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映像制作向けの HDR 対応ディスプレイ 25 機種を比較する

HDR 映像の “色管理” に欠かせない HDR 対応ディスプレイは、何を選べばいいのか? Apple の Retina Display をはじめ、映像制作用の 4K HDR ディスプレイを開発する SONY、Canon、EIZO、SmallHD、Atomos の 25 機種を比較していきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン 『UMU TOKYO』で公開されたものです。限定公開を目的に有料化しています。公開日:2022.7.10
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393

1. はじめに

HDR 環境で映像制作をする上で、映像のルックを何で確認するか? そのディスプレイ選びは、とても重要な要素となります。ここ数年の間で、HDR 対応ディスプレイは続々と開発されていますが、どんな場面でどのモデルを使えばいいのか?

HDR 対応ディスプレイの性能は、HDR 規格の最高峰である Dolby Vision で定められた HDR 対応ディスプレイの基準 をどれだけ満たしているか?を軸に見ていくと、そのポイントが整理しやすくなります。

▶︎ 1,000 nits 以上のピーク輝度
▶︎ 200,000:1 以上のコントラスト比
▶︎ 黒レベルが 0.005 nits 以下
▶︎ 色域が P3 規格の 99% 以上
引用:Dolby Vision for Content Creators

引用:Dolby Vision for Content Creators

以降、今回の記事では、直下型、エッジ型、ローカルディミング、True 10-bit、10-bit(8+2)FRC など、ディスプレイの違いを理解する上で覚えておきたい基礎用語の解説を交えながら、Apple、SONY、Canon、SmallHD、Atomos、EIZO 各社が提供する HDR 対応ディスプレイ 25 機種を紹介していきたいと思います。


2. Apple の HDR 対応ディスプレイ

Apple は Display P3 規格を提唱するなど、近年では、広色域のディスプレイ開発をリードする存在となっていますが、Apple の開発する Retina ディスプレイは、年々その性能が向上しています。

Pro Display XDR - Apple

Retina は “網膜” を意味する言葉ですが、Retina ディスプレイの大きな特徴は、その きめ細かな質感 にあります。一般的な TV 画面が 72 ppi であるのに対し、Retina ディスプレイを搭載する iPhone の画素密度は 326 ppi 以上あり、印刷物(350dpi)とほぼ同じレベルとなっています。もちろん画面サイズの差はありますが、最新の MacBook Pro 16 でも 254 ppi の高密度を実現しています。

Retina ディスプレイが登場したのは、2010 年発売の iPhone 4 の頃ですが、当時は色空間がまだ sRGB の状態でした。その後、2016 年発売の iPhone 7 から色空間が Display P3 へと変わり、iPhone X からは IPS 液晶のディスプレイが 有機 EL に切り替わり、よりコントラストが向上していきます。

Super Retina XDR Display - Apple Support

そして、2019 年発売の iPhone 11 Pro より、Apple 史上初となる HDR 対応のディスプレイが搭載されるようになります。Apple の HDR 対応ディスプレイは 2 種類あり、❶ iPhone に搭載される有機 EL のモデルを Super Retina XDR、❷ MacBook Pro、iPad Pro などに搭載される IPS 液晶のモデルは Liquid Retina XDR と呼ばれています。

Pro Display XDR - Apple

Apple 製品には、SDI など映像業界の標準コネクタが付いていないので、撮影現場での運用はハードルが高くなりますが、最新の Apple の 32 型液晶ディスプレイ『Pro Display XDR』は、キャリブレーション機能が搭載されていたり、色空間の調整がしやすい仕様になっており、編集環境で色管理をするためのリファレンス・モニターとしては、問題なく使えるスペックとなっています。


3. SONY の HDR 対応ディスプレイ

これまで、SDR の業務用モニターの世界で絶大な信頼を得てきた SONY は、2015 年頃から HDR 対応モデルの提供をしています。4K HDR 対応ディスプレイの現行モデルには、以下の 4 種類があります。

SONY の最上位モデルである 31 型の液晶ディスプレイ『BVM-HX310』は、HDR 映像の業界標準のマスターモニターとして使用される “据え置き型” のモデルとなっています。日本では IMAGICA、Sony PCL、L’espace Vision など、大手の編集スタジオを中心に導入されているようです。

Sony - 4K HDR対応プクチャーモニター

それに対して、より小型で安価な『PVM-X1800』は、SDR 環境で定番の『PVM-A170』の後継機のような位置づけで、撮影現場で使用することを想定したモデルとなっています。この PVM-X シリーズは、BVM-HX310 と同じ液晶パネル を採用しており、数値的には BVM-HX310 と色域もコントラスト比も変わらないので、今後は HDR 撮影の定番モデルになりそうな印象があります。

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