TOYO RENTAL Lab.6 速報!
Cooke のレンズは何が優れてるのか? 話題のミラーレス一眼向けの小型シネレンズ Cooke SP3 の質感を Leica R、Sony G Master シリーズと比較していきます。SP3 の利用を検討されてる方は、必見です。
1. Cooke SP3 とは?
今回のテストで検証する SP3 は、英国の老舗レンズブランド Cooke Optics が、1920〜1960 年代に製造していた単焦点レンズ Speed Panchro の光学設計を再現した、ミラーレス一眼向けの小型・軽量のシネレンズです。
Cooke は、その 100 年を超える開発の歴史の中で、映画のフィルム撮影に最適なレンズを作り続けてきましたが、デジタルカメラが普及するにつれ課題になりはじめた、デジタル特有の “エッジ感” を解消するために、オールドレンズの質感を再現したモデルを開発することになります。
そうした流れの中で、2017 年に Cooke は Speed Panchro Series II、Series III のルックを再現した、Panchro/i Classic という単焦点レンズを開発しますが、SP3 はその Panchro/i Classic と同じルックになるよう設計されています。
今回のテストでは、Panchro/i Classic と SP3 の比較はしていませんが、CVP のレビュー動画を見るかぎり、そのルックは非常に似ていることがわかります。動画内では「SP3 の方が Panchro/i Classic よりもコントラストが高く、focus fall-off の具合が強くなる」と評価されています。
ルックに関しては、Cooke のシネレンズは Cooke Look といわれる設計思想のもと、全てのモデルで統一感のあるルックを目指して設計されている、という特徴があります。Cooke Optics 公式サイトでは、以下のように説明されています。
また Cooke Optics の光学設計者である Jonathan Maxwell 氏は、Film and Digital Times のインタビューの中で、Cooke Look の技術的な側面を解説していますが、その重要なポイントとして、色収差と解像力のバランス という点を挙げています。
そして SP3 に関しては、光学設計者である Graham Cassely 氏が、その特徴として 1950〜1960 年代の Speed Panchro Series II、Series III で採用されていた、単層コーティング(Single Layer Coating)の技術を使用している、という点を紹介しています。
単層コーティングの効果により、現代的なレンズよりもガラスの表面反射が増し、光の透過率が低くなるため、SP3 はレンズの開放値が T2.4 と暗めで、フレアが発生しやすくなっています。またコントラストが低くなることで、解像力がソフトに感じられる、という点も指摘されています。
また当時の Speed Panchro は、色収差などレンズの 高次収差(Higher order abberration)があまり補正されておらず、イメージ周辺部でコントラストが落ちて、発色が悪くなるという特性がありましたが、SP3 では、そうした点も忠実に再現されているという話です。
さらに SP3 は、ミラーレス一眼向けに設計されているため、フランジバックが短い という点にも特徴があります。
フランジバック(Flange Focal Distance)は、レンズマウント面からイメージセンサー面までの距離を意味する用語ですが、フランジバックが短くなることで、テレセントリック性(レンズを通過する光の直進性)を上げやすくなり、CMOS イメージセンサーに有利な構造が作りやすくなる、というメリットがあります。
参考までに、SP3 は 4 種類のレンズマウントに交換可能とされていますが、フランジバックの距離の問題で、PL、EF マンウトを搭載したカメラでは使用できないので、その点は注意が必要となります。
例外として、ARRI の ALEXA シリーズに関しては、P+S Technik 社のマウント変換アダプター SPM-Camera Mount を介して、M マウントに変換することで利用可能となるようです。
また ProVideo Coalition の取材によると、ミラーレス一眼を利用するユーザー層に届けるために、SP3 の開発費用は、PL マウントを搭載した Cooke の標準的なレンズの 10% ほどに低く抑えられており、レンズの製造もイギリス国内の工場ではなく、中国のサードパーティ業者に委託しているようです。
2. Sony G Master の特徴まとめ
一方、G Master は Sony のミラーレス一眼向けに開発された、E マウントを採用する写真用レンズになります。一眼レフカメラ α の生みの親となる、Konica Minolta のレンズ技術をもとに開発されています。
