Sidus Link：基礎知識を学ぶ
Aputure 製品を iPhone でリモート操作できる無料アプリ『Sidus Link（サイダスリンク）』を使う前に、覚えておきたい “Wireless DMX” の基礎知識を紹介していきます。
1. Wireless DMX とは？
ライトを置いて、光の強さや色を調整して、モニターを通してその雰囲気を確かめて、修正する。こうしたライティングの基本的な作業を早めるために、これまでは照明スタッフの人数を増やすというのが、そのセオリーとなっていました。その原則は今後も変わらないかも知れませんが、その作業をより効率化できるのが、Sidus Link をはじめとする Wireless DMX の技術です。
DMX（DMX512）というのは、照明卓でライトの遠隔操作をしたり、プログラムを組んで自動制御をするための 業界標準規格 を意味するものですが、これまではライトと照明卓を専用の DMX ケーブルでつなぐ、有線接続がメインでした。それが最近では、この DMX 接続を無線化する技術が生まれ、その無線接続による DMX 制御のことを Wireless DMX と呼ぶようになっています。
また LED ライトが普及するにつれ、この Wireless DMX の技術はイベント業界だけでなく、映画・CM・MV 業界など様々なジャンルで使われるようになり、最近では iPad、iPhone などのモバイル端末で、だれもが気軽に使えるツールとなっています。
2. Sidus Link とは？
安くて高性能な LED ライトのブランドとして知られる Aputure は、この Wireless DMX により、自社製品のライトを遠隔操作できる『Sidus Link（サイダスリンク）』というアプリを独自開発しています。アプリは iOS / Android 環境に対応していて、iPad、iPhone などのモバイル端末で操作できるような仕様になっています。
この Sidus Link を使うと、たとえば以下のようなことができます。
・光量、色などライト設定の遠隔操作
・ライトをグループ化してまとめて制御する
・光にエフェクト効果をかけられる
・簡単なプログラムによるライトの自動制御
・ライト設定の保存・読み出し
またさらに高度な機能として、この Sidus Link には、簡単なプログラムを組んでライトの自動制御ができる Sidus Pro FX だったり、複数スタッフ（端末）で共同作業ができる CC Group という機能も用意されていますが、基本的にそれらの機能をすべて無料で使えるというのが、このアプリの最大の魅力ともいえます。
一方、Sidus Link の iPad 版には 有料プラン も用意されています。この有料版（Subscription）は、無料版と何がどう違うのか？ Aputure Japan の回答によると、どちらも基本的な機能は同じで、有料版ではクラウドに保存するデータ容量を増やせたり、CC Group で共同作業できる人数を増せる、などの違いがあるようです。
また iPad 版の無料プランでは、一部で機能制限があり、コンソール画面、Picker FX などの機能が使えなくなっているので、解除するためには有料プランへの切り替えが必要になります。
3. Wireless DMX の通信技術
続いては、通信に関するお話です。一般的にケーブル接続のメリットは、途中で接続が切れにくいという “信頼性” の部分にありますが、それをワイヤレス化する Wireless DMX では、ケーブル接続と同じく、どんな環境でも信号が途切れない信頼性の高い通信技術が必要となります。
そんな信頼性の高い通信技術として、いま業界で最もよく知られているのが、LumenRadio 社が開発した CRMX（Cognitive Radio Multiplex）という規格です。この CRMX 規格は、デジタルシネマ業界の最大手である ARRI をはじめ、Aputure、Nangang、Astera、Fiilex など、最近の LED ライトの数多くのモデルで採用されています。
一方、Aputure 製品のライトのワイヤレス接続では、Bluetooth Mesh 5.0 技術に基づいた Sidus Mesh ネットワーク という通信技術が使われているため、Bluetooth 接続がデフォルトの設定となっています。Bluetooth Mesh は、個々のライト同士を Bluetooth 接続させることで、より強力なネットワークを築くという分散型のワイヤレス技術です。
この Sidus Mesh ネットワークは、最大 400m 離れた状態で iPhone、iPad での遠隔操作が可能とされていますが、ライト同士の距離が 80m 以上離れるとネットワークから外れてしまう、という特徴があります。
4. ワイヤレス未対応のライトを使うには？
