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技術解説:キル・ボクスン

高速ロボットアームとアナログな撮影手法を組み合わせた、象徴的なアクションシーンが話題の Netflix 映画『キル・ボクスン』の撮影技術を分析していきます。フルサイズ規格のカメラで、Super 35 規格のレンズを使用するのはなぜ?

当記事は、動画制作のオンラインサロン UMU TOKYO で公開されたものです。限定公開を目的に有料化をしています。公開日:2023.6.8
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393

1. キル・ボクスンの世界観

2023 年のベルリン国際映画祭でプレミア上映された Netflix 製作の映画『キル・ボクスン』は、昼はシングルマザー、夜は暗殺を請け負う伝説の殺し屋として生きる女、キル・ボクスン(Gil Bok-soon)が繰り広げるアクション劇を描いた、韓国の映画作品です。製作費に関する情報は公開されていませんが、およそ 10 億円 と噂されています。

そのタイトルからも連想される通り、本作はクエンティン・タランティーノ監督映画『キル・ビル(Kill Bill)』をオマージュしたような、痛快なアクションに特徴がありますが、復讐劇の要素はなく、象徴的な 5 つのアクションシーンを軸に、物語が淡々と進行していきます。

アクションをどれだけ魅力的に描くか?に全振りしている印象がある本作は、シナリオを重視する韓国ドラマとしてはやや異質な作品とも言えますが、この記事では、Behind the Scenes 映像をもとに、その独特な映像表現の裏側にある、撮影のテクニックを分析していきたいと思います。


2. ALEXA Mini LF × Leitz Summilux-C

Behind the Scenes 映像を見るかぎり、本作ではカメラは ARRI ALEXA Mini LF が使用されているようです。

Netflix Korea

ALEXA Mini LF は、35mm フルサイズ規格の 4.5K CMOS イメージセンサーを搭載しており、ARRI のシネマカメラの中では、ALEXA Mini(2.8K)に次ぐ小型・軽量なモデルとなります。Netflix Approved の認証を得ている ARRI 社のカメラが 4 機種しかないこともあり、Netflix 製作の韓国ドラマのほとんどが、この ALEXA LF シリーズで撮影されています。

ALEXA Mini LF - ARRI

Behind the Scenes 映像では、レンズをはっきり確認できませんでしたが、撮影スタッフの SNS 投稿を見るかぎり、本作では、レンズは Leica のシネレンズである Summilux-C が使われてるようです。

Summilux-C は、イメージサークルが Super 35 規格なので、35mm フルサイズ規格の ALEXA Mini LF では撮像範囲(Lens Illumination)が足りず、イメージの周辺解像度があまくなり、周辺光量が落ちた状態となってしまいます。

SUMMILUX-C - Leitz Cine

Leica には、他にも THALIA、ELSIE、Leitz Prime など、35mm フルサイズ対応のシネレンズがたくさんある中で、あえて Super 35 規格の Summilux-C が選ばれた意図は分かりませんが、ARRI ではフルサイズ規格のカメラでも、Super 35 規格のレンズを使いやすくするためのサポートとして、Frame Line & Lens Illumination Tool というブラウザ型のツールが開発されています。

Frame Line & Lens Illumination Tool - ARRI

Frame Line & Lens Illumination Tool では、ARRI のカメラの機種と収録設定を選択すると、さまざまなレンズの周辺光量の落ち具合やケラレのシミュレーションが可能となります。試しに、カメラを本作で使用されている ALEXA Mini LF にして、レンズを SUMMILUX-C 35mm T1.4 に設定してみると、以下のような結果となります。

記録フォーマットが、イメージセンサー全域を使用する 4.5K OpenGate の設定では、レンズを開放 T1.4 で使用するかぎりは、周辺光量落ちの影響があまりなく、撮像範囲も足りている印象がありますが、T5.6 などレンズを絞るとケラレが発生してしまいます。

試しに、記録フォーマットを 4KUHD 16:9 に設定してみると、以下のような結果となります。レンズを開放 T1.4 で使用する場合は、周辺光量落ちがあまりなく、撮像範囲も足りているように見えます。

一方、レンズを T5.6 に絞ると周辺光量落ちが目立ちはじめますが、4.5K OpenGate の設定で発生したようなケラレは起こらず、撮像範囲もギリギリ足りているように見えます。本作では、このような判断から Summilux-C が使われていると考えられますが、実際の映像を見てみると、周辺の解像力があまいカットも数多く見られます。

その他、本作のアクションシーンの撮影では、ズームの動きも使われているので、もしレンズが Leitz Cine 製品で揃えられている場合は、Leitz Zoom シリーズが使用されていると推測されます。

Leitz Zoom

また、Behind the Scenes の映像を見るかぎり、室内撮影でも常にレンズフィルターが使用されているようなので、作品全体を通して、何かしらのディフュージョン系のフィルターが使用されていると推測されます。

HanCinema

3. 多機能リモートヘッド Mo-Sys L40

グリップ機材に関しては、おもにアクションシーンの撮影で、クレーンとリモートヘッドが使用されています。Behind the Scenes 映像では、GFM 社のジブ・アーム仕様のカメラドリーに、StarTracker の開発で知られる Mo-sys 社のリモートヘッド L40 が使われている様子が見られます。

Netflix Korea

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