RED DSMC3 カメラの基礎知識
驚愕の 20 STOP のダイナミックレンジを実現する V-RAPTOR [X] をはじめ、進化を続ける RED の最新シリーズ DSMC3 に関する基礎知識を紹介していきます。
1. DSMC3 とは?
RED Digital Cinema 社は、これまで 15 年以上に渡り、写真と動画の両方を撮影できる DSMC(Digital Still & Motion Camera)という設計思想により、小型でハイスペックなカメラを開発してきました。その第 4 世代となるのが、2021 年発売の V-RAPTOR 8K VV をはじめとする、DSMC3 シリーズのカメラです。
DSMC3 は、従来の RED のカメラと何が違うのか? 変更点をまとめてみると、以下の通りになります。
その最大の変化といえるのが、これまで RED のカメラの大きな特徴でもあった、モジュール型の設計 を廃止したという点です。RED Digital Cinema 代表の Jarred Land 氏によると、それによりカメラ本体の “小型化” が実現したという話です。また Canon 製品以外で、固定の RF マウントを採用したカメラは業界初となります。
続いて、DSMC3 の現行製品のラインナップを見ながら、各カメラの性能の違いを見ていきたいと思います。
2. DSMC3 のラインナップ
2024 年時点で、DSMC3 シリーズには 6 種類のモデルがあります。
その最も代表的なモデルとなるのが、2022 年に発売された V-RAPTOR 8K VV です。V-RAPTOR 8K VV は、35mm フルサイズよりも横長となる Vista Vision 規格(40.96×21.6mm)の CMOS イメージセンサーを搭載しており、最大 8K 120 fps の収録に対応しています。ダイナミックレンジの公称値は、業界最高クラスの 17+ STOP とされています。
また、日本国内ではあまり流通がありませんが、V-RAPTOR には Super 35 規格の CMOS イメージセンサーを搭載した、V-RAPTOR 8K S35 というモデルも存在しています。8K S35 は、8K VV よりセンサーサイズは小さくなりますが、画素の密度を上げることで、8K VV と同じ解像度(8192×4320)を実現しています。
2022 年発売の V-RAPTOR XL 8K VV は、基本性能は V-RAPTOR 8K VV と全く同じですが、レンズマウントが交換可能で、内蔵電子 ND、GenLock 端子、TC 端子、4 系統の SDI 端子などが搭載された、業務用モデルとなっています。また V-RAPTOR 8K と同じく、2023 年には Super 35 モデルも発売されています。
そして 2024 年には、DSMC3 の最新モデルとなる V-RAPTOR [X] 8K が発売されます。V-RAPTOR [X] は、基本性能は V-RAPTOR 8K VV と変わりませんが、グローバルシャッター機能のある CMOS イメージセンサーを搭載しており、Extended Highlights モードを活用することで、20+ STOP のダイナミックレンジを実現しています。また V-RAPTOR XL に関しても、同じように [X] 版がリリースされています。
一方、RED は 2020 年に KOMODO 6K、2023 年にはその後継機となる KOMODO-X という小型モデルも発売しています。明確な理由は明かされていませんが、この KOMODO シリーズは、DSMC3 とは別ラインという扱いになっています。
続いて、RED の人気モデル KOMODO と比較をしながら、V-RAPTOR の基本性能を見ていきたいと思います。
3. 基本性能まとめ
KOMODO と V-RAPTOR の最大の違いとなるのが、ハイスピード性能 です。最大フレームレートに関しては、KOMODO が 6K 40 fps、KOMODO-X が 6K 80 fps なのに対して、V-RAPTOR は 8K 16:9 の設定で 120 fps、6K 16:9 の設定では 160 fps まで上げることができます。
また 2023 年に RED は、V-RAPTOR、V-RAPTOR XL に光ケーブルを接続することで、最大 8K 120P R3D RAW のライブストリーミングが可能となる、RED Connect というアダプター装置を開発しています。
イメージセンサーに関しては、KOMODO が Super 35 規格、V-RAPTOR 8K VV が Vista Vision 規格 の CMOS イメージセンサーを搭載しています。V-RAPTOR に搭載されるイメージセンサーは、従来の MONSTRO 8K VV のものと同サイズで、画素数も変わりませんが、RED 界隈のインフルエンサーである撮影監督 Phil Holland 氏の検証によると、その性能は全体的に向上しているという話です。
また CMOS イメージセンサーに採用される “電子シャッター” の機能にも違いがあり、V-RAPTOR では一般的な ローリングシャッター方式 が採用されているのに対して、KOMODO、V-RAPTOR [X] では グローバルシャッター機能 を採用しており、ローリングシャッター現象が全く起こらない仕様となっています。
ただ V-RAPTOR に関しては、センサー読み出し速度が速いため、実際にローリングシャッター現象は起こりにくいと言われています。CineD の検証では、Sony VENICE 2 が 3 ms、ARRI ALEXA Mini LF が 7.4 ms なのに対して、V-RAPTOR 8K VV のセンサー読み出し速度は 8 ms とされています。
