Netflix 名作クライム映画の技術解説|Narcos
1980 年代のコロンビアの麻薬犯罪を描いた Netflix クライム映画の名作『ナルコス(Narcos)』を通して、Hawk V-Lite、ZEISS Supreme Prime など、2010 年代に人気を博したシネレンズの変遷を振り返ります。
1. 製作費と撮影スタイルに関して
2015 年に配信を開始した Netflix のドラマシリーズ『ナルコス(Narcos)』は、1980 年代のコロンビアにはびこる麻薬組織と、アメリカの麻薬取締捜査官との争いを史実をもとに描いたクライム映画です。2018 年には、続編となる『ナルコス:メキシコ編(Narcos: Mexico)』の配信がはじまり、全 60 話の超大作として 2021 年にそのシリーズを完結しています。
製作はフランスの世界最古の映画会社 Guumont(ゴーモン)傘下にある、ロサンジェルス拠点の制作会社『Gaumont International Television』が担当しており、製作費に関しては Season 1 の 10 話でおよそ 28 億円($25M)、1 話あたり 約 2.8 億円 とされています。
撮影スタイルに関しては、本作のストーリーが実際に起きた事件を元にしているということで、実際のロケーションの中で、自然光、手持ち撮影、ステディカムによる移動ショットなどを中心とした “ドキュメンタリー感” のあるスタイルが採用されています。撮影は 2 班体制で、本隊とは別にセカンドユニットが常時稼働するようなスタンバイで進行していたようです。
📷 Narcos|Making of Narcos|Netflix
また麻薬王パブロ・エスコバル役として、主演を務める役者のヴァグネル・モウラ(Wagner Moura)氏が、一部、演出を担当しているということから、撮影が役者の演技を重視した環境で行われていることがうかがえます。
2. カラーグレーディングは Company 3 が担当
撮影には RED Digital Cinema 社 のデジタルシネマ・カメラが使われていますが、ルック面では RED 特有の濃厚な色あいに特徴があります。作品全体の印象としては、ラテン系の作品によく見られる 中間域の Y(黄色)が強いクセのある色調 となっています。
📷 Narcos: Mexico|King’s Past: The Narcos Legacy|Netflix
カラーグレーディングに関しては、ロサンジェルスを拠点とする世界的に有名な編集スタジオ『Company 3』の専属カラリストであるシギー・フェストル(Siggy Ferstl)氏が担当しています。この Company 3 は、日本では TREE Digital Studio を通して、所属カラリストに作業を依頼することも可能となっています。
フェストル氏の話によると、グレーディング作業は DaVinci Resolve にて、作品のために特別に設計した LUT をベースに「現場のリアルな光による色の濁りを補正しすぎない “ドキュメンタリー感” を重視したルック」を意識している、という話です。また質感に関しては、シネマティックな空気感を強調するために DaVinci Resolve 内蔵の Open FX ツールで粒子(Film Grain)を追加しているようです。
仕上げに関しては、近年、Display P3 を採用する iPhone をはじめ、ディスプレイ環境の高輝度・広色域化が進む中で、2018 年公開のメキシコ篇以降は HDR の標準規格である Dolby Vision を採用しているという話です。
3. ナルコスに見る人気シネレンズの変遷
全 60 話の超大作『ナルコス』の製作期間は、約 6 年間にもおよびますが、デジタルシネマ業界の技術の進化とともに、撮影機材の構成も少しずつ変化をしています。特にレンズに関しては、Season ごとに様々なモデルが使われており、各レンズの質感の比較ができるという意味では、この作品はそのよいリファレンスとなります。
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