LS 300d、LS C120d など Aputure の初期モデルは、Bluetooth とは異なる通信規格（2.4GHz RF ワイヤレス接続）を採用しているため、そのままの状態では、Sidus Link アプリに接続することができません。Aputure はこうした古い世代のモデルのために『Sidus Link Bridge』という 2.4GHz RF の電波を Bluetooth に変換する中間トランシーバーを用意しており、この Bridge を介することで、Aputure の古い世代のライトでもアプリに接続できるようになります。
また Bluetooth 接続に対応する新しい世代のモデルに関しても、この Bridge を使うことで、Sidus Link の操作で発生する 遅延（ライトの反応速度）を改善できる、という裏技もあるようです。
一方、CRMX を開発する LumenRadio 社は、ワイヤレス通信に対応していない古い世代の LED ライトのために『MoonLite』というアクセサリー機器を開発しています。この MoonLite をライト側の DMX 端子に取り付けることで、Luminair など CRMX に対応した Wireless DMX の操作アプリに接続することができるようになります。
また非公式の情報では、Aputure でも Moonlight と同じように DMX 端子に接続できるアクセサリー機器を現在開発している、という話もあります。
5. まとめ
この記事で紹介した Aputure Sidus Link をはじめとする Wireless DMX の普及は、ライティングの進め方であったり、スタッフ構成、制作予算など、あらゆる面でこれまでの撮影の常識を変える、大きなトレンドになろうとしています。
イベントや舞台照明では、以前からステージを見ながら照明卓で光を調整するのが当たり前でしたが、デジタルシネマ作品の撮影、インタビュー撮影などの現場で、その舞台照明と同じような環境で、モニター画面を見ながら iPhone で光の調整ができるというのは、まさに画期的な変化といえます。
その背景には、ここ数年で爆発的に普及のすすんだ Aputure 製品をはじめとする、安くて高性能な LED ライト の存在があります。2007 年、写真と動画の境界線を破壊した Canon EOS 5D Mark II の登場により、動画撮影の常識が大きく変わったように、いま照明の世界もまた大きな転換点を迎えようとしています。
次回の記事では、Sidus Link アプリの “基本操作” を詳しく解説していきたいと思います。Sidus Link を実際に体験してみたい方は、4/17 Vook School 渋谷校にて、Sidus Link の基礎から応用までを学べる ワークショップ を開催しますので、是非お気軽にご参加ください 👋🏻
※ 当記事は、必要に応じて加筆・修正を加えアップデートをおこないます。
---------- Reference ----------
🗒 Sidus Link
https://www.sidus.link/software
🗒 Sidus Link 101｜Aputure
https://medium.com/aputure/sidus-link-101-ae2b9c29493
🗒 MoonLite｜LumenRadio
https://lumenradio.com/products/moonlite/
🗒 SkyLink｜ARRI
https://www.arri.com/en/lighting/led/discontinued/skylink
🗒 Bluetooth Mesh vs CRMX｜Cinematography Mailing List
https://cml.news/g/cml-lighting/topic/bluetooth_mesh_vs_crmx/78615272
📽 Introducing Sidus Link Bridge｜App Control for Legacy Aputure Lights｜Aputure
https://youtu.be/xZe0U6Mzby4
📽 Sidus Link Bridge｜User Guide｜Aputure
https://youtu.be/2IUI9qpr7WY
📽 Creating & Using Scenes｜Sidus Link® Tutorial 103｜Aputure
https://youtu.be/MiMeeDnNdqg
📽 How to Use Magic Program GO｜Sidus Link® Tutorial 108｜Aputure
https://youtu.be/J4iFcr91Y1M
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