RED は 2013 年に、PL フィルター、電子可変 ND、グローバルシャッター機能を備えた Motion Mount という、多機能なレンズマウントを開発していますが、KOMODO、V-RAPTOR [X] で使われているグローバルシャッターの技術は、こうした長い研究期間を経て開発されたものと考えられます。
一方、レンズマウントに関しては、KOMODO、V-RAPTOR ともに固定の Canon RF マウント が搭載されており、V-RAPTOR、KOMODO-X に関しては、より堅牢な Locking RF 仕様となっています。Locking RF マウントでは、レンズ装着後にレバーを締め付けることで、フォーカス操作などで生じる映像のガタつきを軽減することができます。
RF マウントを搭載したことで、DSMC3 では、RED がこれまで抱えてきた弱点である、内蔵 ND、AF 性能などの問題が改善されています。
AF 性能に関しては、KOMODO、V-RAPTOR ともに 位相差 AF を採用しており、RF、EF レンズと組み合わせることで、一般的なオートフォーカスの機能を活用することができます。その精度に関しては、像面位相差 AF を採用する Canon、Sony のカメラには劣るものの、2023 年には 顔検出AF の機能が追加されるなど、年々その精度は向上しています。
手ぶれ補正に関しては、DSMC3 のカメラにはボディ内手ぶれ補正の機能はありませんが、RF、EF レンズの防振機能(IS)を活用することができます。
また RF マウントは、ミラーレス一眼向けに設計されているため、フランジバックが短い(20mm)という特徴がありますが、それにより、内部にドロップイン型の小型フィルターを組みこんだ、多機能なマウント変換アダプターが活用できる、という新たなメリットが生まれています。
フィルター内蔵型のマウント変換アダプター は、レンズ交換の際にフィルターを交換する手間が省けるなど、撮影を効率化する上で大きな効果があり、ここ数年でさまざまな製品が開発されています。
RED 公式サイトでは、KipperTie が開発する FSND 内蔵のマウント変換アダプター、REVOLVA が紹介されていますが、他にも Canon、Breakthrough Filters、Meike が似たような製品を展開しています。REVOLVA に関しては、V-RAPTOR、KOMODO のボディに装着するための専用リグが用意されており、レンズのフォーカスギアを動かしても、映像にブレが起きにくい堅牢な設計となっています。
また ND に関しては、V-RAPTOR XL には内蔵の 電子 ND(Electric ND)が搭載されており、1/4 STOP 単位から段階的に ND の濃度を調整することができますが、可変 ND の機能はないので、Sony の可変電子 ND のようにシームレスな調整はできない仕様となっています。
KOMODO、V-RAPTOR では、2023 年に発売された RF to PL Adaptor w/ Electric ND を使用することで、同じ効果を得ることができますが、対応レンズマウントは PL マウント のみで、EF マウントには非対応となっています。
また DSMC3 は、映像の I/O(入出力)にも特徴があり、KOMODO、V-RAPTOR には SDI 端子はありますが、HDMI コネクタはなく、代わりに USB-C コネクタが搭載されています。USB-C コネクタは、以下のような用途に活用することができます。
DSMC3 カメラ専用の小型ディスプレイ DSMC3 RED Touch 7.0" は、USB-C ケーブル 1 本で映像と電力を同時に供給できるため、ジンバル撮影などでシンプルなセットアップをする際にも役立ちます。
Wi-Fi 映像出力に関しては、無料の専用アプリ RED Control を使うことで、iOS / Android 端末で、ワイヤレス接続によるカメラ映像の確認、カメラ設定などが可能となります。また 2022 年には、複数カメラの接続ができる、RED Control Pro という有料アプリもリリースされています。
一方、GEMINI 5K など RED の従来モデルに関しては、非公式の iOS アプリ foolcontrol を使うことで、ワイヤレス接続が可能となっています。
また KOMODO、V-RAPTOR は、2022 年から Frame.io の Camera to Cloud 機能にも対応しています。RED が対応する Camera to Cloud 機能では、カメラの REC 停止直後に、ProRes 圧縮のプロキシ素材だけでなく、オリジナルの R3D RAW 素材をクラウドにアップロードすることができます。
IP ネットワーク接続に関しては、RED 公式チャンネルで公開されているデモ映像では、QNap 5G BaseT Adaptor により USB-C ケーブルを Ethernet 規格に変換した有線接続、Teradek Prism Mobile などのエンコーダーを活用したワイヤレス接続が紹介されています。
4. OLPF とノイズ性能に関して
RED のカメラシステムでは、光学ローパスフィルター(OLPF)もまた、映像の品質を左右する重要な役割を担っています。OLPF の種類によりノイズ性能が変わるというのが、そのポイントとなります。
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