が定番化していました。
その常識を変えるキッカケとなったのが、2000 年に Sony が Panavision 社と共同開発したデジタルシネマ・カメラの初号機 HDW-F900 です。この F900 は、映画監督ジョージ・ルーカスが映画『Star Wars Episode II』の製作にあたり、デジタル合成に優れたカメラを模索する中で誕生します。
この F900 は、映画の業界標準フォーマットとなる 24P 撮影ができる世界初のデジタルカメラで、放送業界の標準規格である 2/3 型 の 3CCD イメージセンサー と B4 マウント が採用されています。収録に関しては、HD 解像度で HDCAM へのテープ収録をおこなう仕様になっています。
その後この F900 シリーズは、HDW-F950、HDW-F900R とモデルチェンジを重ねていきますが、日本でも 2001 年の岩井俊二監督作品『リリィ・シュシュのすべて』をはじめ、デジタルシネマの黎明期に数多くの作品で使われていました。
この F900 を皮切りに、Sony は “CineAlta” というブランドを立ち上げ、デジタルシネマ撮影に特化したカメラの開発を進めていきます。
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