E マウントの単焦点レンズには、Sony の標準モデルとなる G レンズ、Carl Zeiss が開発する ZA レンズなどがありますが、G Master は Canon の L(赤玉)レンズにあたるような、高性能なラインとして位置付けられています。
今回のテストでは、以下の 5 本を使用しています。
G Master は “高い解像感と美しいぼけの両立” をコンセプトに、超高度非球面 XA レンズ(Extreme Aspherical)などの技術により、色収差やコマ収差などの高次収差を徹底的に補正して、高周波成分を上げるかたちで開発されています。このあたりは、Cooke のレンズとは真逆の設計思想といえます。
また特筆すべき点として、G Master の 100mm は STF(Smooth Trans Focus)という特殊な構造をしており、開放値の表記は F2.8 ですが、イメージセンサーに届く実際の光量を意味する T 値は 5.6 となります。レンズ内部で光量が落ちる理由としては、ぼけ味をなめらかにするために組み込まれている、アポダイゼーション(APD)光学エレメント の影響によるもの、とされています。
3. Leica R の特徴まとめ
Leica R は、1964 年に発売された Leica の 35mm 一眼レフカメラ Leicaflex 向けに開発された、写真用の単焦点レンズのシリーズです。1 cam、2 cam、3 cam、R only、ROM という 5 世代のモデルがありますが、今回のテストでは 1980〜1990 年代に製造された、以下の 4 本を使用しています。
Leica のレンズは、開放値ごとにモデル名が割り振られており、f1.2 以下のモデルは Noctilux、f1.4 は Summilux、f2 は Summicron、f2.8 は Elmarit、f3.5 は Elmar と呼ばれています。
またルックに関しては、微妙な階調を分離させることで立体感を生み出す、マイクロコントラスト の高さが特徴とされています。下の画像は、左側がマイクロコントラストの低い状態、右側がマイクロコントラストの高い状態を表しています。
今回のテストでは、オールドレンズのリハウジングで有名な Duclos Lenses 社により、シネマ仕様に改造された Cine-Mod モデルを使用していますが、レンズマウントが EF になるので、マウント変換アダプターを介して、Sony E マウントに変換して使用しています。
また光学設計に関しては、Leica R は反射防止コーティングと合わせて、必要に応じてマルチコーティングを使用することで、可視スペクトルの全域でほぼ 100% の透過率が実現されており、レンズ絞りが開放の状態でも色収差などの高次収差が補正されている、という話です。
以降、Sony G Master、Leica R との比較を通して、SP3 のルックを分析していきたいと思います。
4. 基本的なルック
最初のテストでは、中望遠レンズの質感を比較していきます。シチュエーションとしては、自然光の影響があまりないオフィス空間で、窓外から流しこんだ Aputure 600c Pro の面光源をキーライトに、女性モデルを撮影しています。人物のコントラスト比は、4:1 の状態です。
カメラは、Sony FX3 を使用しています。
まずは、基準となる Cooke SP3 のイメージがこちらになります。SP3 は 75mm、G Master は 85mm、Leica R は 90mm と、各レンズで焦点距離が異なるため、画角は DaVinci Resolve 上で Leica R のサイズ感に合わせています。
それに対して、Sony G Master のイメージは以下のようになります。
G Master は、SP3 に比べてコントラストが高く、彩度が強く出ています。また解像力に関しては、写真用のレンズとして開発されていることもあり、G Master の方がシャープな印象です。
続いて、Leica R のイメージを見ていきます。
Leica R のルックは、コントラスト感・彩度・解像力ともに G Master と似ており、SP3 よりコントラストと彩度が高く、シャープネスも強く見えます。また今回のテストで使用した Summicron-R 90mm f2 に関しては、SP3、G Master と比較すると、色が YG(黄緑色)方向 に転んでいます。
参考までに、サイズを調整する前の SP3 のイメージは、以下の通りです。
5. ボケ感
続いて、各レンズの ボケ感 を比較していきたいと思います。シチュエーションとしては、女性モデルが倉庫内で作業をしている想定で、背景にメタリックな質感のものを配置して、玉ボケが発生しやすい状況にしています。
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